法律解釈の手筋

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一橋ロー入試 平成28年度(2016年度) 民事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1

 1 第1に、Aは、仮に確認の利益が認められたとしても本件Bの確認訴訟は、金額の上限を定めていないため、訴訟物特定責任を果たしておらず、訴え却下判決がなされるべきであるとの反論をすることが考えられる。

 (1) 判例[1]は、一定額を超えては債務は存在しないことの確認を求める訴えにおいて、金額の上限を定めない請求の趣旨を認めない。しかし、かかる判例は契約型における債務不存在の事案であって、損害賠償型での事案には判例の射程は及ばないと考える。

    そして、法は不可能を強制できない以上、損害賠償型の債務不存在確認訴訟においては、上限を定めない訴えも適法と考える。

 (2) したがって、本件でも上限を定めない債務不存在確認訴訟は適法である。

2 第2に、Aは、BのAに対する債務不存在確認の訴えは、確認の利益を欠くため訴え却下判決をすべきであるとの反論をすることが考えられる。

 (1) 訴えの利益とは、当該訴訟物に対する紛争解決の実効性ないし必要性をいう。そして、確認訴訟においてはその対象が無限定に広がるおそれがあり、訴訟経済に反することになりかねないため、必要かつ適切と認められる場合にのみ確認の利益が認められると考える。

    そこで、方法選択の適否、対象選択の適否、即時確定の利益の観点から総合的に考慮して決すると考える。そして、交通事故における債務不存在確認の訴えの先制攻撃的性格にかんがみ、その確認の利益は厳格に判断すべきであると考える[2]

 (2) 本件では、被害者Aの交通事故による症状が固定されておらず、被害者側からの給付訴訟を期待できず、いまだBにはその地位に対する不安危険が現実化しているとはいえない。また、AはBになんらの請求もしていないため、この点からも、Bの地位の不安危険が現実化しているとはいえない。

    したがって、即時確定の利益に欠き、確認の利益は認められない。

 (3) よって、Aの反論は認められ、裁判所は訴え却下判決をすべきである。

第2 設問2

 1 第1に、Aは別訴を提起して、Bに対し不法行為に基づく損害賠償請求をしていくことが考えられる。

(1) まず、かかる訴えは重複訴訟の禁止(142条)に反し、訴え却下判決をすべきではないか。

   ア 同条の趣旨は、被告の応訴の煩、訴訟不経済、既判力定食のおそれといった弊害の防止にある。

     そこで、「訴え」にあたるかどうかは①当事者の同一性②審判対象の同一性を基準に判断すべきと考える。

   イ 本件では、原告被告が逆転しているが、当事者は同一といえる(①充足)。審判対象については、前訴の債務不存在確認の訴えは給付訴訟の反対形相であるため、訴訟物たる権利関係はAのBに対する損害賠償請求権である。後訴も、AのBに対する不法行為に基づく損害賠償請求である。

     したがって、訴訟物たる権利関係が同一であるため、審判対象が同一といえる(②充足)。

   ウ よって、本件別訴提起は条文上訴え却下判決となるが、裁判所としては前訴との弁論併合(152条)が望ましい。これによって、上記の訴訟不経済、既判力抵触のおそれを回避できるからである。

 (2) もっとも、本件別訴が提起されたことによって、前訴確認訴訟が確認の利益を欠き、本件後訴が適法とならないか。

   ア この点、給付訴訟が反訴提起された場合は、後述のとおり前訴債務不存在確認訴訟が確認の利益を喪失することになる。そうだとすれば、給付訴訟が別訴提起された場合も、債務不存在確認訴訟の提訴強制機能に基づく目的は達成されたといえ、確認の利益が喪われるとも思える[3]

   イ しかし、反訴提起において確認訴訟の必要性が喪われるのは、同一期日に同一裁判対での判断がなされることで、既判力抵触のおそれがないことを前提に、前訴後訴が「包摂」関係にあるとするからである。そうだとすれば、別訴提起がされた場合は既判力抵触のおそれによる司法への信頼が害される以上、その前提がなく「包摂」関係にあるとはいえない[4]

   ウ したがって、かかる結論は採用できない。

 3 第2に、Aは反訴(146条)を提起して、Bに対し、不法行為に基づく損害賠償請求をすることが考えられる。

 (1) まず、本件反訴は、本訴と同一の訴訟物たる権利関係であり、請求の関連性がある。旧請求の訴訟資料をそのまま利用できる。

 (2) 次に、本件反訴が、重複訴訟の禁止(142条)にあたり、訴え却下判決をすべきでないか。前述の基準により判断する。

   ア 前述のとおり当事者は同一である(①充足)し、訴訟物たる権利関係も同一であることは前述と変わらない(②充足)。

   イ もっとも、反訴であれば本訴と同一裁判体で審理判断される以上、訴訟不経済にはならないし、既判力抵触のおそれもない。そうだとすれば、重複訴訟禁止の趣旨が妥当しない。

   ウ したがって、本件反訴は適法であると考える。

 (3) それでは、本件反訴が適法である以上、前訴の債務不存在確認訴訟については、もはや確認の利益が喪失したとして、裁判所は訴え却下判決をすべきではないか。

   ア この点、債務不存在確認訴訟は判決によって既判力しか生じないのに対して、給付訴訟は既判力に加えて執行力も生じるところ、給付訴訟が債務不存在確認素養を包摂する関係にある。そうだとすれば、反訴提起によってもはや本訴についての本案判決の必要性は失われた[5]といえる。

     そこで、債務不存在確認訴訟において、反訴で給付訴訟が提起された場合には、本訴の裁判が既に熟しているなど特段の事情のない限り、本訴の確認の利益は喪われると考える。

イ したがって、本件でも裁判所は本訴については訴え却下判決をすべきである。

 

[1] 最判昭和40・9・17参照。

[2] 高橋宏志『重点講義 民事訴訟法〔第2版補訂版〕』(2014、有斐閣)382頁参照。東京高判平4・7・29も、一般論として「交通事故による損害賠償債務の不存在確認の訴えが、その必要性につき問題があって確認の利益がないとされる場合があり得ることは否定できない」と述べ、その例として、①「例えば被害者の症状が未だ固定していない場合」②「被害者からは何らの請求さえされていない場合」③「当事者間で誠意ある解決を目指して協議、折衝が続けられていて、その続行、解決を妨げる何らの事由もない場合」をあげている。

[3] 松本博之、上野泰男『民事訴訟法〔第8版〕』(2015、弘文堂)215頁参照。

[4] 勅使川原和彦『読解 民事訴訟法』(2015、有斐閣)124頁参照。

[5] 最判平16・3・25参照。