法律解釈の手筋

再現答案、参考答案、法律の解釈etc…徒然とUPしていくブログ… ※コメントや質問はTwitterまで!

『刑法事例演習教材[第2版]』 問題17 「逆恨み」 解答例

解答例

1 甲が、A市警察署に対し、合計30回にわたってデタラメな内容の110番通報をした行為について、偽計業務妨害罪(233条)が成立する。

(1) 甲が妨害した業務はA市警察の緊急出動という公務であるが、「業務」にあたる。

  ア 「業務」とは、社会生活上の地位に基づき継続して行う事務又は事業[1]をいうところ、公務も業務に含まれると考える。もっとも、強制力を行使する権力的公務については妨害排除力を備える以上、偽計という弱い妨害態様からの保護する必要性が認められない。そこで、強制力を行使する権力的公務については「業務」にあたらない[2]と考える。

  イ 本件では、甲が妨害しているA市警察の公務は警察活動であるところ、強制力を行使する権力的公務にあたるとも思える。しかし、本件で問題となった公務は、通報に基づく緊急出動であるところ、緊急出動それ自体には強制力行使が観念できない。

  ウ したがって、本件におけるA市警察の公務は「業務」にあたる。

(2) 「偽計」とは、人を欺罔し、あるいは人の錯誤又は不知を利用すること[3]をいう。本件では、甲はデタラメな内容の110番通報をしており、A市警察の緊急出動に向けた欺罔行為を行っている。したがって、「偽計」にあたる。

(3) 偽計業務妨害罪は危険犯であるところ、実際に業務を「妨害」したという結果発生は不要である。

(4) よって、甲の上記行為に偽計業務妨害罪が成立する。

2 甲が、インターネット掲示板にデタラメな犯行予告を書き込んだ行為に、A市警察刑事課長Bに対する威力業務妨害罪(234条)が成立する。

(1) 本件において甲が妨害した業務はA市警察の自動車警らという公務であるが、「業務」にあたる。

  ア 本件においても、A市警察の自動車警らというパトロール行為それ自体は強制力行使が行われる公務ではない。

  イ したがって「業務」にあたる。

(2) 「威力」とは、人の自由意思を制圧するに足りる勢力[4]をいい、暴行・脅迫よりも広い。本件では、甲の書き込み内容は数日にわたって執拗に書き込まれており、また、狙いの相手も「次の月曜日」「A市内を警ら中のパトカー」に乗る運転手と特定されているところ、客観的にみて甲の予告した犯行が実際に行われる危険性があると読むことができる。そして、予告された反抗を阻止するためには、A市警察としては反抗を事前に防止するために予告された月曜日のパトロールを強化しなければならなくなる。以上にかんがみれば、甲の上記行為はA市警察の自由意思を制圧するに足りるものといえる。したがって「威力」にあたる。

(3) 甲は、上記事実を認識・認容しつつ上記行為を行っているところ、故意(38条1項)が認められる。

(4) よって、甲の上記行為に威力業務妨害罪が成立する。

3 甲の2の行為に、A市警察の自動車警らを行う警察官に対する脅迫罪(222条1項)が成立する。

(1) 「脅迫」とは、一般に人を畏怖させるに足りる害悪の告知[5]をいう。本件では、前述のとおり、客観的にみて甲の書き込んだ犯行の予告内容が実際に行われる可能性があるところ、A市の警ら活動をする警察官を畏怖させるに足りるものといえる。したがって、本件告知内容は「脅迫」にあたる。

(2) 甲の上記行為は、A市内を警ら中のパトカーに対し爆破するなど、害悪の告知の対象は警ら活動中の警察官の生命・身体に向けられており、「生命、身体」「に対」するものといえる。

(3) よって、甲の上記行為に脅迫罪が成立する。

4 甲が、甲の携帯電話を床に投げた行為に、Cに対する公務執行妨害罪(95条1項)が成立する。

(1) 警察官Cは「公務員」(7条1項)にあたる。

(2) Cは甲に対する任意取調べを行っているところ(刑訴法197条1項本文)、公務員が取り扱うすべての事務である適法な「職務」の「執行」にあたる。

(3) 「暴行」とは、公務員の身体に対し直接であると間接であるとを問わず不法な攻撃を加えること[6]をいう。本件では、甲は床に携帯電話を投げつけたにすぎないが、携帯電話が壊れるほどに勢いよく投げている上、壊れた携帯電話の部品が飛び散っている。また、甲の上記行為を行った場所とCとの距離は3メートルとであり、勢いよく投げて飛び散った携帯電話の部品や本体がCに飛んでくる程度の至近距離であることにかんがみれば、Cに対して何らかの物理的影響があるといえる。したがって、甲の上記行為は「暴行」にあたる。

(4) よって、甲の上記行為に公務執行妨害罪が成立する。

5 以上より、甲の一連の行為に①偽計業務妨害罪②威力業務妨害罪③脅迫罪④公務執行妨害罪が成立し、②と③は社会通念上同一の行為から生じたものであるため観念的競合(54条1項前段)、①、②③、④はそれぞれ保護法益および行為態様が異なるため併合罪(45条)となる。

以上

 

[1] 大判大正10年10月24日、山口青本・268頁参照。

[2] 偽計業務妨害罪においては権力的行使であっても妨害排除をなし得ない以上、いかなる公務も「業務」にあたるとする見解も有力である。西田各論[第6版]・128頁参照。

[3] 山口青本・272頁参照。

[4] 山口青本・272頁参照。

[5] 山口青本・229ページ参照。

[6] 最判昭和37年1月23日参照。