法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成30年度(2018年度) 刑事訴訟法 解答例

 解答例 

第1 問題1 (以下、刑事訴訟法は法名略。)

 1 小問1について

   被疑者段階において検察官の請求により勾留された者が、同一の犯罪事実で交流機関に起訴された場合には、起訴と同時にそれまでの被疑者勾留が被告人勾留に切り替わり、特別の手続なしに被告人勾留が開始される(208条1項・60条2項参照)。

 2 小問2について

   被疑者勾留には必ず逮捕が先行していなければならない(逮捕前置主義 207条1項)[1]。そして、身体拘束は裁判官の審査を経る被疑事実にのみ及ぶ事件単位原則によれば、逮捕が前置されているかどうかは被疑事実の同一性によって決する。本件では、A方への住居侵入とB方への住居侵入は基本的事実の同一性が認められないため、被疑事実の同一性が認められない。したがって、裁判官は被疑者をB事件について勾留することはできない。

 3 小問3について

   Xに殴られた旨を述べた供述を録取した調書は、公判廷外期日になされた供述を内容とする証拠で、かつ、Xの犯人性という要証事実との関係ではその内容の真実性が問題となるため、伝聞証拠(320条1項)にあたるため、原則として証拠能力が認められず、証拠として用いることができない。まず、被告人が同調書を証拠とすることに同意すれば326条によって証拠能力が認められる。次に、同調書は検面調書であるため、321条1項2号後段の要件、すなわち①供述者の署名又は押印②不一致供述③相対的特信情況が認められれば、証拠として用いることができる。

第2 問題2

 1 下線部①について

 (1) ブルーレイディスクの提供を受けた点について、

KらはA銀行三田店の支店長に対しブルーレイディスクの提供を求めその提供を受けているため、本件ディスクの占有取得過程については相手方の同意がある。したがって、領置(221条)にあたり、令状なくして占有取得をすることができる。

したがって、上記行為は適法である。

 (2) 本件ディスクの解析をした点について

    「押収物」である本件ディスクについては、「必要な処分」(222条1項、111条2項)として、撮影データの解析をすることができる。

    したがって、上記行為も適法である。

 (3) よって、下線部①行為は適法である。

 2 下線部②について

 (1) まず、「強制の処分」にあたるとすれば、捜査機関が五官の作用により認識する検証(218条1項)にあたるにも関わらず令状を経ていない点が令状主義(憲法35条、刑訴法218条1項)に反するとも思えるため、問題となる。

ア 刑訴法が強制処分に厳格な法定要件を設けているのは、被疑者の重要な権利利益を侵害することになる点にある。

そこで、「強制の処分」とは、①相手方の明示又は黙示の意思に反して②重要な権利利益を制約する処分をいうと考える。

   イ 本件では、公道上を歩行するXの容ぼう等を撮影したにすぎず、プライバシーに対する合理的期待が減少していたといえ、重要な権利利益の制約は認められない(②不充足)。

    したがって、本件行為は「強制の処分」にはあたらない。

 (2) もっとも、任意処分だとしても、「目的を達するため必要な取調」(197条1項本文)といえるか。

   ア 捜査比例の原則から、「目的を達するため必要な取調」とは、捜査の必要性

緊急性を考慮した上、具体的状況の下で相当と認められることをいう。

イ まず、前述のとおり重大事件であるため、捜査の必要性がそもそも高い。また、捜査線上にXが浮上しているところ、Xの容ぼう等を撮影してATMの防犯カメラの犯人と照合する必要性がある。そして、写真では動きによる照合ができず、捜査の目的を達することができないため、ビデオカメラによる撮影の必要性もあった。これに対して、Xの被侵害利益は10分間も自己の公道上の歩行を撮影されることである。そもそも公道上という要保護性の低い場所での撮影である上、公道上であれば、被疑者の趣味・趣向が知られるという不利益も生じにくく、容ぼう等の撮影以外の不利益が生じない。また、強盗殺人という重大事件であることにかんがみれば、10分という比較的長時間の撮影をして、防犯カメラの犯人とXの照合に慎重を期す必要もあるといえる。そうだとすれば、本件行為は具体的状況の下で相当といえる。

   イ したがって、本件行為は任意処分としても適法である。

 (3) よって、下線部②行為は適法である。

以上

 

[1] 同条の根拠は、①身体拘束という重大な基本権侵害処分を二段階に分け、各段階に裁判官の審査を介在させることにより、慎重を期すこと、②比較的短時間の拘束である逮捕段階において、被疑事実を告知しこれに対する弁解を聴取した上で、捜査機関限りの判断と裁量により被疑者を釈放する余地を認めることにより、いきなり長期間の身体拘束に及ぶのを回避する途を設定しておくことにある。酒巻匡『刑事訴訟法』(有斐閣、2015)71頁参照。