法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 令和元年度(2019年度) 刑事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1 (以下、刑事訴訟法は法名略。)

 220条3項、220条1項1号

第2 設問2

 199条1項、201条2項、73条3項

第3 設問3

 1 「逮捕の現場」(220条1項2号)として捜索できる範囲はどこまでか。「逮捕の現場」の意義が問題となる。

 2 逮捕に伴う無令状の捜索・差押えが許される趣旨は、逮捕の現場には逮捕に係る被疑事実に関連する証拠の存在する蓋然性が一般的に高い点にある。

   そこで、「逮捕の現場」とは、令状の発付を受ければ捜索できる範囲をいうと考える。

 3 本件では、Xを実際に逮捕したのはA宅の2階のベランダであるが、ベランダとA宅の住居内はAという同一人の管理権に属するため、令状の発付を受ければ、A宅内についても捜索できるといえる。

 4 よって、本件における「逮捕の現場」とは、A宅のベランダ及び住居内と考える。

第4 設問4

 1 まず、A宅隣家の庭は、Xを逮捕したA宅と同一の管理権に属しないところ、「逮捕の現場」にはあたらない。したがって、220条1項2号に基づく捜索・差押えとして隣家の住人の同意なしに、その敷地に立ち入ることは許されない。

 2 もっとも、それではLらの捜索・差押えは功を奏しないところ、Lらに隣家の庭への立ち入りを認める必要性が高い。

 (1) そもそも刑訴法が逮捕に伴う無令状捜索・差押えを認めているということは、捜索差押えの目的を達成するために合理的にみて必要かつ相当な行為も許容しているといえる。222条1項・111条1項の「必要な処分」は、これを確認する規定であると考える。

    そこで、捜索・差押えの目的を達するために必要最小限度の合理的付随措置は、「必要な処分」として許容されると考える。

 (2) 本件では、隣家の庭に立ち入ることができなければAのスマートフォンを差し押さえることができない。本件被疑事実はAの覚せい剤取締法違反(営利目的所持)であるところ、Aのスマートフォンには覚せい剤売買のやり取りの記録されたメールが残っている可能性が高く、被疑事実との関連性がある。それにも関わらず、Aのスマートフォンを差し押さえることができないとすれば、Lらは差押えの目的を達成することができない。そして、スマートフォンという重要な証拠物の押収に対して、侵害される法益は第三者の庭というプライバシーである。庭というのは完全に密閉された空間ではなく、公共の空間に近いものであることを考えると、被侵害利益は住居への侵入等に比べれば大きくない。以上にかんがみれば、隣家の庭への立ち入りは、Aのスマートフォンの差押えという目的達成のため必要最小限度の合理的付随措置といえる。

    この点について、無関係の第三者の法益を侵害することは一切許されないとして、かかる場合に「必要な処分」を否定する見解もある。しかし、かかる見解も証拠物を隠匿した第三者の身体に対しては帰責性を理由に「必要な処分」を認める見解が多数説である。しかし、帰責性の有無によって「必要な処分」の許容性を決定することは、111条1項の趣旨から妥当でない。したがって、「必要な処分」として許容されるかは、端的に捜索・差押えの目的達成のために必要か否かで判断すべきである。第三者の法益侵害については、当該行為が必要最小限度か否かという比例原則の観点から限定をすれば足りる。

 (3) よって、Lらは隣家の住人の同意なしに、その敷地に立ち入ることが許される。

以上