法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成28年度(2016年度) 憲法 解答例

解答例

第1 A県立大学の、入学試験において一定程度女性を優遇する改革は、男性受験生と女性受験生を不当に差別するものであり、憲法14条1項に反し違憲ではないか。

 1 まず、パターン1とパターン3は、男性受験生に比して女性受験生を優遇する点で、別異取扱いが認められる。

 2 かかる取扱いは正当化されるか。

 (1) まず、上記別異取扱いは性別という個人の努力によって変更することのできない地位に基づくものであり、疑わしい差別である。また、大学への入学は学問の自由(23条)の保障が及ぶものであるところ、上記別異取扱いは重要な法的地位に関するものである。確かに、本件は女性受験生を優遇する積極的差別是正措置であり、社会に構造的に蓄積した差別を矯正するため、緩やかな審査基準が妥当するとも思える。しかし、積極的差別是正措置は同時に差別を生むことにもなり、また、優遇策を受けた者に劣等の烙印を押し付けることにもなる。以上にかんがみれば、積極的差別是正措置も、疑わしい区別事由が問題となる場合には、厳格な審査基準に服すると考える。

    具体的には、やむにやまれぬ利益のために、限定的に策定された手段でない限り、正当化されないと考える。

 (2) パターン1について

    まず、本件別異取扱いの目的は、学内の多様性の確保にある。女性の理系分野の進学率が男性に比べて20パーセント低いのは、女性差別が残っていることが否定できない。A県立大学の場合、「男性中心的な雰囲気がある」こと「女性への配慮が見られない」ことがアンケート結果から指摘されているところ、女性進学率の低さは、社会の構造的に蓄積した差別状態であるといえる。そして、多様な学習集団は学習効率を促進し、多様化する職場と社会のために、学生によりよく準備させ、職業人としてよりよく準備させるものとなる。以上にかんがみれば、本件目的はやむにやまれぬ利益のためといえる。

    次に、本件手段であるが、パターン1は、一定の枠を女性受験生に割り当てるといういわゆるクォータ制である。パターン1の場合、女性であることを考慮要素とする以上に、女性受験生を優遇することになる。限定的に策定された手段といえるためには、個人として尊重されることが必要である。クォータ制は、個人としてではなく集団としてみる点で限定的に策定された手段とはいえない。

    したがって、パターン1は正当化されない。

 (3) パターン3について

    まず、目的は前述と同様に、やむにやまれぬ利益といえる。

    次に、本件手段であるが、パターン3は、女性を面接試験において加点事由とするにすぎず、女性受験生であることを考慮要素のひとつとしているにすぎない点で、パターン1と異なる。また、その加点事由も筆記試験ではなく、面接試験における加点事由にとどめており、かかる加点によって事実上のクォータ制に陥っているということもない。そうだとすれば、本件手段は、限定的に策定された手段であるといえる。

    したがって、本件手段は正当化される。

 3 以上より、パターン1は14条1項に反し違憲であるが、パターン3は合憲である。

第2  A県立大学の、入学試験において一定程度母子家庭を優遇する改革は、母子家庭と母子家庭でない家庭を不当に差別するものであり、憲法14条1項に反し違憲ではないか。

 1 まず、パターン2とパターン4は、母子家庭でない子女に比して母子家庭の子女を優遇する点で、別異取扱いが認められる。

 2 次に、本件別異取扱いは正当化されるか。

 (1)  まず、上記別異取扱いは母子家庭か否かという、子女たる個人の努力によって変更することのできない地位に基づくものであり、疑わしい差別である。また、大学への入学は学問の自由(23条)の保障が及ぶものであるところ、上記別異取扱いは重要な法的地位に関するものである。そこで、前述と同様の基準によって判断すると考える。

 (2) パターン2

    まず、本件別異取扱いの目的は、母子家庭であることによって大学入試のために十分な教育費用を得られない者とそうでない者との間の公平な競争の確保にある。確かに、母子家庭であることによって十分な教育費用をかけられないという問題は重要な課題であり、社会的に改善していく必要性のある問題である。しかし、母子家庭の子女の大学進学率の低さは、女性の理系大学進学率の低さと異なり、社会の構造的に蓄積された差別とはいえない。単純に教育費用をかけられないという母子家庭度独自の問題によるのであり、社会的構造の欠陥にあるのではない。そうだとすれば、母子家庭の子女とそうでない子女との公平な競争をはかるという目的はやむにやまれぬ利益とはいえない(①充足)。

    また、かりに本件目的がやむにやまれないものだとしても、パターン2は、いわゆるクォータ制によって、母子家庭でない子女を集団として優遇する点で、限定的に策定された手段とはいえない。

    したがって、パターン2は正当化されない。

 (3) パターン4

    まず、本件目的はやむいやまれない利益でないことは前述のとおりである。

    また、もし仮に本件目的がやむにやまれないものだとしても、入学試験における母子家庭の子女を万節試験において加点事由として優遇するパターン4は、公平な競争の確保として限定的に策定された手段とはいえない。十分な教育費用を得られないということによって、母子家庭の子女の教育的効果にどれほどの問題が生じるかは検証不可能であり、それをどのくらい加点事由として考慮してよいかは一義的に決めることのできるものではないからである。かかる手段は、母子家庭の子女の優遇として不十分であることもありえ、また、母子家庭の子女を優遇しすぎることもありえる点で、かえって公平な競争を阻害するおそれがある。この点で、男女比率という最終的な結果から捉えることのできる多様性確保のための女性優遇策と、母子家庭の子女とそうでない子女の比率という最終的な結果から捉えることのできない公平な競争確保のための母子家庭優遇策は、根本的に異なる。翻って考えれば、入学試験における公平な競争確保は、高校において解決すべき問題であるように思われる。以上にかんがみれば、女性優遇策と異なり、パターン4も限定的に策定された手段とはいえない。

    したがって、パターン4は正当化されない。

 3 3 以上より、パターン2・パターン4共に、14条1項に反し違憲である。

以上

 

雑感

非常に良問。

積極的差別是正措置という言葉を聞いたことがある者は多いであろうが、具体的に深く学修している者は少ないと思われる。合格との関係では、最低限平等原則の問題としての枠組みに乗れていれば十分であろう。

具体的には、14条1項の問題であることを指摘し、誰と誰との別異取扱いが問題となっているかを正確に指摘でき、本件は積極的差別是正措置の問題であることを指摘し、それが違憲審査基準にどのように影響するかを論証できていれば、最低限合格圏内であるように思われる。

その上で、パターン1とパターン3、パターン2とパターン4がどのように異なるか、どちらがより違憲性の強い別異取扱いであるか、女性優遇と母子家庭優遇では何らかの異なる考慮が必要か、という点を具体的かつ説得的に考察できれば、上位合格が見えてくると思われる。

本解答例は、女性優遇策のうちパターン3のみを合憲としたが、母子家庭優遇策のパターン4も合憲であるとの判断は十分にあり得ると思われる。もっとも、パターン3を違憲にしておきながらより緩やかな優遇策であるパターン1を合憲にするというような結論は中々容認できず、かなりの論証と説得を要すると思われる(どんなに論証しても正当化されないと私見は考える)。