法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成30年度(2018年度) 憲法 解答例

解答例

第1 設問1[1]

 1 訴訟提起の方法

   Xは、A市が葬儀会場としてA市民公民館を無料で使用させた行為に、地方自治法242条の2第1項3号に基づく違法確認訴訟を、葬儀委員会に対して補助金100万円を支出した行為に、同条1項4号に基づく損害賠償代位請求訴訟を提起することが考えられる。

 2 憲法上の主張

 (1) Xの主張

Xは、A市が、葬儀会場としてA市公民館を無料で使用させ葬儀委員会に対して補助金100万円を支出した行為(以下「本件行為」という。)が「宗教的活動」(憲法20条3項)に該当し、違憲であると主張する[2]

 (2) 私見

   ア 政教分離原則とは、国家の非宗教性・宗教的中立性を意味する。国家が宗教を軍事利用した経緯から、国家と宗教との分離を制度として保障することにより、間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものである。もっとも、国家と宗教の完全な分離を実現することは実際上不可能であり、かえって信教の自由を害することにもなりかねない。

     そこで、宗教と国家の関わり合いが社会通念上相当といえる限度を超える場合に「宗教的活動」に該当すると考える。具体的には、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいい、①当該行為の行われる場所②一般人の宗教的評価③行為者の意図・目的及び宗教的意識の有無・程度④行為の一般人に与える効果・影響等を考慮する[3]

   イ 本件では、当該行為はA市民会館という公共施設で行われており、決して宗教的施設であるわけではない(①)。また、現代において葬儀は一般の慣習に従い宗教の方式を採用する場合も少なくなく、一般人の宗教的関心も希薄化している(②)。確かに、本件では仏式にて葬儀が行われており、仏教に対する援助があるとも思える。しかし、仏式での葬儀が行われたのはA市名誉市民条例(以下「本条例」という。)7条3項による遺族が希望する宗教により執行するという規定によるものであり、行為者にとって宗教的意識はなく、その目的はBの生前の功績を讃える点にあるといえる。そして、かかる宗教的意義の希薄化した葬儀によって、一般人に何らかの影響・効果が生じることもない(④)。以上にかんがみれば、本件行為の実施により、特定の宗教を援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるとはいえない社会的儀礼によるものといえる。

     したがって、社会通念上相当といえる限度を超えるものとはいえない。

   ウ よって、本件行為は「宗教的活動」にあたらず、20条3項に反しない。

第2 設問2[4]

 1 Fの主張

   Fは、本件行為は、Aの人格権(憲法13条)のうち静謐な環境のもとで信仰生活を送る利益を侵害し、損害賠償請求が認められると主張する。

 2 私見

   信教の自由の保障は、何人も自己の信仰と相容れない信仰をもつ者の信仰に基づく行為に対して、それが強制や不利益の付与を伴うことにより自己の信教の自由を妨害するものでない限り寛容であることを要請しているものである。そうだとすれば、静謐な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益は、法的利益として認めることができない。したがって、本件葬儀にはFに対する権利利益侵害が認められず、国家賠償請求の要件を充足しない。

   よって、Fの主張は認められない。

以上

 

[1] モデル判例として、最判平成5年10月28日参照。

[2] まず、20条3項の「宗教的活動」の問題とするか20条1項後段、89条前段の「宗教的団体」または「宗教上の組織」の問題とするかであるが、本件ではA市がA市民会館を利用して市民葬を実施したことが問題となっており、市が宗教的活動を行う場面であるといえ、20条3項の問題とするのが素直であるように思われる。

[3] いわゆる目的効果基準。津地鎮祭事件判決(最大判昭和52年7月13日)参照。空知太神社事件判決(最大判平成22年1月20日)の総合考慮基準とどちらを採用するか。①20条3項では目的効果基準、20条1項後段、89条前段では総合考慮基準を用いるとする類型的アプローチ(宍戸)がある。かかる見解によれば、本件では20条3項が問題となっているため、目的効果基準の問題となる。②「宗教性」と「世俗性」が同居しておりその優劣が微妙である場合には目的効果基準、施設が一義的に宗教的で行事も宗教的な行事であることが明らかな場合には総合考慮基準を用いるとする見解(藤田裁判官)がある。かかる見解によれば、本件ではA市民会館という公共施設での市民葬であるので、この場合も目的効果基準の問題となる。③一回限りの作為的行為である場合には目的効果基準、継続的行為である場合には総合考慮基準を用いるとする見解(清野調査官)がある。かかる見解によれば、本件は市民葬という一回限りの継続的行為が問題となっているので、やはり目的効果基準の問題となろう。したがって、いかなる見解によっても目的効果基準が妥当であるように思われる。

[4] モデル判例として最大判昭和63年6月1日参照。