法律解釈の手筋

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慶應ロー入試 平成27年度(2015年度) 民事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1

 1 裁判所は、Aによる不当な妨害があったかどうかについて、真偽不明の状態にある。このような場合に、裁判所は不当な妨害があったと認定すべきか。証明責任の分配基準が問題となる。

 2 証明責任とは、裁判所が、ある要件事実について真偽不明に陥った場合に、判決において、その事実を要件とする自己に有利な法律効果の発生又は不発生が認められないことになる一方当事者の不利益をいう。

    そして、自己に有利な法規かどうかは、実体法の趣旨により分配し、それに立証の難易、証拠との距離等を微調整として用いて判断すると考える。

 3 本件では、XのYに対する売買契約の解除の効果として原状回復(民法545条1項)に基づく建設機械の返還請求がなされている。Yは、解除の要件である帰責事由について、それがないことを基礎づける具体的事実として、Aによる不当な妨害があったという事実を主張している。そこで、帰責事由の証明責任は、どちらが負担するかが問題となっている。

 (1) 解除の要件である帰責事由の証明責任が債務者にあるとすると、帰責事由のないことを立証しなければならず、立証が困難になるとも思える。しかし、そもそも契約を締結した以上は、契約により発生する債務は履行されるのが通常であり、債務を履行できないというのは例外的な場合ということができる。以上にかんがみれば、実体法としては、帰責事由がなかったという点については、例外要件として債務者が証明責任を負っていると考える。

(2) したがって、本件では、債務者たる被告Yがかかる事実の証明責任を負っていると考える。

4 よって、裁判所は、債務者の不利に法規を適用すべきであり、すなわち、解除の法的効果は発生し、民法545条の適用があると判断すべきである。

第2 設問2

 1 XのYに対する勝訴判決(以下「前訴」という。)は、XのZに対する訴訟(以下「後訴」という。)に、いかなる意味をもつか。前訴既判力が後訴に及ぶかが問題となる。

 2 既判力とは、前訴確定判決の後訴における通用力ないしは基準性をいう。その趣旨は紛争の一回的解決という制度的要請であり、正当化根拠は手続保障充足に基づく自己責任にある。

    そこで、手続保障が充足されたといえるのは、訴訟当事者であるから、既判力の人的範囲は当事者にのみ及ぶのが原則である(115条1項1号)。

    本件においても、前訴当事者はXYであり、後訴の当事者であるZには及ばない。

3 もっとも、例外的に既判力の拡張が認められないか(同項2号ないし4号)。

(1) Zが「承継人」(同項2号)にあたらないか。

  ア 同号における既判力拡張の趣旨は、紛争解決の実効性確保にある。また、その正当化根拠は、辛うじて代替的手続保障があった点にある。そして、上記趣旨にかんがみれば、承継人にあたるかどうかの問題は、誰に権利が帰属し、誰が義務を負うかという事件適格の問題といえる。

    そこで、「承継人」とは、紛争の主体たる地位の承継人をいうと考える。

    また、前訴の勝訴・敗訴に既判力の拡張が左右されたり、固有の抗弁の主張立証に既判力の拡張をかからしめたりするのは妥当でないため、固有の抗弁を有する第三者も形式的に「承継人」にあたると考える。

イ 本件では、後訴のZは前訴の係争物であった建設機械を前訴の事実審口頭弁論終結後に譲り受けている。そうだとすれば、Zに紛争の主体たる地位が移転したといえる。

ウ したがって、Zは「承継人」にあたる。

(2) もっとも、前訴訴訟物は原状回復に基づく建設機械の返還請求であるのに対し、後訴訴訟物は、所有権に基づく建設機械の返還請求であり、前訴・後訴の訴訟物は同一・先決・矛盾のいずれの関係にもあたらない。

   そうだとすれば、前訴既判力がZに及んだとしても、前訴既判力は後訴に作用しない。

(3) 以上より、前訴判決は後訴にいかなる意味ももたない[1]

以上

 

[1] 山本弘「弁論終結後の承継人に対する既判力の拡張に関する覚書」『民事手続の現代的使命』(有斐閣、2017年)685頁参照。