法律解釈の手筋

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令和4年度(2022年度) 慶應ロー入試 民事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1

1 裁判所は、Yの、Xを被告とした、Xに販売した輸入家具の未収代金400万円の支払を求める訴え(以下、「本件後訴」という。)について、請求棄却判決をすべきである。

2 本件後訴には、XがYを被告として、工事請負代金債権600万円の支払を求める訴え(以下「本件前訴」という。)において生じた既判力が、本件後訴に作用する。

(1) 前訴確定判決の既判力が後訴に作用するかどうかは、前訴確定判決について生じる既判力と後訴訴訟物が同一・先決・矛盾のいずれかの関係にある場合か否かによって判断する。

ア 既判力とは、確定判決の判断に与えられる通有性ないし拘束力をいう[1]。そして、既判力の物的範囲(「主文に包含するもの」)は、審理の簡易化・弾力化の観点から、原則として訴訟物にのみ生じると考える。もっとも、相殺の抗弁については、別訴提起の実質があるため、例外的に相殺に供する訴訟物について既判力が生じる(114条2項)。また、既判力は、原則として当事者との間で(115条1項1号)、事実審の口頭弁論終結時を基準として生じる(民執35条2項参照)。

イ 本件前訴の訴訟物は、XのYに対する請負契約に基づく請負代金請求権であるところ、かかる請求権の200万円の存在及び400万円の不存在に既判力が生じる。また、本件前訴では、相殺の抗弁が主張されて審理されているところ、YのXに対する売買契約に基づく売買代金請求権の「対等した額」である400万円の不存在について既判力が生じる。かかる既判力は、本件前訴の口頭弁論終結時を基準として、XY間に生じる。

(2) 本件では、本件前訴のうち、相殺の抗弁によって生じたYのXに対する売買契約に基づく売買代金支払請求権の400万円の不存在という既判力と、本件後訴の訴訟物たるYのXに対する売買契約に基づく売買代金支払請求権は、同一関係にある。

(3) したがって、本件前訴に生じた既判力は、本件後訴に作用する。

3 裁判所は、既判力の作用により、以下のとおり請求に理由がないとして、請求期棄却判決をしなければならない。

(1) 後訴裁判所は、前訴既判力を判決の基礎としなければならず(積極的作用)、前訴既判力に矛盾する当事者の主張を排斥しなければならない(消極的作用)。

(2) 前訴既判力を判決の基礎とすると(積極的作用)、本件後訴も請求に理由がないことが明らかである。

(3) よって、裁判所は、本件後訴について請求棄却判決をすべきである[2]

第2 設問2

1 Xの第4回口頭弁論期日における主張(以下、「本件主張」という。)は、権利自白としての当事者拘束力が生じる場合、認められない。

2 第1に、Xの第2回口頭弁論期日における、Yの主張する相殺は法的にみて有効に成立している旨の陳述(以下、「本件陳述」という。)に、裁判上の自白は成立しない。

(1) 当事者拘束力の生じる自白とは、相手方の主張する事実と一致する、自己に不利益な事実を認めて争わない旨の陳述をいう。

(2) 本件陳述は、相殺が有効に成立している、という法的評価についての主張である。また、また、相殺が有効に成立しているかどうかというのは日常的法律概念でもない。したがって、「事実」の主張ではない。

(3) したがって、本件陳述に自白は成立しない。

3 第2に、本件陳述には、権利自白が成立する可能性がある。

(1) 権利自白とは、相手方の主張する自己に不利益な権利や権利関係に関する自白[3]をいう。権利自白については、法律の解釈・適用は裁判所の専権事項であるため、これを認めない見解もある。しかし、当事者は請求の放棄・認諾という形で訴訟物の処分ができるところ、中間確認の訴えによって、その先決的法律関係についても処分することができる以上、当事者の処分を認めてもよいと考える。しかし、当事者が法律概念を誤解している可能性があるため、そのような当事者を保護する必要がある。そこで、先決的法律関係については、当事者が法律関係の内容を十分に理解している限り、権利自白として審判排除効及び当事者拘束力も認められると考える[4]

(2) 本件陳述は、相殺が法的に見て有効に成立している旨の陳述であり、法律行為の効力が問題となっているため、法律関係にあたる。また、かかる相殺の有効無効は、XのYに対する請負契約に基づく請負代金請求権の先決的法律関係である。したがって、本件において、Xに訴訟代理人がついている場合等、法律関係の内容を十分に理解しているような場合には、当事者拘束力が認められる。

(3) よって、上記のような場合、Xの主張は認められない。

以上

 

[1] 高橋重点講義(上)(2014)・586頁。

[2] より正確には、基準時の新事由の主張がない限り、ということにはなるが、前訴が請求権の不存在の場合、基準事後の新事由がなかなか考えにくいので、本文のような記載で十分と思われる。

[3] 瀬木(2019)・320頁。

[4] 高橋概論(2016)・179頁。