解答例
第1 設問1(以下、会社法は法名略。)
1 本件取締役会決議には369条2項違反の瑕疵があり、無効である。
2 本件取締役会決議には、369条2項の違反が認められる。
(1) 取締役会決議では、「特別の利害関係を有する取締役」は議決権を行使することができない(369条2項)。
ア 同項の趣旨は、決議の公正を確保する点にある。そこで、「特別の利害関係」とは、取締役の忠実義務違反をもたらすおそれのある、会社の利益と衝突する取締役の個人的利害関係[1]をいう。
イ 本件契約は、甲社の代表「取締役」であるAが「自己」のためにと甲社たる「株式会社」との間でする取引であるところ、直接取引(356条1項2号)にあたる。かかる直接取引の契約当事者であるAは、甲社と利益の衝突する個人的利害関係を有するといえる。
ウ したがって、Aは「特別の利害関係を有する取締役」にあたる。
(2) そして、本件取締役会決議には、Aも議決権を行使しており、「議決」に加わっている。
(3) よって、本件取締役会には369条2項の違反が認められる。
3 上記瑕疵により、本件取締役会決議は無効である。
(1) 取締役会決議の手続に369条2項違反の瑕疵がある場合、私法の一般原則に従い、原則として当該取締役会決議は無効になると考える。しかし、法的安定性の観点から、当該特別利害関係取締役を除外してもなお議決の成立に必要な多数が存するという特段の事情があるときには、例外的に当該取締役会決議は有効であると考える[2]。
(2) 本件では、前述のとおり369条2項違反が認められる。また、Aが本件取締役会決議に議決権行使をしていなければ、決議は可決されていなかったといえるところ(369条1項)、決議の結果に影響を及ぼさないと認めるべき特段の事情はない。
(3) したがって、本件取締役会決議は、無効である。
第2 設問2
1 会社と取締役との間の取引が法定の決議機関の承認を得ていない場合、会社は当該取引の無効を主張することができる。
2 本件では、前述のとおり、本件取締役会決議が無効となっており、法定の決議機関たる取締役会の決議を得ていない。
3 したがって、甲社は本件契約の無効を主張して、Aの請求を拒むことができる。
以上
[1] 弥永(2021)・194頁。
[2] 最判2016(平成28)年1月22日民集70巻1号84頁参照。