解答例
第1 設問1 (以下、民事訴訟法は法名略。)
1 本件訴状の送達が無効であるところ、再審の訴えが認められないか。
2 まず、訴状送達の不適法が338条1項3号の再審事由にあたるか。
(1) 有効に訴状の送達がされずに被告とされた者が訴訟に関与する機会が与えられないまま判決がされた場合と、当事者の代理人として訴訟行為をした者に代理権の欠缺があった場合とを別異に扱う理由はないため、338条1項3号の事由があると考える。
(2) 本件で訴状の送達が有効か検討する。本件では、補充送達(106条1項)がなされているところ、要件を充足するか。
ア まず、受領者BはXの子であり、X方の「同居者」にあたる。
イ 次に、Bは当時7歳9か月であるが、「相当のわきまえのあるもの」にあたるかが問題となる。
(ア)「相当のわきまえのあるもの」とは、送達の趣旨を理解して交付を受けた書類を受送達者に交付することを期待することができる程度の能力を有する者[1]をいう。
(イ) 本件では、Bは当時7歳9か月の児童であるところ、送達の趣旨を理解できるとはいえない。
(ウ) したがって、Bは「相当のわきまえのあるもの」にあたらない。
(3) よって、本件補充送達は無効である。
3 次に、判決正本の送達はBになされているところ、かかる送達が無効であるとすれば、控訴期間が進行しない以上判決が確定せず再審はあり得ないし、有効であるとすれば、再審事由を知りながら控訴によって主張しなかったとなるのであるから、補充性(3381項但し書)を充たさず再審が認められないのではないか。
(1) Bに対する補充送達が有効か。補充送達(106条1項)の要件を充足するか。
ア AはXの妻であり、X方の「同居者」にあたる。また、Aは「相当のわきまえのあるもの」である。
イ そうだとしても、本件訴訟はAがXのクレジットカードを無断で利用したことにもとづくものであり、AはXと事実上の利害関係を有する。このような事実上の利害関係を有する者に対する送達が有効であるかが問題となるが、106条1項所定の要件を充たす者に書類を交付すれば、送達の効力が生じるものとされている以上、事実上の利害関係があるか否かは送達の効力に影響を及ぼさないと考える[2]。
ウ したがって、本件送達は有効である。
(2) そうだとすれば、再審の補充性(338条1項但し書)を充たさないのではないか。
ア 同項但し書の趣旨は、再審が非常の不服申立てであることにかんがみ、上訴が可能であったにもかかわらずそれをしなかった者について再審の訴えによる不服申立てを否定する点にある。
そこで、再審事由を現実に了知することができなかった場合は、同項但し書にあたらないと考える[3]。
イ 本件では、上告人は、事実上の利害関係を有するAが判決正本を隠匿したことによって、前訴の訴状が有効に送達されず、その故に前訴に関与する機会を与えられなかったとの再審事由を現実に了知することができなかった。
ウ したがって、本件は同項但し書にあたらない。
4 以上より、本件では再審の訴えの要件を充足するため、裁判所は再審開始の決定(346条1項)をすべきである。
第2 設問2
1 本件訴状はAに送達されているところ、前述のとおり送達は有効である。もっとも、送達が有効であるとしても、再審事由が認められないか。
(1) 338条1項3号の趣旨は、当事者に手続保障の機会を与える点にあるところ、同号の事由は送達の有効無効と分けて判断しなければならない。
そこで、①受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等と受送達者との間に、その訴訟に関して事実上の利害関係の対立があるため、同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が速やかに交付されることを期待することができない場合において、②実際にもその交付がされなかったときは、受送達者は、その訴訟手続に関与する機会を与えられたことにならず、338条1項3号事由にあたると考える[4]。
(2) 本件では、前述のとおりAとXとの間には事実上の利害関係があり、AからXに訴訟関係書類が速やかに交付されることが期待できなかった(①充足)。また、実際に書類がXに交付されたという事実もない(②充足)。
(3) したがって、本件では、338条1項3号事由が認められる。
2 以上より、裁判所は再審開始の決定(346条1項)をすべきである。
以上
[1] 最判平成4年9月10日参照。
[2] 最決平成19年3月20日参照。
「民訴法106条1項は、就業場所以外の送達をすべき場所において受送達者に出会わないときは、「使用人その他の従業者又は同居者であって、書類の受領について相当のわきまえのあるもの」(以下「同居者等」という。)に書類を交付すれば、受送達者に対する送達の効力が生ずるものとしており、その後、書類が同居者等から受送達者に交付されたか否か、同居者等が上記交付の事実を受送達者に告知したか否かは、送達の効力に影響を及ぼすものではない(最高裁昭和42年(オ)第1017号同45年5月22日第二小法廷判決・裁判集民事99号201頁参照)。
したがって、受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等が、その訴訟において受送達者の相手方当事者又はこれと同視し得る者に当たる場合は別として(民法108条参照)、その訴訟に関して受送達者との間に事実上の利害関係の対立があるにすぎない場合には、当該同居者等に対して上記書類を交付することによって、受送達者に対する送達の効力が生ずるというべきである。」
[3] 前掲平成4年判決参照。
[4] 前掲平成19年決定参照。
「本件訴状等の送達が補充送達として有効であるからといって、直ちに民訴法338条1項3号の再審事由の存在が否定されることにはならない。同事由の存否は、当事者に保障されるべき手続関与の機会が与えられていたか否かの観点から改めて判断されなければならない。
すなわち、受送達者あての訴訟関係書類の交付を受けた同居者等と受送達者との間に、その訴訟に関して事実上の利害関係の対立があるため、同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が速やかに交付されることを期待することができない場合において、実際にもその交付がされなかったときは、受送達者は、その訴訟手続に関与する機会を与えられたことにならないというべきである。そうすると、上記の場合において、当該同居者等から受送達者に対して訴訟関係書類が実際に交付されず、そのため、受送達者が訴訟が提起されていることを知らないまま判決がされたときには、当事者の代理人として訴訟行為をした者が代理権を欠いた場合と別異に扱う理由はないから、民訴法338条1項3号の再審事由があると解するのが相当である。」