解答例
第1 設問1
1 本件では、訴状に記載されていないAを訴訟手続から排除し、Yに期日の呼出しを行うべきではないか。第1回口頭弁論期日において被告が訴状に記載されたYであるかどうかに疑義が生じているところ、当事者の確定が問題となる。
(1) 基準の明確性から、訴状の表示を基準とすべきである。もっとも、具体的妥当性確保の観点から、請求の趣旨・原因その他の附属書類を含めた訴状の全趣旨を勘案して当事者を決定すべきであると考える。
(2) 本件では、訴状の被告記載はYである。
(3) したがって、本件被告はYであり、Aは当事者でない。
2 したがって、Aは当事者でない以上訴訟手続から排除すべきである。
3 Yについて、訴状の送達からやり直すべきではないかが問題となる。
確かに本件送達は有効であるが、現実に受送達者に書類が交付されない場合には再審事由にあたると考えられている[1]ところ、手続保障を与えるために送達からやり直すべきであるとも考えられる。しかし、送達自体は有効であるし、期日の呼出しのみでもある程度の手続保障は与えられたといえるのであるから、訴状の送達のやり直しまでは不要と考える。
よって、Yに対しては期日の呼出しを行うべきであり、かつ、それで足りる。
第2 設問2
1 (1)の場合
本件の場合、控訴期間(285条本文)が満了していない。
前述のとおり、本件被告はYであり、Aではない。したがって、L1としては、第1審の訴訟行為は当事者でないAが行っており無効であるため、第1審判決の破棄差戻しを求めて控訴する手段を講ずることが有効であると考える。
2 (2)の場合
本件の場合、控訴期間が満了している。
そして、本件では判決が一応有効になされている以上、再審の訴え(338条1項)によるべきことになる。したがって、L1としては、AがYと事実上の利害関係を有し、訴状書類を交付しなかったとして338条1項3号を主張するか、当事者でないAが訴訟行為を行っている点でYに手続的関与が与えられておらず、338条1項3号類推適用を主張することで、再審の訴えを提起する手段を講ずることが有効であると考える。
第3 設問3
1 まず、第1審での訴訟手続がAによって行われたことが、上告理由(312条2項4号)にあたるか。
(1) 確かに、同号の規定するように、AがYからの代理権の授権を欠いていたというような事情はないため、同号の直接適用はない。
しかし、同号の趣旨は、当事者に手続的関与を与える点にあるところ、実質的に手続的関与が与えられていないような事情がある場合には、同号が類推適用されると考える。
(2) 本件では、AはYになりすまして本件第1審で訴訟行為を行っており、Yは本件訴訟を知ることができなかった。そうだとすれば、Yには本件訴訟における手続的関与が欠けていたといえる。
(3) したがって、同号類推適用が認められる。
2 次に、そうだとしても、Yはかかる主張をすることなく控訴審で棄却判決を受けているところ、かかるAの無効な訴訟行為について追認したことになると考える(34条2項類推適用)。
したがって、上記瑕疵は治癒され、Yは上記上告理由を主張することはできない。
3 よって、最高裁判所は上告理由に理由がないとして、317条2項若しくは319条に基づき上告を棄却すべきである。
以上
[1] 最決平成19年3月20日参照。