1.はじめに
※この項目は憲法編でも記載した内容と同じなので、そちらをすでに読んでいただいた方はこの項目を飛ばしていただいて構わない。
ここでは、受験生がよく使用している会社法の基本書や演習書について、個人的な書評を交えながら、紹介する。
まず、前提として、僕は人にはそれぞれに合った勉強法があると考えている。基本書等を読まなくても予備校教材だけで予備試験に1年程度で合格できる人もいれば、基本書等や演習書等を通じて深い理解をすることで司法試験に合格できる人もいる。
僕はどちらかといえば後者側の人間だった。予備校のような論点を紹介する教材だと、どうしても論点の文脈が分からなかったりするが、基本書では、原理原則から説き起こして各論点を説明するため、スッと入ってくる感じがあった。
これから紹介する基本書等は、そのようなタイプであった僕が紹介する基本書等になるため、予備校教材だけで十分合格できるタイプの受験生が無闇に手を出すことは、全くお勧めしない。また、仮に手を出すにしても、無闇やたらに全ての書籍を購入するのは、消化不良を起こし、弊害の方が大きくなるおそれがある。自分のキャパシティとの兼ね合いは非常に大事であることに注意してほしい。
今現在予備校教材でよく理解できていない部分がある方や成績に伸び悩んでいる方にとっては、もしかすると最良の教材になり得る。立ち読みからでも良いので、一度気になった書籍を読んでみることを勧めたい。
2.基本書
(1) 江頭会社法
僕は受験生時代にこの本をあまり使用していなかったが、これを一番上紹介しないと、いろんなところからお怒りを受けそうなので(笑)、まずは会社法の王道の基本書である江頭会社法を紹介する。
2021年4月出版。1114頁。
会社法の基本書として、一番権威のある基本書と思われる。
もっとも、受験生にはやや使いづらいのではないかと思われる。まず、単純に分厚い(上に、縦書きという昔ながらの基本である)のと、どちらかというと実務的に使用される基本書なので、受験対策として使用すると、記載のメリハリの観点からやや扱いづらいように思われる。
もっとも、実務に入ってもずっと使用できることや、江頭説が有力な説であることからすれば、辞書用(あるいは、他の基本書でしっくりこないところを江頭会社法で比較してみるなどの使用)に購入しておくことは考えられる。
(2) 田中会社法
2023年3月出版。904頁。
東大教授の田中先生の執筆した基本書である。現在の会社法の基本書の中では、定番中の定番なのではないかと思われる。おそらく、こちらの基本書か次に紹介する紅白本のどちらかを使用する学生がほとんどと予想している。
田中会社法の特徴は、圧倒的に分かりやすく、各論点の論証も非常に明快である点にある。
分厚いことが若干ネックであるが、すべての単元について必要最低限の記載があるため、辞書としても使用できる点で、この1冊を持っておけば安心、という意味では最もおすすめしやすい基本書といえる。
僕が受験勉強をしている間に初版が発売されたのであるが、田中会社法を購入して以降は、同書をメインの基本書としていた。
何を買えばいいか分からない、という方は、とりあえずこの1冊を購入することを勧めたい。
(3) 紅白本
2020年12月出版。656頁。
「紅白本」と呼ばれる基本書であり、受験生の中でもかなり人気の高いを誇っている。
こちらの書籍は、受験対策をかなり意識された内容になっている印象を受け、重要論点について基本書の中では比較的詳細な論証がなされているのが特徴である。
田中会社法、江頭会社法よりもかなり薄いので、通読可能な量といえる。受験対策のために必要最小限で、かつ、分かりやすい論証が欲しいという方は、紅白本が最も適していると思われる。
(4) リークエ会社法
2021年3月出版。549頁。
リーガルクエストシリーズの会社法の基本書である。
おそらく、紅白本や田中会社法が出る前に一番人気であった基本書であり、今でも一部からは根強い人気を誇っている基本書である。
立ち位置的には、共著であることや、江頭会社法・田中会社法より薄いことから、紅白本と同じ立ち位置というイメージである。
しかし、紅白本が論証を詳細に記載する書籍なのに対して、リークエはその点はやや淡泊であり、その分網羅的な記載がされている。
紅白本とリークエは人によって好みが分かれると思うが、個人的には、紅白本の方が論証が詳細で分かりやすく、答案にも落とし込みやすく、受験対策としては読みやすいのではないかと思われる。
もっとも、紅白本が合わないな、と感じている方で、江頭会社法や田中会社法ほどの分厚い基本書を避けたい方は、リークエを購入してみることを勧める。
(5) 弥永会社法
2021年4月出版。538頁。
最近はこちらを使用している受験生をほとんど見かけなくなったが、田中会社法が出版される前まで、僕がメインの基本書として使用していた書籍である。
だが、文章はかなり詳細で分かりやすい内容となっている。人によっては冗長と感じるかもしれないが、行間を読むのが苦手な人や、内容を根本から理解したい人などは、実は弥永会社法が一番良いかもしれない。ちなみに、伊藤塾のテキストは、その大部分をこの弥永会社法をベースに作成されているという噂がある。実際、記述の内容が似通っている箇所はかなり多い印象を受ける。
それと、弥永会社法の機関設計の項目にある表は、短答対策のために便利なので、自分でまとめるのが面倒くさい人は、当該ページだけコピーして持っておくとよいと思われる。
3.副読本
(1) 数字で分かる会社法
2021年4月出版。324頁。
受験生で読む人はあまりいないかもしれない。
経理・財務やバリュエーションの観点から会社法を理解することができるので、それらに興味がある人は読んでみると面白いかもしれない。
特に企業法務弁護士を志している方は、財務諸表に触れるタイミングや企業価値算定の場面に出くわすはずなので、この書籍で会社法とともに理解しておくと、将来の知識としても役立つのでお勧めである。
もっとも、受験にはあまり直結しないのと、かなり難解なので、余裕がない方は手を出さないように留意されたい。
(2) 論究会社法
2020年11月出版。374頁。
ただの論文集といっても過言ではないレベルの高度な内容となっている。
近時のホットな論点について、研究者と実務家が同一論点について異なる角度から論じていく、という面白い構成となっている。もっとも、受験的にはマイナー論点も多く、内容もオーバースペックである。
会社法で上位を取りたい、という方は、同書籍で論点を深掘りしてみることをお勧めする。
4.演習書
(1) ロープラクティス商法
202年3月出版。388頁。
ロープラシリーズの商法である。
会社法演習書の中では、最もオーソドックスな演習書となる。
論点数が多く、すべての論点を網羅できる。また、問題も基本的な問題が多いので、会社法を一通り勉強した方が最初に解くのに最も適した問題集といえる。
少なくとも、ロープラを解いておけば、他の多数の受験生が知っていて自分だけが知らない論点が出題されるという可能性はなくなるので、その意味でも同書籍は必読の1冊である。
(2) 事例で考える会社法
2015年12月出版。538頁。
同書籍は、新司法試験と同程度の長文問題を題材に、詳細な解説が付された演習書である。解説が丁寧なので、1人で使用するのにも適している。もっとも、ロープラクティス商法に比べると、相当にレベルは上がるので注意されたい。
その分網羅性には欠けるものの、重要論点をピックアップしてくれているので、同書籍レベルで論点を理解していれば、他の受験生よりも優位に立てるといえる。僕も受験時代に使用していた基本書で、個人的には強くおすすめしたい演習書である。
新司法試験を見据えるなら、同書籍の解説までしっかり理解しておけば合格はほぼ問題なしになる、という意味では、この演習書まで手をつけておくことが望ましいと考える。
5.判例集
(1) 判例百選
2021年9月出版。236頁。
会社法の判例集は、判例百選一択と思われる。
憲法や行政法のような詳細な判例理解が司法試験で問われるわけではないことを考えれば、判例百選程度の解説があればよいと思うし、網羅性としても判例百選以上のバランスのものはない。
6.おわりに
かなり多くの書籍を紹介させていただいたが、冒頭にも記載したように、決して全ての書籍を購入することを勧めているわけではないことに注意してほしい。僕も、受験生の頃に全てを使用していたわけではない。
僕の書評を読んでいただいた上で、今の自分にとって必要な書籍はどれか、というのをしっかり吟味していただいた上で、各書籍を読んでみてほしい。
以上