法律解釈の手筋

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【民事訴訟法編】司法試験・予備試験のための有益な基本書等【厳選】

1.はじめに

※この項目は憲法編でも記載した内容と同じなので、そちらをすでに読んでいただいた方はこの項目を飛ばしていただいて構わない。

ここでは、受験生がよく使用している会社法の基本書や演習書について、個人的な書評を交えながら、紹介する。

まず、前提として、僕は人にはそれぞれに合った勉強法があると考えている。基本書等を読まなくても予備校教材だけで予備試験に1年程度で合格できる人もいれば、基本書等や演習書等を通じて深い理解をすることで司法試験に合格できる人もいる。

僕はどちらかといえば後者側の人間だった。予備校のような論点を紹介する教材だと、どうしても論点の文脈が分からなかったりするが、基本書では、原理原則から説き起こして各論点を説明するため、スッと入ってくる感じがあった。

これから紹介する基本書等は、そのようなタイプであった僕が紹介する基本書等になるため、予備校教材だけで十分合格できるタイプの受験生が無闇に手を出すことは、全くお勧めしない。また、仮に手を出すにしても、無闇やたらに全ての書籍を購入するのは、消化不良を起こし、弊害の方が大きくなるおそれがある。自分のキャパシティとの兼ね合いは非常に大事であることに注意してほしい。

今現在予備校教材でよく理解できていない部分がある方や成績に伸び悩んでいる方にとっては、もしかすると最良の教材になり得る。立ち読みからでも良いので、一度気になった書籍を読んでみることを勧めたい。

 

2.基本書

(1) 瀬木民訴

2022年12月出版。784頁。

元裁判官の瀬木比呂志先生が執筆した基本書である。個人的な意見では、民訴の基本書としては、瀬木民訴が決定版であると考えている。

内容の分かりやすさが当然ながら、予備試験・司法試験で使用できるバランスの良い判例・有力説を採用しており、論証をそのまま使えること、定義が平易で初学者でも比較的内容を汲み取りやすいこと、論点に対する実務的な感想によって論点の重要性も理解しやすいこと等、同書籍の良さをあげればキリがない。

リークエに比べると若干内容が薄く、辞書的な使用には向いていない点がネックかもしれないので、詳しい情報を基本書から取得したい方は、リークエ民訴をお勧めする。

(2) リークエ民訴

2023年3月出版。748頁。

現時点での民訴の基本書シェアNo.1と思われるのが、このリークエ民訴である。

内容の充実度・網羅性や論述の分かりやすさは、民訴の基本書の中でもトップレベルであり、これが基本書のスタンダードとなっているのも納得できる完成度といえる。

受験生が使用するとすれば、瀬木民訴とリークエのどちらかをメインに据えることで良いと思うが、どちらを選択するかは個人の好みによるのではないかと思う。

もっとも、リークエ民訴では、弁論主義における重要な間接事実説など、受験答案では若干使いづらい説を採用している箇所もあるので、その点は注意されたい。

(3) 重点講義

2013年10月出版。860頁。

2014年9月出版。876頁。

一通り民訴を学習した者であれば知らない者はいないであろう有名な基本書と思われる。

上下に分かれているうえ、1冊800頁を超えてくる基本書といっていいかもよくわからない基本書である。高橋教授独特の論理構成が採用されている(新堂説を紹介し、自説を展開していく。)書籍であり、その点も基本書といっていいかよく分からない体裁となっている。

批判のように読めるかもしれないが、僕は受験生時代重点講義を愛読していた。高橋先生の文章は読ませる美しさがあり、また、民事訴訟法を深く理解するには重点講義が近道だと思っていたからである。民事訴訟法が得意な受験生はほぼ間違いなく重点講義を読んでいると思われることからすれば、民事訴訟法で上位を目指したい方にとって避けて通れない基本書ではあると思う。注釈の分量が多いので、本文だけ読むのであれば頁数ほどの苦労はない(もっとも、重点講義の内容の深さは注釈に表れているといっても過言ではないので、できれば注釈まで読んでいただきたい。)。

もっとも、特にこだわりのない受験生に重点講義を使用することはお勧めしない。辞書的に使うにしても索引があまり役に立たない記述構成だし、自説も判例・通説から外れるところも多いし、何よりあまりに量が多すぎる。

ぜひご自身のキャパシティに応じて使っていただけると幸いである。

(4) 和田民訴

2022年4月出版。688頁。

従来から受験生から人気のあった基本書であり、2022年に改訂がなされたことで再度人気を集めている(と思われる)基本書である。

学説対立の激しい箇所については、それぞれの説を丁寧に説明しており、「基礎からわかる」と題しているにふさわしいダントツの分かりやすさである。図や表を多用し、視覚的にも分かりやすい内容となっている。若干各説の根拠等の説明がうすい印象を受けるものの、それ以外は特段不満のない内容である。リークエ民訴よりは、どちらかといえば瀬木民訴に近い内容となっている(もっとも、論点解説において、瀬木民訴は他説批判から自説への論証を重点的に行うのに対して、基礎からわかる~はそれぞれの学説紹介という色合いが強い。)。

クセがなくとりあえず1冊分かりやすい本が欲しい!という方は同書籍が一番おすすめであると思われる(瀬木民訴は、括弧書きおいて小言?のような記載があり、それが嫌いな人には合わないと思われるからである。)。

 

3.副読本

(1) 読解民訴

2015年3月。350頁。

いわゆる「読解民訴」と呼ばれる書籍である。「最速で司法試験・予備試験に合格するための基本書等」でも紹介した書籍であるとおり、司法試験を見据えるのであれば、個人的には絶対に読んでほしい書籍である。厚い本でもないので、通読もそこまで大変でないと思われる。

読解民訴は、多くの受験生が陥っている誤解を紐解くのに役立つ一冊となっている。原理原則面から丁寧に説明がなされており、民訴を根本から理解するのに役立つといえるであろう。やや難点なのは、勅使川原先生の文章が若干分かりづらいことであるが、何回も読むことで徐々に理解を深められるとポジティブに捉えて、熟読をされたい。

(2) 論点精解民事訴訟法

2018年9月出版。519頁。

読解民訴が原理原則面からの解説という色合いが強いのに対して、論点精解は、主要な判例から事案設定をし、各分野について解説をする、という実践的な形式を採る。

読解民訴とはまた違った良さのある名著である。

要件事実論、訴訟実務を念頭に置くため、民事訴訟法理論を実際の訴訟においてどのように考えていくか、という視点を持てるのはとても大きい。

個人的に、受験対策という点を考えるのであれば、読解民訴を読んだ方がより意義が大きいように思われるものの、設例形式になっている論点精解のほうがアウトプットのしやすさの観点から使いやすい人も多いと思われる。

 

(3) 基本判例から民事訴訟法を学ぶ

2022年9月出版。311頁。

判例解説本であり、対象者としては民事訴訟法を一通り勉強した初級者~中級者あたりと思われる。

スタイルは、判例の事案の紹介、問題点や論点の説明、判旨を紹介、論点解説及び判例解説、という流れである。判例をベースに深掘りをしていくスタイルであり、民事訴訟法で疎かになりがちな判例理解を基礎から学べる良書といえる。今まで民事訴訟法でこのような書籍といえば、田中豊先生の『民事訴訟判例 読み方の基本』(2017年9月出版)(こちらもかなりの良書であるが、紹介している講師等が少ないせいか、受験生で使用している人はあまりいない印象である。一応お勧めの書籍であるので、下にリンクを掲載しておく。)というものがあったが、これよりもより基本的な解説に終始しているのが本書の特徴である。

判例理解に不安がある方は、こちらの書籍で基本的な理解を深めると良いと思われる。

 

4.演習書

(1) ロープラ民訴

2021年9月出版。432頁。

ロープラクティスシリーズである。基礎的な問題を網羅的に集めた書籍であり、民事訴訟法を一通り学習した方が最初に手に取りやすい1冊といえる。

(2) ロジカル民訴

2019年2月出版。248頁。

個人的に民事訴訟法の演習書を1冊選べ、といわれたらこの書籍を選ぶであろう。

民事訴訟法を一通り学習した者から、上級者まで幅広く使える演習書になっている。解説が分かりやすいのは当然として、この書籍の良いところは、解答例が付してあるところである。三段論法が崩れているところもあり、受験的に完全に信頼するのは危険としても、答案の完成度は非常に高く、1人で独学する方にも使いやすい1冊となっている。

問題数が30問と若干少ない印象を受けるかもしれないが、網羅性としてはこれで十分だと個人的に思っているので、その点は特段問題ないと考えている。

(3) 基礎演習

2018年2月出版。

僕が受験生の当時は一番人気のあった印象のある演習書である。

事例問題をベースに学説解説や判例解説に深掘りしていくスタイルで、たまに事例を置き去りにしている印象もあるが、解説も分かりやすく使いやすい演習書であるといえる。

よく「網羅性に不安がある」という批判があるが、問題数や分野の網羅性は個人的にはそこまで問題ないのような気もする(もちろんロープラのようにすべての論点を網羅するものではないので、この演習書ですべての論点対策ができるわけではないものの、民事訴訟法の答案の書き方や、論点の処理手順を学ぶことを考えれば、この程度で十分であろう。)。

もっとも、ロジカル演習民事訴訟法の方が個人的には解答例もあるし、事例のあてはめも丁寧な気がするので、あえて基礎演習を勧める意味もないかな、というのが現時点での感想である。

(4) ロースクール演習民訴

2018年5月出版。331頁。

あまり使用している人は少ないが、かなり踏み込んだ解説をしてくれており、民訴のかゆいところに手が届く演習書なのではないかといえる。

例えば、既判力の作用論なんか、具体的な事例に即した解説が不十分な書籍も多いところ、この書籍はその点もかなり踏み込んで説明を加えてくれており、実際の答案に落とし込むときのイメージが一番持ちやすいと思う。

問題数は32問とロジカル民訴や基礎演習とほとんど変わらない問題数であるので、どれを選ぶかは個人の好みになってくると思う。

個人的には、解答例のあるロジカル民訴を一番に推すが、次点で解説の量からロースクール演習民訴を推したいと思う。

(5) 事例で考える民事訴訟法

2021年9月出版。477頁。

中級者から上級者向けの、少し難易度の高い演習書である。近年議論の熱い論点についての解説も充実しており、司法試験まで見据えるとこの問題集まで対応していると非常に安心ではあると思われる(この問題集の解説が理解できれば、間違いなく上位合格ができると思われる。)。

かつては遠藤賢治『事例演習民事訴訟法』(2013年2月出版)がこの立ち位置であったと思われるが、2013年から改訂されていないのと、若干問題意識の独特な問題が多かったので、個人的には微妙な評価であった。同書籍はその点をクリアしており、司法試験のための演習書として自信をもっておすすめできる内容となっている。

民訴の受験対策を盤石なものにしたい方は、ぜひこの演習書で対策することを勧める。

 

5.判例集

(1) 判例百選

2015年11月出版。276頁。

民事訴訟法の判例集は、判例百選一択と思われる。民事訴訟法は判例理解を問われる問題も出題されることが多いため、判例百選くらいは購入しておくことを勧める。

 

6.番外編

以下で紹介する書籍は、受験との関係では購入する必要性は低いものであるが、民訴が好きだった僕が個人的にお勧めしたい書籍である。

論文集なので、値段もかなり高くなってくるが、いろんな論文で参照される有名な論文集であり、内容も非常に参考になると思う。

もし民訴が好きで、趣味でもっと深掘りしたい、という方がもしいるのであれば、以下の論文集を読んでみることをお勧めする。

(1) 三木浩一『民事訴訟における手続運営の理論』

慶應義塾大学の三木教授による論文集である。

重複訴訟、一部請求、独立当事者参加など、受験生にも馴染みのある論点についての論文も多い。また、それらの論文について、現在では三木理論が多く影響を与えていると思われる節も見られる(例えば、三木教授の一部請求の類型論は、判例の射程を一部制限する理論として受け入れられていると思われる。)。

多くの学説に影響を与えている名著といえる。

(2) 山本弘『民事訴訟法・倒産法の研究』

著者の山本弘教授は2018年に亡くなられており、そのタイミングで、有斐閣が山本先生の今まで論文を論文集という形にまとめて出版したものである。なので、民事訴訟法から倒産法まで、雑多に論文がまとめられてしまっている点は目を瞑っていただきたい。

ただ、山本弘先生の論文は非常に切れ味が鋭く、いずれの論文においても鋭い視点から通説を痛烈に批判しており、なるほどと思わせる内容となっている。

僕が最も好きな民訴教授の1人である山本先生の論文を、息抜きにでも読んでみてほしい。

 

7.おわりに

かなり多くの書籍を紹介させていただいたが、冒頭にも記載したように、決して全ての書籍を購入することを勧めているわけではないことに注意してほしい。僕も受験生の頃に全てを使用していたわけではない。

僕の書評を読んでいただいた上で、今の自分にとって必要な書籍はどれか、というのをしっかり吟味していただいた上で、各書籍を読んでみてほしい。

以上