法律解釈の手筋

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平成24年度(2012年度) 東大ロー入試 刑事系 解答例

解答例

第1 設問1[1][2]  (この設問では、刑法は法名略。)

1 Xが「正当な理由」なく、A宅という「人」の「住居」に、Aの意思に反して立ち入り「侵入」した行為に、住居侵入罪(130条)が成立する。

2 XがAの現金という「他人の財物」を、家で事実上管理・保管している占有者Aの意思に反して自己の占有に移転し「窃取」した行為に、窃盗罪(235条)が成立する。

3 Xが再度A宅に侵入した行為及び、その後、三度A宅に侵入した行為に、住居侵入罪が成立する。

4 Xが、殺意を持って、Aを殺害した行為に、強盗雑殺人罪(240条)が成立しないか。

(1) Xが「強盗」にあたるか。事後強盗罪(238条)の成否を検討する。

ア Xは、A宅から貴金属類の入ったケースという「他人の財物」を「窃取」しているため、「窃盗」にあたる。

イ Xは「罪跡を隠滅する」ためという目的を有している。

ウ Xの上記行為が「暴行」にあたるか。

(ア) 事後強盗罪は窃盗直後における窃盗犯人と被害者等との間の緊迫した対立状況から暴行に出ることが多いことにかんがみ規定された犯罪類型であること、及び、強盗罪(236条)との均衡の観点から、「暴行」とは、①窃盗の機械に行われた②相手方の犯行を抑圧するに足りる程度の暴行をいうと考える。

(イ) 本件では、確かに、Xは自宅に戻った後、直ちにA宅に戻り、Aを殺害している。また、自宅はA宅に隣接しており、場所的にも近接している、

しかし、Xは、現実には隣接とはいえ自宅に戻り、被害者の支配領域から完全に離脱したということができる。また、XはAに塀を乗り越えているところを見られているかもしれないと思っているが、かかる主観的事情を考慮しても、Xが一旦安全圏である自宅に戻っている以上、被害者Aから容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況はなくなったといえる。

以上にかんがみれば、窃盗の機械が継続しているとはいえない(①不充足)[3]

(ウ) したがって、「暴行」にあたらない。

(2) よって、事後強盗罪は成立せず、強盗殺人罪も成立しない。

5 Xの上記4の行為に、殺人罪(199条)が成立する。

6 XがAの貴金属類を持ち出した行為に、窃盗罪が成立する。

7 以上より、Xの上記行為に①住居侵入罪②窃盗罪③住居侵入罪④窃盗罪⑤住居侵入罪⑥殺人罪が成立し、①②、③④及び⑤⑥はそれぞれ罪質通例上目的手段の関係にあるため、牽連犯となり、①③⑤は、時間的に連続した同一法益に対する侵害であるため、包括一罪となる。Xはかかる罪責を負う。

第2 設問2[4] (この設問では、刑事訴訟法は法名略。)

1 Xの自白を録取した自白調書(以下「本件調書」という。) は、いずれも不任意自白(319条1項)にあたるとして、証拠能力が否定され、証拠として用いることができないのではないか。

(1) 自白法則の趣旨は、任意性を欠く自白は類型的に虚偽のおそれが高いため、誤判防止の観点から一律に証拠能力を認めない点にあるところ、不任意自白とは、類型的に虚偽のおそれのある自白をいう。

(2) 本件では、Kは、Xから甲弁護士会を指定して弁護人選任の申出があったにも関わらず、その旨を甲弁護士会に通知せず、また、勾留後、Xから弁護人について尋ねられても「もう少し待つように。」と答えたのみである。しかし、かかるKの対応は、利益誘導や約束による自白とは異なり、被疑者への心理的影響を及ぼすものとはいいがたい。「もう少し待つように。」との対応は、Xにとっては、もう少しすれば弁護人が選任されるとの期待を有するものであって、虚偽の自白を誘発する心理的圧迫を受けるものではないからである。

(3) したがって、319条1項の不任意自白にはあたらない。

2 もっとも、弁護人選任権は憲法34条に定められた権利であるところ、かかる権利を害された以上、証拠として用いることは許されないのではないか。

(1) 刑事手続の適正を担保する憲法上の基本権を直接侵害して得られた自白は、基本権を侵害された当の被告人に対する救済と法の適正な手続(憲法31条)維持の観点から、当人に対する刑事手続においては使用できないと考える[5]

(2) したがって、弁護人選任権という憲法上の基本権が害された状態でなされた本件調書は、当人であるXとの関係で証拠として使用することはできない。

(3) よって、本件調書を証拠として用いることは許されない。

以上

 

[1] 主要論点:事後強盗における窃盗の機会継続性

[2] モデル判例は、東京高判平成17・8・16

[3] 東京高判平成17・8・16参照。なお、窃盗の機械継続性のメルクマールは「被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況」が継続しているか否かである(最決平成14・2・14参照)。時間的場所的近接性が絶対的な基準とはならないことに注意。また、このように考える場合、行為者の主観的事情は問題とならないのだと思われる。

[4] 主要論点:選任権を侵害された場合の自白の証拠能力

[5] 酒巻匡『刑事訴訟法』(有斐閣、2015年)512頁参照。