法律解釈の手筋

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平成27年度(2015年度) 東大ロー入試 公法系 解答例

解答例

第1 問1

1 名前法は、親の子に対する命名権を侵害するため、憲法13条に反し違憲である。

2 命名権は、憲法13条の保護範囲に含まれる。

(1) 社会の変化に伴い新たな人権を認める必要性がある。もっとも、いかなる自由をも人権として保障すれば相対化を招き、かえって人権保障を弱めることになりかねない。

そこで、かかる自由は自己の人格的生存にとって不可欠である場合には、憲法13条の保護範囲に含まれると考える。

(2) 本件では、親の子に対する命名権が問題となっている。名前は、個人の人格を表象し、他の人格と分別して特定・識別させるという機能を果たす点で、個人のアイデンティティーに深くかかわる社会的作用を有する。そして、親は子に対して密接な関係を有している。以上にかんがみれば、親が子の名前を決めることは親の人格的生存にとって不可欠であるといえる。

(3) したがって、上記自由は憲法13条の保護範囲に含まれる。

3 そして、かかる自由は、150の名前と1500の漢字によって限定されており、親の自由な命名権が制約されているといえる。

4 かかる制約は正当化されない。

(1) まず、本件自由は、将来一生自己のアイデンティティーに深くかかわる名前を、密接な関係を有する親が付ける権利であり、かかる自由の重要性は非常に高い。また、本件制約は、150の名前と1500の漢字という非常に限定されたものとなっており、40万人近くが同名となることになることにかんがみれば、制約態様も強い。

そこで、①本件目的が重要で、②本件手段が目的との関係で実質的関連性を有しない限り違憲であると考える。

(2) まず、本件目的は、国民の親和を図り、絆を強固なものにすることであるが、かかる目的は子供の名前によって達成することができることができる科学的根拠が何一つなく、正当性を有しない。また、仮に正当性を有するとしても、国民の絆を強固なものにすることが重要な目的であるとは到底言えない。

次に、本件手段も、国民の絆を強固にするために名前を150に限定する必要性があるとはいえず、5000万人も男性が全国に存在することを考えれば、もっと多くの名前を認めても本件目的は達成可能であるはずである。また、漢字についても、使用漢字表の漢字に限定することで国民の絆を強固なものにすることができるとは到底言えない。

したがって、本件目的は重要でないうえ、本件手段も目的と実質的関連性を有しない。

(3) よって、名前法は違憲であり、かかる方に基づく承認拒否処分は違法である。

第2 問2 (以下、行政事件訴訟法は法名略。)

1 小問1

本件承認拒否処分は「行政庁」たるB町長によるものであるため、B町長の所属する「公共団体」であるB町が被告となる(11条1項1号)。

2 小問2

(1) 「法律上の利益を有する者」(9条2項)とは、主観訴訟の観点から、①当該処分により権利又は法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして②当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、③それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、係る利益も「法律上保護された利益」にあたると考える。

(2) 本件例外承認処分はYを名宛人とするものではないため、9条2項を考慮して決する。

(3) 名前法の奥的は国民の親和を図り、絆を強固なものにすることにある。そうだとすれば、名前の例外承認を認めないことにより、第三者の国民の絆を強固にするという利益を享受させることができ、その結果国民の絆を強固なものにすることができるという公益の実現につながる。したがって、承認例外を定めた行政法規は一般的公益を保護するものである(②)[1]

(4) そして、かかる公益が個別的利益としても保護されるかが問題となる。

例外承認は、市町村長が名前検討委員会に諮って地域の事情を勘案して例外承認を行うかどうかを決定しなければならないとしている。かかる委員会は地域をよく知る者として市町村長から任命された3名以上の委員によって構成される。かかる規定によれば、例外承認は地域の特別な事情をもって認められるものであり、当該地域の住民は、かかる名前が地域の事情に照らし例外承認を認めることが許されるかどうかについて、密接な利害関係を有するといえる。そうだとすれば、例外承認規定は、当該地域住民の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される(③)[2]

(5) 本件では、Yは例外承認処分を受けたXと同じB町に住む者であり、Yの法律上保護された利益が侵害されている(①)[3]

(6) 以上より、Yに原告適格が認められる。

以上

 

[1] いわゆる保護法益性判定。ここでは、当該行政処分が、その名宛人または準名宛人たる私人Aに法効果を及ぼすこと(許可がなければある活動が許されないこと、基準違反の行動が差し止められること等)を通して、特定または不特定の第三者たる私人B(処分の法効果の及ばない者)になんらかの権利利益(生命身体への被害を受けないこと、日照を阻害されないこと、騒音被害を受けないこと、詐欺による財産被害を受けないこと、静謐や景観などの生活環境が劣化しないこと、生業としての漁業や農業を維持すること等)を享受させることを目指し、そして私人Bが当該権利利益を享受することが当該処分の究極の目的である抽象的一般的な公益(住みやすいまちづくり、安全な消費生活、静謐な生活環境等)の実現につながるしくみがあるかどうかで判断する。すなわり、規制型の利害調整の仕組みが根拠法に見いだされるかどうか、私人Bの立場にいる者がどのような権利利益を享受することになっているかの見分けである。中川丈久「取消訴訟の原告適格について(1)―憲法訴訟論とともに―」法学教室379号75頁参照。

[2] いわゆる個別的利益性判定。ここでは、行政庁が処分をするにあたって、私人Bの側に属する者が教授すべき権利利益を享受するはずの者一人ひとりを特定して、その全員が法令上許容される範囲内で保護されているかどうかを判断することを根拠法上予定されているかどうかによって判断する。前掲中川論文・77頁参照。

[3] いわゆる侵害現実性判定。ここでは、個々人の個別的利益が侵害されるおそれがあるかどうかによって判断する。すなわち、あてはめである。前掲中川論文・78頁参照。