解答例
第1 設問1
1 Xとしては、義務付けの訴え(行政事件訴訟法3条6項2号)を提起すべきである。
2 Xは本件不許可処分を受けているところ、義務付けの訴えに併合して、本件不許可処分の取消しの訴えを提起しなければならない(同法37条の3第3項2号、1項2号)。
3 また、本件デモは既に約4か月後に迫っているところ、仮の義務付けの申立て(行政事件訴訟法37条の5第1項)をすべきである。
第2 設問2[1]
1 報道の自由は、報道機関が編集を通じて自己の思想を外部に伝達する機能を有するところ、表現の自由として憲法21条1項によって保障される。取材の自由が憲法21条1項によって保障されるかについて、レペタ事件判決(最大決平成元年3月8日)は、筆記行為の自由について単に尊重に値すると述べている。博多駅テレビフィルム提出命令事件判決(最大決昭和44年11月26日)も、報道のための取材の自由は十分尊重に値すると述べているところ、21条1項によって保障されるとは考えていないように思われる。
しかし、報道の自由は、取材・表現・流布/受領という一連のプロセスを保障しなければその実効性が確保できないところ、取材の自由も憲法21条1項の保障が及ぶと考える。
2 もっとも、上記自由は本件において制約されているか。
(1) 泉佐野市民会館事件判決(最判平成7年3月7日)によれば、市民会館が「公の施設」(地方自治法244条)にあたり、管理者は正当な理由がない限り住民の利用を拒んではならないことから、住民はその施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められる。そこで、管理者が正当な理由なくその利用を拒否するときは、憲法上の集会の自由を制限することになるとしている。これに対し、広島教祖教研集会事件判決(最判平成18年2月7日)は、学校施設は、本来学校教育の目的に使用すべきものである以上、それ以外の目的に使用することを基本的に制限されていることから、学校施設の使用を許可するかは管理者の裁量にゆだねられるとしている。すなわち、集会の自由の制限にはあたらないことを前提としている。
(2) 本件では、Xが取材のために利用を申請している場所は、本件屋上という行政財産(国有財産法18条)であり、管理者はその用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができるにとどまる。確かに、本件建物は国会記者会という権利能力なき社団に無償使用承認がされている。しかし、本件屋上は使用承認の範囲に含まれておらず、国会記者会においても公開されていない。そうだとすれば、本件屋上は非公開であり、広島教祖教研集会事件判決の射程が及ぶ。
(3) したがって、Xの上記自由は制約されていない。
3 よって、本件不許可処分は憲法21条に反しない。
第3 設問3
1 衆院選挙小選挙区制事件判決(最大判平成11年11月10日)は、選挙制度は一定不変の形態が存在しないため、選挙制度の仕組みの具体的決定は国会の広い裁量にゆだねられている(憲法43条、47条)。そして、政党本位の選挙制度は国会の裁量の範囲に属するため、重複立候補を実績ある政党に限定することも合理性がある、とする。
2 本件においても、そもそも本件屋上は公開されたものではなく、原則として利用が許されないものである以上、いかなる者に利用を許可するかどうかは行政庁の広範な裁量にゆだねられており、かかる裁量を逸脱濫用するような場合にのみ合理性を欠き、憲法14条1項に反し許されないと考える。
3 本件屋上は一般人が立ち入ることを想定した場所ではなく、送信用アンテナがあったり、防護柵がなかったりと危険であり警備が容易でない。そうだとすれば、国会記者会は信頼できる取材機関に所属する者には屋上使用を認めているのに対し、フリージャーナリストについては合理的な基準の設定が困難である以上屋上使用を認めてこなかったという運用も、利用者の生命・身体保護を目的とした基準として相応の合理性を有するといえる。したがって、かかる運用はBの裁量の範囲に属する。
4 よって、本件不許可処分は憲法14条1項に反しない。
第4 設問4
1 本件不許可処分には行政庁の裁量の逸脱・濫用があるため違法ではないか(行政事件訴訟法30条)。
2 国有財産法18条6項の法的性質は、前述のように行政財産は原則として利用が認められていないこと、及び同項の文言から、許可制を定めたものであると考えられる。そうだとすれば、行政庁には、同項に基づく許可処分をするかどうかについて裁量が認められると考える。
そこで、行政庁の処分が社会通念上著しく不合理であると認められる場合でない限り、裁量の逸脱濫用は認められず、適法であると考える。
3 本件では、前述のように合理性のある先例的運用に基づいてXに対し本件不許可処分がなされている。そうだとすれば、本件処分が社会通念上著しく不合理であるとはいえない。
4 よって、本件不許可処分は適法である。
以上
[1] 類似の問題として小山ほか『判例から考える憲法』(法学書院、2014年)第1章参照。なお、同問題のモデル判例として大阪地判平成19年2月26日があげられているが、正しくは東京地判平成18年1月25日であると思われる。