法律解釈の手筋

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令和3年度(2021年度) 東大ロー入試 公法系 解答例

解答例

第1 設問1

1 「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があ」るときとは、義務付け訴訟により求められた処分がなされないことによる損害が、原状回復不能ないしは金銭賠償による補填が不能であるか、社会通念上相当に困難であり、損害発生が切迫し社会通念上これを回避する緊急の必要性が認められることをいう[1]

2 本件では、憲法上によって保障された権利の侵害があるかどうかが問題となるが、後述のとおり、憲法上の権利の侵害は認められないのであって、この点については、回復不能な損害は認められない[2]。また、それ以外にXら被る損害としては、集会の準備のための費用という財産的損害や集会を開催できない精神的苦痛のようなものがあるが、どちらも金銭賠償による補填が不能とまではいえない。

3 したがって、「償うことのできない損害」は認められない。

第2 設問2

1 本件において、市民会館の使用に関する最高裁判所の判決の射程が及ばない、というY市の主張が認められるか。

2 市民会館の使用に関する最高裁判所の判決とは、泉佐野市民会館事件判決を指すものと考える。泉佐野市民会館事件判決(最判平成7年3月7日)によれば、市民会館が「公の施設」(地方自治法244条)にあたり、管理者は正当な理由がない限り住民の利用を拒んではならないことから、住民はその施設の設置目的に反しない限りその利用を原則的に認められる。そして、管理者が正当な理由なく「公の施設」の利用を拒否するときは、憲法上の集会の自由を制限することになるとしている。

3 本件では、A地区ふれあい広場の設置目的は、「地域コミュニティ活動の場を確保し、その活発な展開と効果的な運営に寄与することにより心のふれあう町づくりを推進する」ことにある(Y市A地区ふれあい広場条例(以下、「A条例」という。)第1条)。本件申請の目的である皇室典範の改正の賛成派の主張のための集会は、地域コミュニティの活動とはいえないため、A地区ふれあい広場の設置目的とは異なることとなる。Xらは、A地区ふれあい広場での集会ができなければ、集会の事由は実質的に否定されかねず、市民会館の利用に関する最高裁判所の判決に反すると主張する。しかし、前述のとおり、泉佐野市民会館事件判決は、公の施設の設置目的によって集会の自由を実質的に否定することになるかどうかを判断しているため、公の施設やパブリックフォーラムであることから、直ちに集会の自由の実質的な否定は導かれない[3][4]

4 したがって、Y市の上記主張は認められる。

第3 設問3

1 本件申請は認容されるべきか。

2 設問2のとおり、本件申請はA地区ふれあい広場の設置目的に反する。したがって、Y市としては、「その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる」ため(地方自治法238条の4第7項)、広範な裁量を有する。そこで、Y市が、本件申請を認容しない消極的裁量権の行使が、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められるような場合には、裁量権の逸脱又は濫用として違法となると考える。

3 本件では、Xらの保護法益は、生命・身体の利益ではなく、A地区ふれあい広場において本件集会を行う利益であり、前述のとおり集会の自由で保障されるものではないため、重要性に劣る。したがって、Y市は本件申請を認容する作為義務は認められない。また、Y市としては、Y市ひばりが丘公園に変更して申請し直すことを打診しており、結果回避可能性も認められる。以上の事情からすれば、Y市が本件申請を認容しないことは、妥当性を欠くものとはいえない。

4 したがって、本件申請は認容されるべきではない。

以上

 

[1] 大橋洋一『現代行政救済論』(有斐閣、2018年)308頁。

[2] ここは、設問2、設問3で集会の自由の侵害があるかどうかを認定するかによって結論が連動するものと思われる。憲法上の権利が侵害されることを理由として「償うことのできない損害」を肯定した判例として岡山地決2007年(平成19年)10月15日判時1994号26頁参照。

[3] 設置目的によって、憲法上の保護が変わり得る点については、上尾市福祉会館事件判決(最判1996年(平成8年)3月15日民集50巻3号549頁)参照。また、曽我部真裕「表現の自由(6)――表現等への政府援助とパブリック・フォーラム論」法教494号(2021年11月)71頁、特に73頁参照。

[4] もっとも、この程度で「設置目的に反する」とまでいえるかには、個人的に疑問がある。本件の集会も地域のコミュニティ活動であると言いうるように思われる。また、公園の場合、判例で問題となった市民会館や福祉会館と異なって、建物の構造や設備の観点から利用目的を限定する必要性がないことからすると、仮に条例で利用目的を限定していたとしても条例の目的を重く参照することに疑問がある。仮に泉佐野市民会館事件判決の判例の射程が及ぶという場合には、このような観点から立論することが考えられる。