法律解釈の手筋

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平成23年度(2011年度) 東大ロー入試 民事系 解答例

解答例

第1 設問1 (この設問では民法は法名略。)

1 AはBに対して、所有権に基づく乙建物収去甲土地明渡請求をすることが考えられる。

2 Aは甲土地を所有し、かつ、甲土地には乙建物が存在している。Bはある時点において、乙建物を所有していた。

3 これに対して、Bは、乙建物をCに売買した以上、乙建物の所有権を喪失し、自己は収去義務を負わないと反論することが考えられる。

4 もっとも、Aは、Bが未だ乙建物の登記を保有しているとして、Bが乙建物を占有していると再反論することが考えられる。

(1) 確かに、明渡請求に係る土地上の建物を売却した場合、既にかかる土地を占有しているとはいえず、原則として明渡請求は認められない。もっとも、登記を自己名義にしておきながら自らの所有権の喪失を主張し、その建物の収去義務を否定することは、信義にもとり、公平の見地に照らして許されない。

そこで、①他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、②引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないと考える[1][2]

(2) 本件では、Bが乙建物を建てた当時、Bは所有権保存登記をしており、かつ、その登記はBの意思に基づく。また、現在Bはかかる登記を保有している。

(3) したがって、Aの再反論は認められる。

5 よって、Aの請求は認められる。

第2 設問2 (以下、民事訴訟法は法名略。)

1 裁判所は、本件売買契約書上の印影がAの実印によるものであるという事実について自白が成立しており、裁判所拘束力によって、かかる事実を前提にその後の審理をしなければならないのではないか[3]

2 第1に、Aは第3回口頭弁論期日において、かかる事実と矛盾する、本件売買契約書上の印影がAの実印によるものでないという主張をしている。かかる主張によって、自白が撤回され、そもそも裁判所拘束力も生じないのではないか。自白の撤回に先立って、本件で当事者拘束力が生じるか。

(1) 当事者拘束力の生じる自白とは、相手方の主張する事実と一致する、自己に不利益な事実を認めて争わない旨の陳述をいう。当事者拘束力の趣旨は、第1次的には不要証効(179条)によって生じる相手方の信頼保護及び禁反言であり、間接的に、裁判所拘束力によるコスト管理の要請にある。 

そこで、「事実」とは、裁判所拘束力と同様に、主要事実に限ると考える。

また、「不利益」かどうかは、基準の明確性から、証明責任の分配基準によって決すると考える。証明責任は、ある一定の法律効果が有利に働く者が、当該法規の要件事実について、証明責任を負う。そして、その要件事実は、実体法の趣旨を基準に、立証の難易、証拠との距離等によって微調整する。

(2) 本件では、本件契約書上のAの印影がAの実印によるものであるという事実について問題となっている。かかる事実は、抗弁事実であるBC間売買契約締結の事実を直接証明する直接証拠たる売買契約書の証明力を基礎づける、2段の推定の1段目の推定を基礎づける事実である。したがって、証拠の証明力を左右する補助事実にあたる。

したがって、かかる事実は「事実」にあたらない。

(3) したがって、本件ではそもそも当事者拘束力は生じず、撤回が認められる。

3 よって、裁判所がかかる自白に拘束されることもないため、売買契約書の成立の真正について審理を行うべきである。

第3 設問3

1 CはAに対して、自己が民法94条2項の「第三者」にあたるとの主張をすることが考えられる。かかる主張が実体法上認められるか、認められるとして既判力(114条1項)により遮断されないか。

2 まず、94条2項の適用が認められるか。

(1) 甲土地についてB名義の登記という虚偽の外観が存在するが、A及びBはB名義の登記という「虚偽」の外観作出について「通謀」していないため、94条2項直接適用はない。

(2) もっとも、例外的に94条2項が類推適用されないか。

ア 94条2項の趣旨は権利外観法理にあるところ、①「虚偽」の外観が存在し、②本人に外観作出につき帰責性が認められ、③「第三者」が虚偽の外観を信頼した場合には、94条2項が類推適用されると考える。

イ 本件では、「虚偽」の外観は存在する(①充足)。また、Aは登記済証をBに渡しており、虚偽の外観作出につき帰責性が認められる。また、虚偽の外観の存在を知りながら書状の送付のみしか措置を講じていないところ、Aの帰責性は大きい。

一方、Cは当事者及びその一般承継人以外の者であって、B名義の外観を基礎に、新たな法律上の利害関係を有するに至っており「第三者」にあたる。また、Aの帰責性が大きい以上、第三者の信頼は文言通り「善意」をもって足りると考えるところ、Cは甲土地の事情について何も知らないため、「善意」である。

ウ したがって、94条2項類推適用が認められる。

2 次に、Cに前訴AB訴訟の既判力が及ぶか[4]

(1) 確かに、既判力の正当化根拠である手続保障充足に基づく自己責任の観点からは、既判力は当事者間にのみ及ぶのが原則(115条1項1号)であり、Cは「当事者」にあたらない。

(2) もっとも、例外的に、Cが「承継人」(115条1項3号)にあたり、既判力が及ばないか。

ア 同号の趣旨は、紛争解決の実効性確保にあるところ、事件適格によって判断する。そこで、「承継人」とは、紛争主体たる地位を承継した者をいうと考える。

イ 本件では、AB訴訟の係争物である甲土地上の乙建物の所有権移転登記がなされているところ、Cはかかる登記によって乙建物の収去義務という、紛争主体たる地位を承継したといえる。

ウ したがって、Cは「承継人」にあたり、例外的に既判力が及ぶ。

3 それでは、Cの上記主張は既判力によって遮断されないか。

ア 既判力の物的範囲は、審理の簡易化・弾力化の観点から、訴訟物にのみ及ぶ。また、時的範囲としては、手続保障の及んでいた時点、すなわち口頭弁論終結時を基準に判断する(民事執行法35条2項参照)。

本件では、前訴口頭弁論終結時について、AがBに対し甲土地明渡請求権が存在することについて、既判力が生じている。

イ これに対して、前訴でCが主張している事実は94条2項の「第三者」にあたるというものであり、上記既判力と矛盾抵触するものではない。

したがって、既判力によって本件主張は遮断されない。

ウ よって、Cは本件主張をすることができる。

以上

 

[1] 最判平成6・2・8参照。

[2] 要件事実論としては、再抗弁説と予備的主張(a+b)説で争いあり。判例法理が生み出した新たな占有事情と解するのであれば、予備的請求となる。対抗関係の裏返しとみるのであれば、再抗弁となる(判旨は対抗関係の類似性を指摘しており、再抗弁と捉えているのかもしれない。もっとも再抗弁説の場合、対抗要件とパラレルに考えるならば、抗弁として権利主張まで必要ということになり得るが、判例がそこまでの指摘をしているとは思われない。)。以下では、予備的主張説に立って記述。

請求原因:あ.甲土地A現所有 い.乙建物現存在 う.乙建物Bもと所有

抗弁(建物所有権喪失の抗弁):カ.BC乙建物売買

予備的請求:さ.本件建物、(う)の当時B名義の登記存在 し.(さ)の登記がBの意思に基づく す.B登記現保有

[3] 以下、自白の効力ごとにその適用を論じる書き方に従う。なお、この書き方はまだ受験生的通説ではないため少数派に外れるが、今後有力化していく(していってほしい)ものと思われる。

[4] 以下、固有の抗弁を有する第三者の論点を明示的に触れない書き方(そもそも論点とならないという理解)に従うが、受験戦略上正しい選択とは思われないため、おすすめしない。