法律解釈の手筋

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平成26年度(2014年度) 東大ロー入試 民事系 解答例

解答例

第1 小問1 ① (小問1では、民法は法名略。また、改正民法による。)

1 A社のB社に対する解除(以下「本件解除」という。)は、催告解除(541条)として有効か。

2 本件では、BがAに対し新型コピー機10台を売ることを内容とする売買契約(以下、「本件売買契約」という。)を締結した事実が認められる。本件売買契約の納期たる「確定期限」(412条1項)は8月末である。しかし、Bは8月末までにコピー機の納品はしていたものの、トナー・カートリッジと補修器具の納品をしていない。AはBに対し、9月2日、遅くとも1週間以内にトナーカートリッジ等の納品をしてほしいとの「相当の期間」を定めた「催告」をしている。それにもかかわらず、10月になっても補修器具が納品されていないところ、相当期間に「履行」がない。

3 これに対して、Bは、本件売買契約はコピー機についてであり、補修器具の納品をしていないことは債務不履行にあたらないと反論することが考えられる。

(1) 債務不履行解除の制度趣旨は、債権者を反対債務から解放し、もって契約目的不達成から救済する点にある。

そこで、当事者が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠ったに過ぎないような場合には、特段の事情の存しない限り、相手方は当該契約を解除することができないと考える[1]

(2) 本件では、トナー・カートリッジと補修器具が8月末までに納品されていない。このうち、トナー・カートリッジがなければコピーができない以上、トナー・カートリッジの納品は新型コピー機の売買契約の要素を構成するといえる。これに対して、補修器具は、これがなければコピーができないという類のものではなく、本件売買契約の要素とはいえない。したがって、補修器具の納品がなされていないことは、付随的義務の不履行とはいえない。そして、トナー・カートリッジの納品は9月5日になされており、相当期間内に「履行」がなされている。

(3)  したがって、Aは本件売買契約を解除することができない。

3 よって、A社の解除は有効になされていない。

第2 小問1 ②

解除の制度趣旨は、前述のとおりである。かかる趣旨からすれば、催告をして相当期間が経過したとしても、債務不履行にかかる義務が契約目的達成のために必要とはいえない場合には上記趣旨が妥当しない。

そこで、催告をしたとしても、その債務不履行が軽微である場合には、解除ができないことを明示すべきである[2]

したがって、本問の意見が妥当である。

第3 小問2 (この小問では、民事訴訟法は法名略。)

1 ①について

訴訟上の和解については、「確定判決と同一の効力」(267条)が認められるが、かかる効力に既判力が含まれるか。

訴訟上の和解は裁判所の判断作用を介さない自主的紛争解決方法であるため、既判力は否定すべきであると考える。判例は、既判力のうち、判決主文に矛盾する主張を許さないという側面は肯定し判決の形成についての攻撃を許さないという側面を否定する制限的既判力説にたつとされるが、前者は民法696条によって達成される以上、既判力概念を分解する実益に乏しいため、かかる見解は妥当でない。

2 ②について

(1) A社は、AB間での訴訟上の和解が表見法理(会社法354条)によって有効であると主張すべきである。

ア 訴訟行為に私法上の規定が適用されるかどうかが問題となるが、判例は、訴訟行為への私法法規の適用を否定する[3]

しかし、判例の事案は、訴訟上の和解ではなく、訴訟追行における訴訟行為への私法法規の適用が問題となった事案である。積み重ねのある訴訟行為は、相手方の主観によって左右されるのは法的安定性を害する。しかし、訴訟手続を終了させる行為は、訴訟行為が積み重なることがないためかかる法的安定性が問題とならず、判例の射程が及ばない。

そこで、訴訟上の和解など、訴訟行為の積み重ねがない場合には、訴訟行為へ私法法規が類推適用されると考える。

イ 本件では、訴訟上の和解における表見法理の適用が問題となっている。

ウ したがって、会社法354条の類推適用が認められ、CがB社の代表取締役でないことについてA社が善意無重過失である場合には、訴訟上の和解は有効である。

(2) よって、A社は上記のように法律論を展開すべきである。

以上

 

[1] 最判昭和36年11月21日参照。

[2] 改正民法541条参照。

[3] 最判昭和45年12月15日参照。もっとも、昭和45年判決は、第1審に差し戻して補正を命じることで判決を無に帰さないようにする手当が施されている。