法律解釈の手筋

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平成29年 予備試験 行政法 解答例

解答例

第1 設問1

 1 Aは、本件申請に対する許可の留保は、行政庁の応答義務(行手法7条)に反し違法であると主張することが考えられる[1]

 2 廃棄物処理法(以下「法」という。)15条の2第1項は、同項各号要件を全て充足しない限り「許可をしてはならない」と定めており、全て充たした場合に必ず許可をしなければならない旨を定めていない。そうだとすれば、行政庁には同項の許可処分について効果裁量が認められる可能性がある。しかし、効果裁量が認められるとしても、行政庁が直ちに許可処分をしなくてよいことまでもを認める趣旨ではなく、時の裁量は認められないと考える。したがって、行政庁には速やかに許可申請に応答する義務はあると考える[2](行手法7条)。

   もっとも、普通地方公共団体は、地方公共の秩序維持、住民の安全、健康及び福祉の保持、公害の防止その他の環境の整備保全に関する事項の処理をその責務のひとつとし(地方自治法2条3項1号、7号)、また、廃棄物処理法は生活環境の保全及び公衆衛生の向上を目的とする(法1条)。そこで、当該地域の生活環境の保全、向上を図るために、申請者に対し、廃棄物処理施設の設置につき一定の譲歩・協力を求める行政指導を行い、申請者が任意にこれに応じているものと認められる場合においては、社会通念上合理的と認められる期間行政庁が申請に係る施設設置に対する許可処分を留保することは許されると考える。

しかし、許可処分の留保は、申請者の任意の協力・服従のもとに行政指導が行われていることに基づく事実上の措置にとどまるため、①申請者が行政指導には応じられないとの意思を明確に表明している場合、②当該申請者が受ける不利益と右行政指導の目的とする公益上の必要性とを比較衡量して、右行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するものといえるような特段の事情が存在しない限り、意思の表明以降に行政指導が行われているとの理由だけで許可処分を留保することは違法であると考える[3](行手法33条参照)[4]

 3 以下、本件について検討する。

 (1) ①要件充足性

Aは、当初Bの行政指導を受けて、住民に対する説明会を開催するなど、行政指導に任意に応じていた。しかし、その後、Aは行政指導にはこれ以上応じられないので直ちに本件申請に対して許可をするように求める旨の内容証明郵便を送付している(①充足)。

 (2) ②要件充足性

   ア まず、Aは、住民に対する説明会を開催し、本件処分場の安全性を説明したり、本件提案をしたり、住民との円満な解決のために努力をしている。また、Aには、建設資材の価格が上昇しAの経営状況を圧迫するおそれという不利益が生じていた。以上にかんがみれば、Aには特段の事情は認められないと主張する。

   イ これに対して、被告としては、Aは、(ア)住民のように装ったA社従業員を説明会に参加させ,本件処分場の安全性に問題がないとする方向の質問をさせたり意見を述べさせたりした、(イ)あえて手狭な説明会場を準備し,賛成派住民を早めに会場に到着させて,反対派住民が十分に参加できないような形で説明会を運営した、という事情があった以上、正義の観念に反するといえる事情が存在するため、特段の事情が認められると反論することが考えられる。

   ウ 以上の反論については、Aは、本件処分場の安全性については説明を尽くしたし、本件提案は(ア)(イ)のような事情は関係なく住民に安全性を客観的に判断してもらえる以上、かかる反論は正義の観念に反するとまではいえないと主張すべきである[5]

 4 以上より、Aの内容証明郵便送付以降の許可の留保は違法である。

第2 設問2

 1 C1及びC2は「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)にあたるか。

 2 「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして、当該処分を定める行政法規が不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益にあたると考える。

 3 本件では、C1及びC2は処分の名宛人ではないため、9条2項を考慮しつつ判断する。

 4 C1について

 (1) C1は本件予定地から下流側に2キロメートル離れた場所に居住し、地下水を利用して高級ぶどうを栽培しているところ、C1の受ける不利益は、有害物質が地下水に流れることで、ぶどうが汚染された地下水によって汚染され販売できなくなるという不利益である。なお、C1は地下水を飲用していないため、有害物質が地下水に流れることで、自己の健康が害されるという不利益を受けるおそれはない。

 (2) 廃棄物処理法の目的は、生活環境の保全及び公衆衛生の向上にあるところ、栽培物の保護ないしは財産権の保護を趣旨とする根拠条文は見当たらない。以上にかんがみれば、C1の上記不利益は、廃棄物処理法によって保護される利益ではない。

 (3) したがって、C1の上記不利益は法律上保護された利益にはあたらない。

 5 C2について

 (1) C2は、本件予定地から上流側に約500メートル離れた場所に居住しているところ、C2の本件許可によって受ける不利益は、本件処分場の有害物質が風等の影響で飛散した場合に、C2の居住地に到達することにより生活環境が侵害されるおそれという不利益である。

 (2) 前述のとおり、法の目的は生活環境の保全にある。また、法15条1項の許可については、同法15条の2第1項各号の要件を充足しなければならず、同項2号の周辺地域の生活環境の保全に適正な配慮を求める。また、同法15条3項、法施行規則11条の2は、許可申請に際して、周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査結果書類の添付を求める。さらに、同条4項は、許可申請及び同条3項の書類について公示することを定め、同条5項は利害関係人に生活環境の保全の観点から意見書の提出を認めている。以上の規定にかんがみれば、法は許可制度を設けることで周辺地域の生活環境という利益を保護しているものといえる。したがって、不特定多数者のかかる利益を保護しているものといえる。

 (3) そして、産業廃棄物処理施設から流出するおそれのある有害物質は、周辺地域の住民に著しい被害を与えるおそれのあるものであり、かかる被害は産業廃棄物処理施設に近い場所に居住する者に、直接かつ重大な被害を与えうるものである。

    健康又は生活環境にかかる著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民のかかる利益については、個別的利益としても保護していると考える[6]

 (4) 本件では、C2は本件処分場から500メートルという近接した場所に居住する。法15条3項の調査に関する指針によれば、当該施設の設置が生活環境に影響を及ぼすおそれがある地域を対象地域として行うものとされているところ、本件調査書において、C2の居住地は上記の対象地域に含まれている。かかる調査報告書の対象地域の選定の趣旨からすれば、C2の居住する場所は、本件処分場の設置によってC2の生活環境に著しい被害を受けるものと想定されているということができる。

 (5) したがって、C2は法律上保護された利益を有する。

6 以上より、C2に原告適格が認められる。なお、これに対して、C1の居住地は上記対象地域に含まれていないところ、仮にC1の生活環境に被害が及ぶとしてもそれは直接的なものではなく、法律上保護された利益にあたらない。この点からも、C1には原告適格は認められない。

以上

 

[1] この他に行手法33条違反の主張が考えられるが、本件では「許可の留保」の違法性が問題となっているのであり、「行政指導」の違法性が問題となっているわけではないため、行手法33条は問題にならないと思われる。

[2] したがって、行政庁に裁量が認められるとしてもこの点から昭和60年判例の射程が及ばなくなるわけではないように思われる。出題趣旨もこの点について何も触れていないことからも推測される。

[3] 最判1985年(昭和60年)7月16日参照。

[4] 本番では、ここまで長く論証する時間はないものと思われるところ、判例規範を明示するだけで十分足りると思われる。

[5] 特段の事情を認めた判例として岡山地判1996年(平成8年)7月23日参照。かかる裁判例では、原告が事前協議や行政指導を無視するような態度をとっていたことが特段の事情の存在を推認するとしている。かかる判例と比べれば、Aにはそこまでの悪性はないようにも思われる。

[6] 産業廃棄物処分業の許可処分に対する取消訴訟に関して、産業廃棄物最終処分場の周辺住民のうち、当該処分場から排出された有害物質により健康または生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者が原告適格を有するとした判例として、最判2014年(26年)7月29日民集68巻6号620頁参照。

なお、「産業廃棄物の最終処分場の周辺に居住する住民が,当該最終処分場から有害な物質が排出された場合にこれに起因する大気や土壌の汚染,水質の汚濁,悪臭等により健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たるか否かは,当該住民の居住する地域が上記の著しい被害を直接的に受けるものと想定される地域であるか否かによって判断すべき」とする。