法律解釈の手筋

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平成25年度 予備試験 行政法 解答例

解答例

第1 設問1

 1 景観法(以下「法」という。)16条1項1号は建築物の新築をしようとする者に同項列挙事項の届出義務を定めているにすぎず、この点に景観行政団体の長に拒否権限が認められていない。したがって、同条に基づくBの届出について、A市長の許可処分等は認められず、処分取消訴訟(行訴法3条2項)を提起することはできない。

そこで、Cとしては、A市長に法17条1項の変更命令等を適切に行使させるため、A市を被告として(行訴法11条1項1号)、変更命令等の義務付け訴訟(行訴法3条6項1号、37条の2第1項)を提起することが必要である。

 2 もっとも、法17条2項によれば、同条1項の変更命令等は、法16条1項の届け出をした者に対しては、当該届出があった日から30日以内に限ってすることができる。上記訴訟によっていては、Bの届出から30日を超えることがほぼ確実である。そこで、Cとしては、仮の義務付け(行訴法37条の5第1項)の申立てをする必要がある。

第2 設問2

 1 Cは「法律上の利益を有する者」(行訴法37条の2第3項)にあたらず、原告適格を有しない。

 (1) 「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は侵害されるおそれのある者をいう。そして、当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も法律上保護された利益にあたる。

 (2) Cは求める処分の名宛人ではなく、かつ、かかる処分によって自己の権利利益が侵害される者でもないため、行訴法37条の2第4項の事由を考慮して判断する。

 (3) Cが上記処分をされないことによって受ける不利益は、本件マンションの建築による良好な景観が破壊されるというものである。

 (4) 法1条は、美しく風格のある国土の形成、潤いのある豊かな生活環境の創造及び個性的で活力ある地域社会の実現を図ることを目的としている。また、法2条は、良好な景観の整備及び保全をその基本理念とし、法6条は良好な景観の形成に関する施策への協力を住民の責務としている。法8条は、景観計画区域内において景観計画を定める権限を景観行政団体に与え、法16条はかかる区域内での建築物の建築等について届け出義務を負わせる。法17条は、かかる景観計画に沿わない建築物等について変更命令等の権限を行政団体の長に与える。以上にかんがみれば、景観法は、届け出制度及び変更命令等の制度によって、景観計画区域内の景観の利益を保護しようとしているものといえる。したがって、不特定多数者のかかる景観利益を保護しているものといえる。

 (5) しかし、景観利益というものは、法2条が現在及び将来の国民がその利益を享受できるようにしなければならないとしているように、その性質上国民全体が等しく享受する利益である。また、かかる利益について個別的利益として保護すべきものと解されるような法令上の手掛かりもない。以上にかんがみれば、上記景観利益は、個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むとはいえない[1]

 (6) したがって、Cは「法律上の利益を有する者」にあたらず、原告適格が認められない。

 2 上記のとおり、義務付け訴訟は訴訟要件を充足せず不適法[2]であるため、仮の義務付けの申立ても不適法である。

 3 以上より、義務付けの訴え及び仮の義務付けの申立ては、どちらも不適法である。

以上

 

[1] 景観利益について取消訴訟の原告適格を認めた判例は存在しない。なお、広島地判2009年(平成21年)10月1日判時2060号3頁は、景観利益について原告適格を認めた。もっとも、同判決は、①公水法3条が利害関係人に意見書提出の機会を与えていること、②瀬戸内法13条1項は、公水法2条1項の免許の判断をするにあたっては、瀬戸内法3条1項規定の瀬戸内海の特殊性に配慮しなければならないこと③公水法4条1項3号には国又は地方公共団体の法律に基づく計画に違背していないことを埋立免許の要件とし、瀬戸内法13条2項に基づいて立てられた政府の基本計画および広島県計画には地域住民の意見を埋立事業に反映させることを求める定めが存すること等も考慮したうえで、個別的利益要件を認定している。本問では、このような事情は存在しないところ、やはり原告適格を肯定することは困難なように思われる。

[2] なお、原告適格を肯定した場合には、「重大な損害」要件充足性が問題となる。この点について、2009年広島地判は、景観利益が「日々の生活に密接に関連した利益といえること,景観利益は,一度損なわれたならば,金銭賠償によって回復することは困難な性質のものであること」を理由に「重大な損害」要件を認めていることが参考になる。