解答例
第1 甲の罪責(以下、刑法は法名略。)[1]
1 甲が、某年7月1日午後6時40分頃、第1現場において、自己のものにしようと本件ケースを拾い上げて自己のズボンのポケットに入れた行為に、窃盗罪が成立する。
(1) 本件ケースは、Aたる「他人」の所有する「財物」にあたる。
(2) 上記行為は、Aが第1現場から見えなくなった時点で行われているが、なお「窃取」にあたる。
ア 「窃取」とは、他人の占有する財物を自己又は第三者の占有に移転する行為をいう。「占有」とは、財物に対する事実上の支配をいう。
イ 上記行為時、Aは、第1現場から姿の見えなくなるところまで行っていた。しかし、第1現場とAの距離は道のり約100メートルと近い。また、Aのいた地点から約20メートル交差点付近まで戻れば第1現場を見通すことができたのであり、Aは本件ケースをなお視認可能な距離にいたといえ、場所的近接性が認められる。さらに、上記行為は、Aが本件ケースを落としてから約1分後のことであり、時間的近接性が認められる。以上にかんがみれば、Aの本件ケースに対する事実上の支配は及んでいる。
ウ したがって、上記行為は、本件ケースを甲たる自己の占有に移転する「窃取」行為にあたる。
(3) よって、甲の上記行為に窃盗罪が成立する。
2 甲が、某年7月1日午後6時50分頃、第2現場において、本件自転車を持ち去った行為に、窃盗罪が成立する。
(1) 本件自転車は、Bたる「他人」の「財物」にあたる。
(2) 上記行為は、第2現場という、駐輪場でない歩道に本件自転車が駐輪されてから40分以上が経過してから行なわれたものであるが、なお「窃取」にあたる。