解答例
第1 設問1
1 ①ないし③の写真撮影は適法か。
(1) 写真撮影は、特定の場所や物や人の身体の性質・状態等を五官の作用で認識する活動という検証たる性質を有する。そして、住居内を撮影する行為は憲法35条が保障するプライヴァシィの利益に「侵入」するものであるといえ、原則として検証令状が必要である(218条1項)。
もっとも、捜索差押の際に捜査機関が証拠物の証拠価値を保存するために証拠物をその発見された場所、発見された状態において写真撮影することや、捜索差押手続の適法性を担保するためにその執行状況を写真撮影することは、捜索差押に付随する処分として捜索差押許可状の効力により許される[1]。捜索差押に伴うプライバシー侵害については、既に司法審査済みだからである。
そこで、捜索差押時の写真撮影が許されるのは、①当該写真撮影の目的に照らし、証拠価値の保存または手続の適法性担保のために必要であり、かつ、②当該捜索差押許可状に際して司法審査を受けた範囲を超えて新たなプライバシー侵害に当たらない相当な範囲に限られるべきである。
(2) 写真撮影①について
ア 当該写真撮影は、甲に捜索差押許可状を呈示した状況を撮影したものである。刑訴法は捜索差押に先立って令状を呈示することを要求していると一般に解されている(110条・憲法31条参照)ところ、①は、かかる事前呈示が本件において適法になされたことを担保するためになされたものである(①充足)。
イ そして、それによって侵害される権利利益は、捜索差押にかかる処分と異ならない(②充足)。
ウ したがって、写真撮影①は適法である。
(3) 写真撮影②について
ア 当該写真撮影は、差押対象物であるサバイバルナイフの発見状況を撮影したものである。差押対象物を具体的にどのような場所で見つけたかということは犯人性立証の観点で重要な証拠価値を有することが少なくないところ、本件撮影は、証拠価値の保存のために必要なものであったといえる。
イ 本件撮影に際しては、甲名義の運転免許証及び健康保険証も撮影されているところ、差押対象物以外も被写体となっている。しかし、そもそも写真撮影において差押対象物と異なる物が写ることは避けられないし、捜索によってかかる本人確認書類を見られることは令状裁判官によって審査済みであったともいえる。また、それによるプライバシー侵害の程度も必要な処分の範囲に収まる。
ウ したがって、写真撮影②は適法である。
(4) 写真撮影③について
ア 当該写真撮影は、差押対象物でない、注射器及びビニール小袋を撮影したものである。これは、証拠物の証拠価値保存の目的でもなければ、捜査の適法性担保の目的でもない(①充足)。
イ したがって、写真撮影③は違法である。
2 以上より、司法警察らPらが、捜索差押え許可状(218条)に基づき甲宅を捜索した際、写真撮影①②をしたことは、捜索差押えに付随する処分として適法であるが、写真撮影③をしたことは、令状主義に反して違法である。
第2 設問2
1 書面全体について
(1) 本件書面は、伝聞証拠(320条1項)にあたり、原則として証拠能力が認められないのではないか。
ア 伝聞法則の趣旨は、知覚、記憶、叙述・表現の各過程に誤りが介在するおそれがあるにも関わらず、反対尋問等によって内容の正確性を担保できないため、誤判防止の観点から、証拠能力を否定する点にある。
そこで、伝聞証拠とは、①公判廷期日外の供述を内容とする証拠で、②当該公判廷外供述の内容の真実性を証明するために用いられるものをいう。
イ 本件書面は、公判廷期日外の供述を内容とするものである(①充足)。
本件では、サバイバルナイフが甲名義の運転免許証及び健康保険証の横にあるという事実から、サバイバルナイフが甲所有の物であることを推認し、それによって、甲の犯人性を立証しようとしているものと考えられる。したがって、本件要証事実は、サバイバルナイフが甲名義の運転免許証及び健康保険証の横にあったこと、といえる。そうだとすれば、本件書面の内容の真実性が問題となるといえる(②充足)。
ウ したがって、本件書面は伝聞証拠にあたる。
(2) もっとも、例外的に証拠能力が認められないか。
ア 本件書面は、捜査機関が事物の対象を五官の作用により認識する検証類似の作用を営むものであるところ、321条3項が準用されると考える。
イ そこで、捜査機関がその書面の内容及び作成の真正について供述すれば、証拠能力が例外的に認められる。
2 写真部分について
写真というものは、知覚、記憶、叙述・表現という各過程に誤りが介在するおそれが少ない。したがって、伝聞証拠の趣旨が及ばないため非伝聞となり、証拠能力が認められると考える。
以上
[1] 最決平成2年6月27日参照。