法律解釈の手筋

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平成29年度 予備試験 刑事訴訟法 解答例

解答例 

第1 設問1 (以下、刑事訴訟法は法名略。)

1 第1に、甲は下線部①逮捕(以下「①逮捕」という。)時に実行行為を継続していたわけではないため、「現に罪を行」(212条1項)う者にはあたらない。

2 第2に、甲が「現に罪を行い終った者」(212条1項)にあたり、①逮捕が現行犯逮捕として適法とならないか。

(1) 同項が無令状での逮捕を認める趣旨は、犯人・犯罪の明白性があり誤認逮捕のおそれがなく、令状審査を経る必要性が乏しい点にあり「現に罪を行い終った」との文言は、逮捕者が犯罪と犯人を誤りなく明認できる場合を、時間的段階を用いて示すことにその趣旨がある。

そこで、「現に罪を行い終った」とは、時間的段階に相応する犯罪の生々しい痕跡を残した客観的状況[1]が存在すること[2]をいうと考える。

(2) 本件では、確かに、逮捕時に甲は犯行を認めている。また、Wの供述による犯人の特徴との一致があり、かつ、犯人が逃走した方向で甲を発見しているところ、逮捕者たる警察官において、犯人・犯罪の明白性があるとも思える。しかし、犯行を認める供述のみでは、真犯人の身代わりとして供述している可能性が否定しきれず、それのみでは客観的状況として足りない。特に、①逮捕は、犯行から約30分、犯行現場から約2キロメートルというように時間的・場所的接着性が弱く、より犯人・犯罪の明白性を基礎付ける客観的状況が必要である。それにも関わらず、本件では、目撃者Wは犯行後約1分後、犯行現場から約200メートルという早い段階で犯人を見失っている。①逮捕の時間的・場所的隔離に鑑みれば、本件被疑事実の犯人がそれ以外の者と混同するおそれが十分に生じている。そうだとすれば、甲が犯人の特徴と一致していることと犯人の逃走した方向で甲を発見したことのみでは、時間的段階に応じた生々しい痕跡を残した客観的状況としては足りない。

(3) したがって、甲は「現に罪を行い終った」者にはあたらない。

3 第3に、甲が212条2項のいわゆる準現行犯人にあたり、①逮捕が現行犯逮捕として適法とならないか。

(1) 同項各号該当性

ア まず、212条2項は時間的・場所的接着性が教義の現行犯逮捕に比べ弱いから、犯人・犯罪の明白性を客観的に担保するため、同項各号のいずれかにあたることが必要である。

イ 本件では、甲は「犯人として追呼」されていないし、「犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物」も持っていない。また、「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡」もない。そして、「誰何されて逃走しようとする」こともしていない。

ウ したがって、①逮捕に同項各号該当性は認められない。

(2) よって、甲は準現行犯人にもあたらない。なお、このように解すると、犯人はあえて犯行を認めると逮捕されないという結果になるが、警察官はその場に留め置いて、逮捕令状の発付請求をすれば足りるし、その際に犯人が逃げようとするのであれば、今度は212条2項4号に該当することになり得るため、不都合はないと考える。

4 以上より、①逮捕は現行犯逮捕として不適法である。

第2 設問2 小問1

1 256条3項の訴因の第1次的機能は審判対象画定機能にあり、その反射的効果として被告への防御機能がある。そこで、①構成要件に該当する具体的事実が記載され、②他の犯罪事実との識別が可能である場合には、訴因が特定されている と考える。

2 本件では、甲は殺人罪の共同正犯の罪で起訴されている。起訴状には、Vという「人」に対して、「殺意をもって」、甲がサバイバルナイフでVの胸部を1回突き刺すという殺人罪の実行行為が特定され、それに「よって」、Vが「死亡」したとの記載がある。また、「共謀の上」という記載によって、共同正犯の構成要件該当事実も記載されている(①充足)。そして、実行行為が日時・場所によって特定されている以上、他の犯罪事実との識別も可能である(②充足)。

なお、共謀共同正犯には客観的な謀議行為は必要ではなく、実行行為時における犯罪の共同遂行の合意があれば足りると考える 。そうだとすれば、「共謀の上」との記載で足り、具体的な謀議行為は訴因の特定に必要不可欠とはいえない。また、実行行為者が誰であっても共謀共同正犯が成立する以上、実行行為者の特定も訴因の特定に必要不可欠とまではいえないと考える。

3 したがって、本件では、訴因は「特定」されている。

第3 設問2 小問2

前述のとおり、共謀の具体的内容は訴因の特定に必要不可欠とまではいえない。そうだとすれば、客観的謀議行為を特定した③の釈明も、訴因の特定に必要不可欠な事実ではない。

したがって、訴因変更手続を経ていない本件においては、③の釈明の事実は訴因の内容とはならない。

第4 設問2 小問3

1 本件では、③の釈明の事項である平成29年5月18日の共謀の事実と異なって、同月11日の共謀を認定している。客観的謀議行為は審判対象画定に必要な事実ではなく、かつ、③の釈明事項は訴因に明示されていないため、訴因変更手続を経ることなく、裁判所は上記認定をすることができる。

2 そうだとしても、裁判所が争点顕在化措置を講じることなく上記認定をすることは、379条に反し、許されないのではないか。裁判所に争点顕在化措置義務があるかが問題となる。

(1) 裁判所は、訴因変更を要しない事実だとしても、審理全体を通して争点明確化による不意打ち防止の要請が働く以上、被告人の防御に配慮すべきである。そこで、被告人に不意打ちのおそれがある場合には、裁判所には争点顕在化措置義務があり、その義務懈怠は379条違反となると考える[3]

(2) 本件では、③の釈明によって平成29年5月18日に謀議行為があったと釈明されている。したがって、裁判所には争点顕在化措置義務が認められる。それにも関わらず、裁判所は判決において、急に同月11日に謀議行為があったと認定しており、裁判所が争点顕在化措置を講じたという事情は存在しない。。これでは、甲は、5月11日にアリバイがあり謀議行為はなされなかった等の主張によって防御を尽くすことができず、不意打ちとなる。

したがって、裁判所には争点顕在化措置義務の懈怠が認められる。

(3) よって、本件判決は379条に反し、許されない。

以上

 

[1] 考慮要素としては、時間的・場所的接着性のほかに、現場の状況、被害者の挙動等、逮捕時における犯人の挙動等、被害者・目撃者と犯人の接触状況(継続的な追尾の有無)等がある。

[2] 大澤裕「被疑者の身体拘束―概説(2)」(有斐閣、法学教室444号) 118頁参照。①犯人・犯罪の明白性と②時間的場所的接着性の2要件を要求しない見解。この場合、時間的接着性は「生々しい痕跡」の考慮要素の1つということになる。

[3] 最判昭和58年12月13日参照。