法律解釈の手筋

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令和元年 予備試験 刑事訴訟法 解答速報 解答例

解答例

1 本件勾留に先立つ逮捕が違法であるとして、かかる逮捕が違法であることによって勾留が違法とならないか。

(1) 法は、正当事由なく法定の時間制限を超えてなされた勾留請求を却下しなければならないとする(207条5項但し書、206条2項)。その実質的理由は、逮捕には不服申立て制度が用意されていないこと及び将来の違法捜査抑止にある。そこで、逮捕手続で制限期間不遵守に匹敵する重大な違法があった場合には、勾留請求は却下すべきと考える。

(2) 逮捕の適法性

  ア Pらが、甲の片腕を車内から引っ張り、Pが、甲の背中を押し、後部座席中央に甲を座らせ、その両側にPとQが甲を挟むようにして座った上、パトカーを出発させた一連の行為が実質的に逮捕にあたるにもかかわらず、逮捕令状の発付を受けていないため、令状主義(憲法33条、刑訴法199条1項)に反し違法とならないか。

  イ 逮捕とは、個人の意思を制圧して、身体を拘束するという重要な法益侵害を伴う強制処分である。実質的に逮捕にあたるかどうかは、①同行を求めた時間・場所②同行の方法・態様③同行を求める必要性等を総合考慮して判断すべきと考える。

  ウ 本件では、甲は「俺はいかないぞ。」と言い、明確に任意同行の求めを拒否しており、H警察署までの連行は、甲の明示の意思に反する。本件事案は、午前3時20分という深夜における事案であり、通常であれば家に帰りたい時間帯のことである。また、上記一連の行為は、甲の片腕及び背中を押してパトカーに押し込んでいるところ、甲の抵抗を抑圧するに足る行為といえる。また、パトカーの後部座席に座らせた後は、PおよびQが甲を挟むようにして座っており、甲が自由にパトカーから降りられる状況にはなかった。また、本件では、甲の取調べによって交通の妨げになっているという事情はなく、警察署までの同行を求める必要性も高くなかった。以上にかんがみれば、Pらの上記一連の行為は実質的に甲の意思を制圧して身体を拘束する処分であり、逮捕にあたる。

  エ したがって、Pらの上記行為は実質逮捕にあたる。なお、本件実質逮捕は、被疑事実の1日後になされている以上、現行犯逮捕(212条1項、2項)の要件を充足することはなく、逮捕令状を欠く本件実質逮捕は199条1項に違反する違法がある。

 (3) 違法の重大性

  ア それでは、上記違法は制限期間不遵守に匹敵する重大な違法といえるか。

  イ 本件では、確かに実質逮捕がなされた時点において逮捕状が発付されていない。

しかし、実質逮捕の時点において、身体的特徴が被疑事実の犯人と相当程度類似し、かつ、本件事件の被害品であるV名義のクレジットカードが出てきていることから、甲は「罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある」(210条)といえる。被害品であるクレジットカードはその証拠隠滅が容易である上、甲は仕事も家もないため、ここで逃走されてしまうと、逃亡及び罪証隠滅の防止という逮捕の目的を達することが著しく困難であるといえ、逮捕について「急速を要」する事情も損した。本件事件は、住居侵入罪(刑法130条前段)及び窃盗罪(235条)であるところ、牽連犯であることを考慮しても窃盗罪の刑期は「十年以下の懲役」とされ、「長期三年以上の懲役……にあたる罪」にあたる。

以上にかんがみれば、実質逮捕時点において、緊急逮捕の理由及び必要性が認められる。

  ウ 本件実質逮捕時点は6月6日午後3時5分頃であり、甲が検察官に送致されたのは同月7日午前8時30分であるため、実質逮捕時点から送致まで約29時間30分であり「四十八時間以内」に行われている(203条1項)。また、その後甲の勾留請求は同月7日午後1時になされており、勾留請求は送致から「二十四時間以内」に行われており(205条1項)、被疑者の身体拘束から勾留請求まで「七十二時間以内」に行われてもいる(同条2項)。

  エ そして、本件実質逮捕の5時間後という比較的短時間の内には通常逮捕の手続が採られており、適法行為との隔たりが、重大とはいえない程度にまで埋め合わされるといえる。

  オ 以上にかんがみれば、実質的逮捕の違法性の程度はその後になされた勾留を違法ならしめるほど重大なものではない。

2 以上より、本件勾留は適法である。

以上