法律解釈の手筋

再現答案、参考答案、法律の解釈etc…徒然とUPしていくブログ… ※コメントや質問はTwitterまで!

令和3年度 予備試験 刑事訴訟法 再現答案【Aさん】

再現答案

設問1.Pによる甲の準現行犯逮捕(213条、212条2項)は適法か。

(1)この点、準現行犯逮捕が適法となるには、①逮捕者にとっての犯罪と犯人の明白性、②時間的・場所的近接性、③212条2項各号のいずれかに該当することが必要であると解する。

(2)まず、甲は被害品と特徴の一致するバッグを持っているから2号該当性が認められる。また、甲はPに呼ばれるなり逃げだしているから4号該当性も認められる(③充足)。

 そして、Pが甲を逮捕したのは、事件から約2時間後であり、その場所も同じ市内の約5キロメートル離れた地点にすぎず、いまだ時間的・場所的近接性が認められる(②充足)。

 Pは、犯行の20分後に、いまだ記憶の新しいVから犯人らの特徴を聞き出し、防犯カメラで、犯行直後に犯人らの特徴と一致する男が走り去っていく様子を確認している。そして、犯行から2時間後、5キロメートル離れた時点で、犯人らの特徴と一致し、被害品と特徴の一致するバッグを持った甲らを発見し、甲らは警察官であるPが呼びかけるなり逃走を図っているのであるから、Pにとって犯罪と犯人が明白であるといえる(①充足)。

 したがって、Pによる甲の準現行犯逮捕は適法である。

設問2.Rによる接見指定(39条3項)は適法か。

(1)甲については「公訴の提起前」であるから、「捜査のため必要があるとき」といえるかが問題となる。

 この点、接見指定制度の趣旨は被疑者の身柄利用の時間的調整にある。そこで、接見等を認めることで捜査に著しい支障が生ずる場合には「捜査のため必要があるとき」といえると解する。

 本件では、接見を認めた場合、現場に到着するのが遅くなり、周囲が暗くなってしまい、ナイフを見つけることが困難になる。また、もう1人の男が所在不明であり、甲によると、もう1人の男は証拠であるナイフを捨てた場所を知っているから、ナイフを隠滅されてしまうおそれがある。よって、捜査に著しい支障が生じる場合といえるから、「捜査のため必要があるとき」にあたる。

(2)もっとも、Sによる接見は、弁護人になろうとする者との初回の接見であるから、甲の防御の準備をする権利を不当に制限するものとして違法にならないか。

 この点、弁護人となろうとする者との初回の接見は、弁護人の選任を目的とし、その後の取調べについての最初の助言を得る機会であり、憲法上の保障の出発点をなす重要なものである。そこで、捜査機関は、弁護人となろうとする者と協議をして、即時または近接した時点で接見を認めても接見の時間を指定することで捜査に顕著な支障が生じることを避けることができるかを検討し、これが可能な場合には、時間を指定した上で即時または近接した時点での接見を認めなければ、違法となると解する。

 本件では、Rは、捜査上の必要性を考慮した上でSと協議しており、代わりの時間として3時間後の午後8時以降を提示している。上述の実況見分の必要性と、実況見分に要するであろう時間を考慮すると妥当な範囲であって、甲が任意に案内すると言っていることを踏まえると相当なものとも思える。しかし、憲法34条の保障する弁護人選任権の重要性に鑑みると、たとえ10分、15分など短い時間であっても、実況見分前に接見を認めるべきである。よって、その可能性を協議しないまま、Sの事情を踏まえず、翌朝9時以降にしてほしい旨を一方的に伝えて通話を終えたRの対応は違法なものである。

 したがって、Rによる接見指定は違法である。