解答例
第1 設問1
1 訴訟の提起
Aの入学不許可処分(以下「本件処分」という。)の取消訴訟(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条2項)及び入学許可処分の義務付け訴訟(同条6項1号)を提起する。
2 憲法上の主張
(1) 取消事由及び義務付け事由として、本件処分は、平等原則(憲法(以下法名略。)14条1項)に反し、違憲である、と主張する。
(2) まず、Aの入学者選抜制度は、男性受験生に比して女性受験生を優遇する点で、男性と女性との間に別異取扱いが認められる。
(3) 次に、上記別異取扱いは、正当化されない。
ア まず、上記別異取扱いは性別という個人の努力によって変更することのできない地位に基づくものであり、疑わしい差別である。また、大学院での研究は、大学の教授その他の研究者の有する特別な学問の自由と自治の効果として学問の自由(23条)が認められるところ、上記別異取扱いは重要な法的地位に関するものである。以上にかんがみれば、積極的差別是正措置も、疑わしい区別事由が問題となる場合には、厳格な審査基準に服すると考える。具体的には、①やむにやまれぬ利益のために、②限定的に策定された手段でない限り、正当化されないと考える。
イ 本件別異取扱いの目的は、学内の多様性の確保、具体的には、女性比率の向上にある。しかし、法曹人口における女性比率の割合は年々増加傾向にあり、20年で3倍に増加していることからすれば、あえて優遇措置をとって女性比率の向上を目指すものでもない。したがって、本件目的は、やむにやまれない利益とまではいえない(①不充足)。次に、本件手段は、一定の枠を女性受験生に割り当てる、いわゆるクォータ制である。クォータ制は、女性であることを考慮要素とする以上に、女性受験生を優遇することになる。限定的に策定された手段といえるためには、個人として尊重されることが必要である。クォータ制は、個人としてではなく集団としてみる点で限定的に策定された手段とはいえない。したがって、本件手段は正当化されない(②不充足)。
ウ よって、本件処分は、違憲である。
第2 設問2
1 原告側とA大学法科大学院側の主張の対立点
(1) 第1に、Aとしては、Aの入学者選抜制度は、女性受験生を優遇する積極的差別是正措置であり、社会に構造的に蓄積した差別を矯正するものであるところ、緩やかな審査基準が妥当する、と反論することが考えられる。
(2) 第2に、Aとしては、仮に第1の反論が認められないとしても、学内の多様性確保という目的は、法科大学院・新司法試験という新しい法曹養成制度の目的として多様性が上げられていることからすれば、かかる実現のためにやむにやまれぬ利益である、と反論することが考えられる。
(3) 第3に、Aとしては、仮に第1の反論が認められないとしても、本件手段は、入学定員のうちの1割のみを女性に割り当てるものであり、優遇措置として必要最小限である、と反論することが考えられる。
2 私見
(1) Aの第1の反論について、積極的差別是正措置は同時に差別を生むことにもなり、また、優遇策を受けた者に劣等の烙印を押し付けることにもなる。したがって、構造的な差別の矯正であったとしても、積極的差別是正措置については、厳格な審査基準が妥当すると考える。
したがって、Aの第1の反論は認められない。
(2) Aの第2の反論について、少数者の人権の保護も使命の1つとする弁護士をはじめとする法曹を養成するにおいては、多様性の確保は、かかる少数者の人権保護にとって不可欠である。また、法曹人口において女性比率は年々増加傾向であるものの、平成16年の最新年度においても平均約13%前後であることからすれば、多様性の確保のひとつとして、女性比率の増加を目指すことは、やむにやまれぬ利益であるといえる。
したがって、Aの第2の反論は認められる。
(3) Aの第3の反論について、そもそもクォータ制を採用すること自体が問題の本質であり、優遇措置の枠の量は問題ではない。そして、本件では、例えば、女性受験生であることを加点事由とするにとどめるような優遇措置があり得るのであり、本件の優遇措置は、限定的に策定された手段とはいえない。
したがって、Aの第3の反論は認められない。
(4) よって、本件処分は、違憲である。
以上