法律解釈の手筋

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平成26年度 予備試験 憲法 解答例

解答例

第1 設問1[1](以下、憲法は法名略。)

1 A市商店街活性化条例(以下「本条例」という。)の商店会への加入義務及び会費徴収義務の規定(以下併せて「本規定」という。)は、職業選択の自由を侵害するため、22条1項に反し、違憲であり、本条例に基づく7日間の営業停止処分は国家賠償法上「違法」である。

2 まず、職業選択の自由は、22条1項によって保障される。

3 次に、本規定は、加入義務に基づいて加入した店舗に対して、売場面積と売上高に一定の率を乗じて算出される金額の会費徴収義務を負わせており、A市での大型店の出店を実質的に困難にさせている。したがって、本規定は、職業選択の自由を制約している。

4 そして、かかる制約は、以下のとおり正当化されない。

(1) 上記制約は、大型店の出店を実質的に困難にさせる点で事前制約といえる。また、売場面積と売上高に応じた会費を義務付けており、営利を追求する法人にとっては、それに比例する形で会費納付を義務付けている点で、客観的制限となっている。そして、かかる規制が営業停止処分によって担保されており、規制態様は強い。そこで、①目的が重要で、②目的との間に実質的関連性がなければ、制約は正当化されない。なお、規制目的二分論は、事実上積極目的規制への違憲審査放棄を意味し、採用し得ない。

(2) 本件規制目的は、㋐商店街及び市内全体の商業活動の活性化及び㋑防犯体制等の担い手としての位置付けにある。㋐については、商店街の商業活動の活性化が重要な目的とはいえないし、㋑についても、本来商店街ないし営業店舗の役割でない以上、重要な目的とはいえない(①不充足)。仮に、目的が重要であるとしても、㋐について、商店街内に位置しない店舗にまで加入義務及び会費の徴収義務を課すことは、過度な規制であるし、㋑についても、本来A市の予算や補助金によって行なう必要のあるものであることからすれば、目的との間に合理的関連性がない。

(3) したがって、上記制約は、正当化されない。

5 以上より、本規定は、22条1項に反し、違憲である。

第2 設問2

1 被告の反論

(1) 第1に、本規定はA市での営業が困難になるにすぎず、職業選択の自由の制約までは認められない。

(2) 第2に、仮に職業選択の自由の制約が認められるとしても、本件の主たる規制目的は商業活動の活性化という政策的な積極目的にあり、立法府に裁量が認められ、緩やかに審査される。

(3) 第3に、本件規制目的は、商店街の活動が不活発となっていることや商店街の管理に支障が生じ防犯面での問題が起きているという立法事実に基づくものであり、正当かつ重要である。

(4) 第4に、商店街に位置しない店舗も商店街のイベントに「タダ乗り」しているところ、これらの店舗に会費徴収義務を課すことには合理的関連性がある。また、徴収した会費によって商店街の活性化や街路灯の設置等が可能であり、目的のために必要かつ合理的な手段である。

2 私見

(1) 以下のとおり、本件規制は職業選択の自由を侵害するため、22条1項に反し、違憲であると考える。

(2) まず、職業選択の自由は、22条1項により保障される。

(3) 次に、以下のとおり、本規定に職業選択の自由に対する制約が認められる。

ア 判例によれば、特定場所における開業の不能は開業そのものの断念にもつながりうるものであるから、開業場所の地域的制限は、職業選択の自由に対する制約的である、とする(薬事法違憲判決[2]参照)。

イ 本規定は、加入義務及び会費の徴収義務を課すことにより、A市内での開業そのものを断念させるおそれのあるものであり、開業場所の地域的制限があるといえる。

ウ したがって、C主張のとおり、職業選択の自由の制約が認められる。

(4) そして、以下のとおり、かかる制約は正当化されない。

ア 被告は、規制目的二分論から、緩やかな審査基準を主張する。そもそも規制目的二分論が積極目的規制を緩やかに審査するのは、業界保護立法的要素が立法過程において明確にされていれば、国会による実質的な討議によってその正当性が厳格審査されているといえ、司法の審査を緩めることができるからであると考える[3]。そこで、そのような業界保護立法的要素が明確になっていない場合には、C主張の審査基準によって審査すべきである。

イ 本件規制目的は、前述のとおりであるところ、たしかに、商店街の活性化という目的が掲げられている。しかし、商店街の店舗保護が明確になっていない他、これと共に市内全体の活性化も目的として掲げられており、商店街の店舗保護という政策目的が明確とまではいえない。また、本件規制目的には防犯対策という消極目的もあり、複合的な目的となっている。そうだとすれば、本件立法は、業界保護立法であることが明確にされて民主政の過程を通過したとはいえない。したがって、C主張の審査基準で審査すべきである。

ウ 本件規制の目的は、被告反論のとおり立法事実に基づくものであり、その内容としても正当かつ重要である(①充足)。しかし、商店街に位置しない店舗にまで会費徴収義務を認めることは、目的㋐との関係で、関連性がない。被告は、商店街に位置しない店舗が商店街のイベント等に「タダ乗り」しているというが、単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づくものとはいえない。また、目的㋑についても、C主張のとおり、本来市内全体の公共工事や商店外への補助金等で対処すべきものであり、他の制限的でないより緩やかな手段があるため、実質的関連性に欠ける(②不充足)。

エ したがって、上記制約は、正当化されない。

(5) 以上より、本規定は、22条1項に反し、違憲である。

以上

 

[1] 出題趣旨では、21条1項違反についても言及されている。この点について、3点ほど補足しておきたい。第1に、実際上の問題として、21条1項と22条1項の両方を論じることは、試験時間との関係であまりにも現実的ではないように思う。そのため、受験戦略上の観点からすれば、いずれかの権利のみから論じるのが望ましい。その場合どちらの権利から論じるべきかであるが、どちらで論じても評価において大きな差はないと思われる(二重の基準論から、消極的結社の自由は精神的自由であり、職業選択の自由よりも重要であるため、消極的結社の自由から論じるべきという論はあり得る。しかし、仮に精神的自由が経済的自由よりも重要であるとしても、純粋な二重の基準論を採用しない限り、結社の法的性質や規制の制約態様から審査基準が厳格にならないこともあり得、一律に消極的結社の自由の方が違憲論を論じやすいということにはならないように思われる。実際の訴訟であれば、判例の集積の多い職業選択の自由の方が違憲論を組み立てやすいのではなかろうか。)。第2に、出題趣旨で掲げられている南九州税理士会事件判決(最三判1996年(平成8年)3月19日民集第50巻3号615頁)及び群馬司法書士会事件(最判2002年(平成14年)4月25日判例時報1785号31頁)は、いずれも消極的結社の自由の合憲性について正面から判示した判例ではない。これらの判例は、負担金の徴収が「目的の範囲」外か否かが問われたものであり、税理士会や司法書士会の強制加入性について争われたものではない(実際、南九州税理士会事件判決では、強制加入制の合憲性について触れられてすらいない。)。第3に、強制加入制の合憲性について争われた判例としては、弁護士会への強制加入制の合憲性が争われた最判1992年(平成4年)7月9日判時1441号56頁等があるが、同判例は、憲法22条1項の関連で論じるにとどまっており、消極的結社の自由については判示されていない。

[2] 最大判1975年(昭和50年)4月30日民集29巻4号572頁。

[3] 長谷部恭男『憲法[第7版]』(新世社、2019年)253頁。