法律解釈の手筋

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令和元年 予備試験 憲法 解答例

解答例

 

1 本件で乙中学校が、Xに対し保健体育の評定を「2」としたことにより、Xが近隣の県立高校への進学ができなかった点について、乙中学校校長に信教の自由(20条1項)への慎重な配慮が足りず、裁量の逸脱・濫用(行訴法30条)が認められないか[1][2]

2 XはB教の信者であり、その戒律によれば、女性は家庭内以外においては、顔面や手など一部を除き、肌や髪を露出し、あるいは体系がはっきり分かるような服装をしてはならないとされており、これは、B教における重要な戒律である。Xは、かかる信仰に反する行為を強制されない自由を20条1項により保障される。

3 水泳の際に着ることになる水着は、体系がはっきり分かるような服装であり、このような服を着ることは信仰に反する行為となる。したがって、体育の授業において水泳の授業を受けさせられることは、かかる信仰に反する行為となる。

  もっとも、乙中学校が、Xに対し保健体育の評定を「2」としたことそれ自体は、Xに対し水着着用を強制するものではなく、Xは信仰に基づく行為を優先している。したがって、乙中学校の上記不利益処分による、Xの上記自由に対する制約は認められない[3]

  よって、乙中学校の上記評定が信教の自由を侵害するとはいえない。

4 もっとも、本件では、上記の重要な戒律に反する行為をしなかったことにより成績上不利な評価を受け、それによって高校の進学を断念せざるを得ないという重大な不利益を受けている。このように、Xは、信仰上重大な戒律に反する行為を行うという信教の自由の侵害を甘受するか、事実上高校進学を諦めるという重大な不利益を被るかという二者択一を迫られることになる。以上にかんがみれば、乙中学校校長としては、信教の自由に慎重な配慮をしなければならなかったと考える。

  この点について、確かに水泳の授業に参加しなかったことによるXの直接の不利益は成績において不利な評価を受けるというものにすぎず、高校進学は事実上の不利益にとどまるところ、重大な不利益とはいえず、神戸高専剣道受講拒否事件判決(最判平成8年3月8日)とは事案が異なるとの理解があり得る。しかし、通常、高校受験において中学の内申が重要な地位を占めることは承認されているといえる。また、高校進学を希望していたXからすれば、もし仮に水泳の授業に参加していれば高校に進学することができると分かっていれば、自己の信仰に反し水泳の授業に参加することも考えられるところ、事実上の不利益であったとしても、それが強制的効果を有することには変わりがない。また、水泳の授業は中学校の必修科目であり乙中学校特有の科目でもない以上、Xとしては他の水泳の授業のない学校に行くという選択の自由もなかった。

  したがって、乙中学校校長には、成績評価の際に、Xの信教の自由に対する慎重な配慮が必要であったと考える。

  そこで、成績評定の判断過程に誤りがある結果、その判断結果が社会通念上合理性を欠くと認められる場合には、裁量の逸脱・濫用が認められると考える。

(1) 本件では、乙中学校校長は、①信仰に配慮して代替措置をとることは教育の中立性に反するおそれがあるとしている。しかし、B教の戒律からすれば、水着の着用は信仰上の真摯な理由によって受け入れがたいものであることは客観的に明らかである。このような信仰の核心部分に反する授業の履修ができない生徒に対し代替措置を採用することは社会通念上相当とされる限度を超えるものではなく、政教分離(20条3項)に反しない。

(2) また、乙中学校校長は②代替措置の要望が真に信仰を理由とするものなのかどうかの判断が困難であるというが、B教はその服装という外形的事情から信者であることが容易に判断可能なのであるから、格別困難ということもできない。

(3) そして、③Xらの要望に応えることがB教の信者でも水泳授業に参加している女子生徒との関係で不公平になるというが、そのような女子生徒にも代替措置を認めれば足りる。さらに、④それによって水泳授業の実施や成績評価に支障が生じるおそれがあるという点について、B教の信者がほとんどであるというA国民の生徒が乙中学校において占める割合は4分の1である。最大4分の1が水泳の授業に参加しなかったとしても、なお授業としての実施に影響はない程度のものということができるし、成績評価について別途レポート等による評価が不可能であるとは到底言い難い。

(4) そして、信教の自由に慎重な配慮をするのであれば、Xが水泳の授業に参加しない代わりに、自主的に提出したレポートについて相応の評価をすることが求められていたにもかかわらず、乙中学校校長はXの担当教員にこれをさせず、レポートを考慮しなかった。

(5) 以上にかんがみれば、(1)ないし(3)については考慮すべきでない事項を考慮した多事考慮の違反があり、(4)については考慮すべき事項について考慮しなかった考慮不尽の違反がある。その結果、本件成績評価において不利な評価をしたことは、社会通念上著しく合理性を欠くといわざるを得ない。

5 以上より、乙中学校校長の当該判断は裁量の逸脱・濫用にあたり、違法である。

以上

 

[1] 判例として、最判平成8年3月8日民集50巻3号469頁参照。また、類似の問題として、急所・第2問「水泳受講拒否事件」参照。

[2] 本問の検討方法としては、他に学習指導要領によって水泳が必修授業と位置付けられており、その必修授業に参加しなかったXに対して成績上不利な評価をしたという一連の過程全体を対象として検討する方法があり得る。この点については、注3)も参照。

[3] 学生の自由をめぐる紛争は、通常(ⅰ)学校が、学生を規律する学問・校則等を設定し(ⅱ)学生が、学校の規律よりも、みずからの思想や信仰に基づく行為を優先した結果、校長等の判断により退学等の不利益処分を受けるという二段階の構造を有する。最高裁は、二段階の過程を分割し、第一段階の規律のみを憲法問題として捉え、不利益処分については「制限」とみなしていないといういわゆる分割アプローチを採用しているとされる。以上については、射程・241頁(木下昌彦)参照。したがって、本件において、成績評定が助成であるか規制であるかについて触れる必要があるかについては疑問である。