法律解釈の手筋

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令和3年度 予備試験 民事実務基礎 解答例

解答例

第1 設問1

1 小問1

賃貸借契約に基づく一部請求に係る55万円の賃料支払請求権[1]

2 小問2

被告は、原告に対し、55万円を支払え

との判決を求める。

3 小問3

あ 原告は、被告との間で、令和2年6月15日、甲建物を、賃貸期間を同年7月1日から令和5年6月30日、賃料を毎月10万円として賃貸する旨を約定した。

い 原告は、被告に対し、令和2年7月1日、(あ)の契約に基づき、甲建物を引き渡した。

う 令和3年12月31日は経過した[2]

4 小問4

(1) (ⅰ)について

ア 結論

抗弁として扱うべきではない。

イ 理由

判例によれば、いわゆる数量的一部請求における抗弁の取扱いについて、原則として、一部請求額ではなく、その債権の総額を基準にして自働債権として認められた額を控除する、いわゆる外側説に立つ。本件では、Xは、賃料支払請求権の総額60万円から、Yから賃料の一部として支払われた5万円を控除した55万円で請求しているところ、本件Xの主張は、すでにXによって控除された5万円部分に充当される。

したがって、裁判所は本問記載の事実の主張をもって、本件訴訟における抗弁として扱うべきではない。

(2) (ⅱ)について

Yが仮にその他の一部抗弁事実を主張した場合に、合体抗弁の先行自白としての意味を有する可能性がある。

第2 設問2

後者の方法による場合、YによるAへの訴訟提起が制限されない結果(民法423条の5)、YによってAに対する売買代金支払請求訴訟を提起された場合、XのAに対する債権者代位訴訟は、請求棄却ないしは訴え却下となり、Yに50万円が支払われることとなってしまう。以上の事情から、仮差押えによってAの弁済を禁止し(民事保全法50条1項)、AがYに当該売掛債権を支払わないようにした。

第3 設問3

1 小問1

(1) (ⅰ)

カ Bは、原告に対し、令和2年8月1日、弁済期を同年10月15日として、50万円を貸し付けた。

キ 原告は、Bに対し、令和3年1月5日、(カ)の貸付債権の弁済に代えて、請求原因(あ)に基づく原告の被告に対する令和2年7月分から同年12月分までの賃料債権60万円を譲渡した。

(2) (ⅱ)

XがBに対して賃料債権60万円を代物弁済していた場合、その時点で、XのYに対する債権が喪失している以上、Xからの債権譲渡の通知やYによる債権譲渡の承諾は不要である。また、467条1項は、「債務者その他の第三者」に対抗する場合の規定であって、債権者に対抗する場合の規定ではない。

2 小問2

賃借人は敷金を債務の弁済に充てることを請求することができない(民法622条の2第2項後段)。

第4 設問4

1 原告は、本件賃貸借契約の契約書に被告名下の印影が被告の印章によることが認められるものの、かかる印章は原告が盗用したものである。

(1) まず、本件で用いられている印章はいわゆる三文判であるところ、実印に比べ、保管を厳重にしていないことが一般的である以上、押印の真正推定の蓋然性は一般的に低い。

(2) また、本件では、原告は、週に2回被告の自宅へ訪れていることを認めているところ、被告が居間の引出しに保管していた三文判を使用することは十分に可能であった。

2 原告は、本件契約書を書証として提出しているにもかかわらず、敷金の支払や賃料の支払に関する領収書の控え等については書証として提出していない。特に、敷金については、原告の主張によれば、本件賃貸借契約の締結日と同日に支払われており、契約書を作成しておきながら領収書を作成していないとすれば不自然である。それにもかかわらず、原告は領収書の控えを書証として提出していないところ、領収書を作成していない事実が認められる。そうだとすれば、本件契約書についても原告によって偽造されたことが認められる。

3 原告は、被告の妻の親であることは両当事者で争いがない。また、甲建物は長年空き家になっていたことについても原告は認めている。以上の事実からすれば、親族関係にある者に対して、空き家になっていた建物を無償で賃貸することは何ら不自然ではない。

4 以上によれば、本件契約書の被告名下の印影はYの印章によるものの、原告が被告の印章を盗用したことが認められ、本件賃貸借契約の成立が認められない。

以上

 

[1] 河村浩・中島克巳『要件事実・事実認定ハンドブック[第2版]』(日本評論社、2017年)46頁。金額を記載しない場合、55万円の一部請求か60万円の全部請求かの区別がつかないため、一部請求部分が訴訟物になるという判例理論に従う限り、具体的金額を訴訟物に明示すべきであると考える。なお、通説は、賃貸借契約に基づく賃料請求権として、具体的金額を明示しない。

[2] 実務上、期間の経過は一見して明らかであるため、訴状に記載しないことが多い。