法律解釈の手筋

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平成24年度 予備試験 民法 解答例(新規定対応)

解答例

第1 設問1(1)

1 物上保証人たるBは、いわゆる検索の抗弁(453条参照)を主張することができるか。

2 保証人には検索の抗弁の明文規定があるが(453条)、物上保証人には明文規定がない。保証人に検索の抗弁が認められる趣旨は、主債務者が債務を履行しない場合に限って保証債務を履行すれば足りるという保証人の補充性(446条1項参照)から、主債務者に対して優先的に履行請求をさせる点にある。これに対して、物上保証人には補充性が認められない。抵当権者は優先弁済効が認められ(369条1項)、簡易執行が可能であるにも関わらず、物上保証人に検索の抗弁を認めるとなると、上記効果の意義が薄れる。そこで、かかる抗弁は物上保証人には認められない。

3 本件では、Bは物上保証人にあたる。

4 したがって、Bは検索の抗弁を主張することができない。よって、Bは、乙建物について抵当権を実行しようとするCに対し、AがCに弁済をする資力があり、かつ、執行が容易である,ということを証明して、まずAの財産について執行しなければならないことを主張することができない。

第2 設問1(2)

1 前段について

(1) 保証人には事前求償権が認められている(460条)。同条の趣旨は、保証人が人的担保としての性質を有するところ、保証人が債務消滅行為をしない場合でも担保的地位からの解放する必要性が認められる場合、その権利を保証人に与える点にある。一方、物上保証人は物的担保という責任を負うのみであって債務を負わない。また、抵当不動産の売却代金による被担保債権の消滅の有無及びその範囲は、抵当不動産の売却代金の配当等によって確定するものであるから、求償権の存否及びその範囲をあらかじめ確定できない。そこで、物上保証人に事前求償権は認められないと考える。

(2) 本件では、Bは、AのCに対する債務について自己所有の乙建物について抵当権を設定した物上保証人である。

(3) したがって、Bは、Aに対しあらかじめ求償権を行使することができない[1]

2 後段について

(1) 保証人には、事後求償権が認められる(456条・462条)

(2) これに対し、物上保証人には、372条が準用する351条によって事後求償権が認められる。

第3 設問2[2]

1 EはBに対し、遺留分侵害額請求(146条1項)をすることが考えられる。

(1) 遺留分侵害額請求の効果は、遺留分侵害額請求の意思表示によって遺留分侵害額の金銭債権が発生する(1046条1項)。

(2) 本件では、Aの死亡時における財産は特になく、また、債務も負っていなかった(1043条1項)。もっとも、Aは死亡する約3か月前にBに対して、自己所有の甲土地を贈与しており、かかる財産は遺留分算定の基礎となる(1044条1項)。相続人はEだけである(1042条1項2号)。したがって、遺留分は、甲土地の価額の2分の1に相当する価額となる。

   また、本件では、EはAから遺贈ないし贈与を受けていないし(1046条2項1号)、遺産分割未了の土地もない(1046条2項2号)。さらに、EがAから承継した債務もない(1046条2項3号)。したがって、遺留分侵害額は、甲土地の価額の2分の1に相当する価額となる。

(3) よって、EはBに対し、上記価額の遺留分侵害額請求をすることができる。

2 これに対し、Bは、直ちに金銭を準備することができない場合には、裁判所に対し、期限の許与の反訴を提起し、期限の許与の形成判決を受けることができる(1047条5項)[3]

3 また、EとBとの合意によって、金銭の支払に代えて甲土地の2分の1の共有持分権によって代物弁済をすることは可能である[4]

4 なお、Bの無資力の負担は、Eが負う(1047条4項)。

以上

 

[1] 最判1990年(平成2年)12月18日民集44巻9号1686頁。

[2] 相続法改正前の遺留分減殺請求によれば、遺留分減殺の意思表示により、減殺に服する範囲で遺贈・贈与は失効し(形成権)、遺留分権利者が減殺対象となった財産に対する物権的支配権原を回復するとされていた(物権的効果)。そして、減殺の対象となった財産の現物返還が原則とされ、例外的に減殺相手方からの価値弁償の抗弁を認めるという仕組みが採用されていた。遺留分減殺請求によれば、Eは甲土地の2分の1の共有持分権を取得する。相続法改正によって、遺留分権の行使の効果は、遺留分侵害額請求の意思表示によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が発生することになった。したがって、Eは、甲土地について何らの権利主張もできなくなったことになる。そこで、本問については、「EとBとの間の法律関係について論ぜよ」と読み替えて解答する。

[3] 遺留分侵害額請求訴訟が提起されている場合に、期限の許与について、形成の訴え(別訴ないし反訴)が必要なのか、抗弁で足りるのかについては争いがある(期限の許与の単独の訴えの場合には、形成の訴えをしなければならない点で争いはないと思われる)。抗弁で足りると解すると、遺留分侵害額請求については、一部認容判決になるとされる。抗弁説に立つ見解として、潮見佳男『詳解相続法』(弘文堂、2018年)559頁注(38)。これに対して、形成の訴えが必要であると解すると、形成判決が確定するまで遺留分侵害額請求訴訟において一部認容判決を出せないことになり、不都合が生じる。この点については、反訴として期限の許与の訴えが提起され、遺留分侵害額請求訴訟と併合審理されたまま口頭弁論期日が終了した場合には、遺留分侵害額請求訴訟について一部認容判決をすることができるとする見解がある。反訴説に立つ見解として、東京弁護士会編『ケースで分かる改正相続法』(弘文堂、2019年)〔神尾明彦〕271頁。

[4] 潮見・前掲注(3)559頁。