法律解釈の手筋

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平成29年 予備試験 民法 解答例(新規定対応)

解答例

 第1 設問1[1](以下、民法は法名略。)

 1 Cは、Aに対し、所有権に基づく妨害排除請求としての本件登記抹消登記請求をすることが考えられる。

 2 第1に、Cは、自己が完全な所有権を取得したことを主張することが考えられる。

(1) 甲建物は、Bの所有権にあったが、平成23年12月13日、BはCに甲建物を500万円で買った。甲建物にはA名義の本件登記が存在する。

(2) これに対して、Aは、自己が「第三者」(177条)にあたり、かつ、所有権移転登記を具備しているため、Cは確定的に甲建物の所有権を喪失したと反論することが考えられる。

   ア 「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者であって、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいう。

     Aは、Bから平成23年7月24日に甲建物を1000万円で買っているところ、Cの甲建物所有権が認められると、Aは甲建物所有権を失うことになるため、Cの登記の欠缺を主張する正当な利益を有する。

   イ Aは、平成23年9月21日に本件登記を具備している。確かに、本件登記の登記原因は譲渡担保となっており、Aの所有権移転とは実体関係の異なる登記となっている。しかし、所有権移転登記というレベルでは符合しており、その不一致の差は登記原因レベルにすぎないところ、かかる登記は有効であると考える[2]

   ウ したがって、Aの反論は認められる。

 (3) よって、Cのかかる主張は認められない。

3 第2に、Cは、自己が譲渡担保権付きの所有権を取得したと主張することが考えられる。 

(1) Cは、BA間では金銭消費貸借契約及び譲渡担保契約は締結されていないが、94条2項類推適用によって、AがCに対し譲渡担保契約不締結を対抗することができない結果、Aとの関係で、CはBA間で譲渡担保契約が締結されたことを主張することができる、と主張することが考えられる。

(2) 二重譲渡において、一方の譲受人が有効な登記を具備した以上、登記を具備できなかった譲受人は確定的に所有権を喪失するとも思える。しかし、かかる登記に実体関係と符合しない虚偽の外観があり、その点について譲受人が信頼したような場合には、権利外観法理である94条2項を類推適用する基礎がある。

   そこで、①虚偽の外観②本人の帰責性③第三者を保護すべき事情が認められる場合には、94条2項が類推適用されると考える。

  ア 本件では、BA間の契約内容が売買契約であるにも関わらず、登記原因は譲渡担保となっており、この点において虚偽の外観を有する(①充足)。

  イ Aは、BがAに甲建物を譲渡する旨の譲渡担保設定契約書と、譲渡担保を登記原因とする甲建物についての所有権移転登記の登記申請書に署名・押印しており、自己に意思に基づいて虚偽の外観作出に寄与しているところ、帰責性が認められる(②充足)。

  ウ もっとも、Aは、書面の意味を理解しておらず、虚偽の外観作出について認識していたわけではなく、Bにだまされたのであるから、その帰責性は虚偽表示者と同等ではない。そこで、③本人の保護する事情については、虚偽の外観について善意無過失であることを要する。そして、Cは、Aが実際には甲建物の譲渡担保権者でないことを知らなかったが、知らなかったことについて過失があった(③不充足)。

  エ したがって、94条2項は類推適用されない。

(3) よって、Cのかかる主張は認められない。

4 以上より、Cの請求は認められない。

第2 問題2

 1 CE間の法律関係

 (1) 賃貸人と賃借人との間の賃貸借契約が合意解除されたとしても、賃貸人が債務不履行による解除権を有していない限り、解除したことを転借人に対抗することができない(613条3項)。

CD間の賃貸借契約が合意解除されており、かつ、Dが債務不履行に陥っていたという事情もない。

    したがって、CはEに賃貸借契約の解除を対抗できない結果、CE間で賃貸借契約が存続する。

 (2) それでは、613条3項が適用される場合に、賃貸人と元転借人との間の賃貸借契約の内容はどうなるか。

   ア 613条3項の趣旨は、合意解除による賃借人の権利放棄は、正当に成立した他人の権利を害する場合には許されないという信義則にある。かかる趣旨によれば、転借人の権利が保護されればよいところ、原賃貸借は消滅し、賃貸人が転貸人の地位を承継すれば足りると考える[3]

   イ 本件では、賃貸人Cは、転貸人Dの地位を引き継ぐことになる。

 2 CのEに対する請求

 (1) CはEに対し、主位的に所有権に基づく甲建物明渡請求、予備的に賃貸借契約に基づく賃料支払請求をしている。

(2)  前述のとおり、CE間には、DE間で締結された転貸借契約が存続することになる。したがって、主位的請求であるCのEに対する甲建物明渡請求は認められない。

(3) また、予備的請求であるCのEに対する賃料請求は、15万円の限度でのみ認められる。

 (4) なお、Cの被る不利益については、賃料増額請求(借地借家法32条1項類推適用)によって解消すれば足りると考える。

 3 EのCに対する請求

 (1) EはCに対し、必要費償還請求(608条1項)をしている。

(2) Eの支出した甲建物の雨漏りの修繕費用30万円は、賃貸目的物である甲建物を約定された使用収益に適した状態にするために支出した費用である「必要費」(608条1項)にあたる。

(3) 前述のとおり、CE間にはDE間で締結された転貸借契約が存続することになる。DE間では、修繕費用について特約が付されていなかったのであるから、CD間の特約は関係なく、原則どおり転貸人が負担することになる(606条1項)。

 (4) よって、EのCに対する請求は認められる。なお、Cは上記の賃料増額請求によって特約のないことを前提とした賃料を請求できるはずであり、この点についても不都合はない。

以上

 

[1] 答案の方向性としては、4つの考え方があり得る。第1に、本件登記の有効性について、実体関係に合致しない登記であることを理由に無効であると判断し、Cの完全な所有権取得を認め、Aに対する抹消登記請求を認める考え方である。この場合、AはBから甲建物を譲り受けている点で「第三者」(民177)にあたるため、形式的には対抗要件の抗弁を主張することができるように思えるところ、この抗弁をどう解するかが問題となる。実質的根拠として、無効な登記を保持する権原がAにはない(対抗要件の抗弁は主張できるのに対抗要件具備の抗弁は登記が無効であり主張できないというのは、整合しないように思われる)以上、Aの抗弁は排斥されると考える(Aの対抗要件の抗弁が本来想定されるのは、Aが甲建物を占有していた場合のCのAに対する甲建物引渡請求や、Aが甲建物の売買を原因とする所有権移転登記を具備していた場合のCのAに対する所有権移転登記抹消登記請求であるはずであり、本件のような請求を念頭に置いていたわけではないはずである。)。排斥される形式的な理由としては、本件請求との関係でAの対抗要件の抗弁が適格性を有しない、ということになろうか。また、仮に上記の対抗要件の抗弁が排斥されないとしても、Cとしては、Bに対する売買契約に基づく所有権移転登記請求権を被保全債権として、BのAに対する消極的物権変動的登記請求権としての所有権移転登記抹消登記請求権を債権者代位(民423の7)していくことが考えられる(消極的物権変動的登記請求権については、最判昭和36年4月28日民集15巻4号1230頁、岡口マニュアルⅠ・376頁。)。なお、この場合、C又はBがAの無効な登記を抹消できる以上、譲渡担保を前提とした主張をしなくても良いことになる。したがって、94条2項類推適用を問題にする必要はない。第2に、本件登記の有効性について、譲渡担保登記として有効であることを前提に、弁済供託をしたCの請求は認められるとする考え方である。この場合、そもそもなぜ実体関係についても譲渡担保権のレベルで認められるかが問題となる(所有権の量的一部として、譲渡担保権が含まれるゆえ、登記と合致する譲渡担保権のレベルで実体関係が認められる、ということになろうか。鈴木禄弥=生熊長幸「判批」判タ260号97頁参照。)。第3に、本件登記の有効性について、所有権移転登記というレベルで実体関係に合致する登記であることを理由に有効であるとし、CのAに対する抹消登記請求を認めない考え方である。これによれば、Cの請求は、Aからの対抗要件具備による所有権喪失の抗弁によって排斥されることになる。登記を有効と解するのであれば、本問題は二重譲渡事例である以上、この見解が一番論理的な帰結である。第4に、登記を有効としつつも、登記原因の「譲渡担保」という点を信頼したCについて94条2項類推適用によって、AのCに対する完全な所有権の対抗を制限するという考え方である。最判昭和45年11月19日第24巻12号1916頁の採用する考え方であり、判例の射程は問題となるが、本解答例もこの考え方に基づいて作成した。かかる考え方による場合、その後供託された金銭について、Aは還付請求できるのかが問題となる(敷衍すると、AB間の貸金債権や譲渡担保権は、AはCとの関係でその不存在を対抗できない結果、権利関係が擬制されるだけであり、AがBに対して貸金債権を有することは主張できないはずであり、Aは供託された金銭について還付請求できないのではないか、ということである。)。それぞれの考え方については、伊藤進「判批」ジュリ別冊 175号56頁(民法判例百選Ⅰ 総則・物権 第5版新法対応補正版)56頁参照。

[2] 船橋諄一・徳本鎮編集『新版注釈民法(6)物権(1)』(有斐閣・2009年)443頁、448頁。真実は贈与であったのに売買を登記原因とする所有権移転登記がされた事案において、第三者に対する対抗力を認めた判例として、大判1916年(大正5年)12月13日民録22巻2411頁。

[3] 幾代 通・広中 俊雄/編集『新版注釈民法(15)債権(6)』(有斐閣・2010年)959頁。