法律解釈の手筋

再現答案、参考答案、法律の解釈etc…徒然とUPしていくブログ… ※コメントや質問はTwitterまで!

平成24年度 予備試験 民事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1

 1 第1訴訟の既判力(114条1項)が第2訴訟に作用するか。

 2 第1訴訟に生じる既判力の範囲はどこまでか。

(1) 既判力とは、確定判決の判断に与えられる通有性ないし拘束力をいう[1]。その趣旨は紛争の一回的解決であり、その正当化根拠は手続保障充足に基づく自己責任にある。

既判力の客観的範囲(「主文に包含するもの」)は、審理の簡易化・弾力化の観点から、訴訟物に生じると考える。また、既判力は、原則として手続保障の及んでいた当事者との間で(115条1項1号)、かつ、事実審の口頭弁論終結時を基準として生じる(民 執35条2項参照)。

既判力の客観的範囲の前提として、いわゆる一部請求の訴訟物がどこまでかが問題となるが、原告の処分権主義と被告の副次応訴負担の調和の観点から、明示的一部請求については、明示部分のみが訴訟物になり、残部請求は前訴既判力に抵触しないと考える。明示の機能は、明示がない場合には、被告の合理的期待を保護するため、信義則上、前訴既判力と後訴訴訟物を同一関係と捉えることで、後訴を遮断するものである。

 (2) 本件では、XYとの間で、平成23年1月13日に、XのYに対する売買契約に基づく400万円の代金支払請求権のうち150万円の請求権が存在したことについて既判力が生じる。

 3 第1訴訟の既判力が第2訴訟に作用するか。

 (1) 前訴既判力が後訴に作用するのは、前訴既判力の生じた訴訟物と後訴訴訟物が同一関係である場合の他に、先決的法律関係にある場合又は矛盾関係にある場合と考える。

 (2) 本件では、第1訴訟の既判力の生じた訴訟物は前述のとおりであるのに対し、後訴訴訟物は、XのYに対する売買契約に基づく400万円の代金支払請求権のうち残部の250万円の請求権についてであるところ、同一関係にないことは明らかである。また、150万円の代金支払請求権が存在することと、250万円の代金支払請求権が存在しないことは非両立ではなく、矛盾関係にもない。また、150万円の代金支払請求権の存在は、後訴訴訟物の要件事実に顕れてこないところ、先決的法律関係にもない。

 (3) したがって、第1訴訟の既判力は、後訴に作用しない。このように解しても、原告としては第1訴訟において請求を拡張すればよかっただけであるから、特に大きな不都合はない。

 4 そうだとしても、Yは、信義則上、後訴での主張が遮断されないか。

 (1) まず、審理の簡易化・弾力化の観点から既判力が判決理由中に生じないとしても、当事者の前訴の訴訟追行にかんがみ、後訴において信義則上当事者に拘束力を及ぼすべき場合があると考える。具体的には、当事者が前訴における訴訟追行行為と矛盾する挙動をすることは禁止され(矛盾挙動禁止の原則)、当事者が前訴において期待される権利行使を怠り、相手方においてもはやその権利行使がなされないものとして抱いた期待が合理的である場合には、後訴における当該権利行使は失効される(権利失効の原則)と考える。

 (2) 主張①について

    主張①については、第1訴訟において、Yが既に主張して争っているところ、かかる点が主要な争点になっていたといえる。そして、かかる争点について裁判所は買主がYであると認定しているところ、相手方Xにおいて、かかる点についてはもう紛争が解決したとの期待を抱くことが合理的である。

    したがって、権利失効の原則により、主張①は遮断される。

 (3) 主張②については、前訴においてYは主張しておらず、主要な争点になっていない。また、相殺の抗弁は、反訴提起の実質があり、必ずしも第1訴訟で主張されることが期待できるものではない。

    したがって、主張②は信義則によっても遮断されない。

第2 設問2

 1 裁判所は、弁済の抗弁と相殺の抗弁のどちらから先に判決の基礎とすべきか。

 2 判決理由中の判断には原則として既判力が生じないところ、裁判所は、実体法上の論理的順序に拘束されず、判断しやすいものからとりあげて判決の基礎とすることができる。

   これに対して、相殺の抗弁については、相殺に供した反対債権の不存在について例外的に既判力が生じ(114条2項)、後訴において反対債権を請求することができなくなるため、既判力を生じさせない抗弁より先に判断することは被告にとって不利になる。

   そこで、相殺の抗弁は、他の抗弁よりも後に審理判断し、判決の基礎としなければならないと考える。

 3 本件では、裁判所は、弁済の抗弁について先に判決の基礎とし、その後220万円の限度で相殺の抗弁について判決の基礎としなければならない。

以上

 

[1] 重点講義(上)・586頁。