法律解釈の手筋

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平成28年度 予備試験 民事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1(1)

 1 証拠調べの結果、明らかとなった事実のうち、「甲土地をY2のために譲渡担保に供した」との認定を判決の基礎とすることは、弁論主義第1テーゼに反し、弁論主義違反である。

2 弁論主義とは、資料の収集・提出を当事者の権能かつ責任とする建前をいう。その根拠は私的自治の訴訟法的反映にあり、その機能は被告への不意打ち防止にある。ここから、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎としてはならないという弁論主義第1テーゼが導かれる。

   「事実」とは、被告への不意打ち防止の観点から、主要事実にのみ弁論主義の適用を認めれば最低限の不意打ち防止が図られるため、主要事実に限られると考える。また、弁論主義は、裁判所と当事者の間の役割分担の規律であるため、「当事者」とは、両当事者のうち一方の当事者を意味する。そして、訴訟資料と証拠資料の峻別の観点から、「主張」とは、弁論期日における主張を意味する。

 3 本件の証拠調べで明らかになった事実を認定することの可否について検討する。

 (1)  「Y1は、XがY1に対して負担していた1000万円の貸金返還債務の代物弁済により甲土地の所有権をXから取得した。」との部分については、Y1らの主張によって顕出されている。

 (2) 「Xは、Y2から借り受けた1000万円の金員をY1に対して支払うことによって甲土地をY1から買い戻した」との部分のうち、XがY2から1000万円を借り受けた事実については、Xの主張により顕出されている。また、Y1に対して1000万円を支払うことによって甲土地をY1から買い戻したとの事実についても、Xの主張により顕出されている。

 (3) 「所定の期間内に借り受けた1000万円をY2に対して返済することで甲土地を取り戻し得るとの約定で甲土地をY2のために譲渡担保に供した」との部分のうち、前半の約定部分については、Yの主張により顕出されている。しかし、後半部分の譲渡担保については、XYどちらからも主張されていない。確かに、Y2がXに金銭を貸し付けたこと、Y2とXとの間で買戻特約の合意があったことはなされており、ここから譲渡担保があったともいえなくはないと思えるが、譲渡担保契約を認定するためには、Y2X間の買戻特約合意が「Y2のXに対する債権を担保するため」であるという事実の主張がなければならず、この点についての主張がなされていない以上、譲渡担保契約締結事実を認定することはできない。

(4) 「Xは、当該約定の期間内に1000万円を返済しなかったことから、甲土地の受戻

権を失い、他方で、Y2が甲土地の所有権を確定的に取得した」との部分は、Yの主張により顕出されている。

 4 よって、「甲土地をY2のために譲渡担保に供した」との事実を認定することは、弁論主義に違反する。

第2 設問1(2)

 1 本件訴訟において、裁判所が、当事者と異なる法律構成によって判決をすることは、法的観点指摘義務に反し、許されないのではないか。

 2 法的観点指摘義務とは、裁判所が当事者の主張しているのとは異なる法律構成または主張されていない法律問題を判決の基礎とするとき、裁判所はその点について指摘して当事者に攻防の機会を与えなければならない、とする義務をいう。

   釈明の制度趣旨は、当事者間の公平の維持・回復にあるところ、生の事実が充足しており弁論主義の観点からは問題がないような事案においても、法的観点について訴訟当事者の認識していない法律構成で判決されることで結果的に当事者に不公平が生じることがあり得る。そこで、そのような結果的な不公平を回避し、当事者間の公平の維持・回復をはかるため、裁判所は法的観点指摘義務を負うと考える。

 3 本件では、そもそもXの主張する「Y2のXに対する貸付け」の事実は、代物弁済による所有権喪失の抗弁に対する積極的否認に関連する事情として陳述されていたものである。また、Yの主張する「Y2X間の買戻特約の合意」の事実も、独自の抗弁としての機能を有するものではなく、関連事情として陳述されたものであるにすぎない。そうだとすれば、もし仮に買戻特約の合意がY2のXに対する貸付けの担保としてなされたものであることが弁論において顕出されていたとしても、これらの事実から、譲渡担保契約と法的に評価されることについて、両当事者は意識していなかったといえる。

   したがって、裁判所は、Y2X間の譲渡担保契約締結事実があったと評価するために、両当事者に攻防の機会を与える義務がある。

 4 よって、裁判所が直ちに本件訴訟の口頭弁論を終結して判決をすることは、法的観点指摘義務に反し、違法である。

第3 設問2

 1 既判力(114条1項)とは、確定された判決の主文に表された判断の通有性をいう。その趣旨は紛争解決の一回的解決という制度的要請にあり、正当化根拠は手続保障充足に基づく自己責任にある。

そして、既判力の人的範囲は、原則として手続保障の及んでいた当事者にのみ及ぶ(相対効原則 115条1項1号)。

したがって、本件では、Zには本件訴訟の確定判決の既判力が及ばないのが原則である。

 2 しかし、それでは、紛争の蒸し返しとなり、妥当でない。

 (1) 口頭弁論終結後の承継人については、紛争解決の実効性確保の観点から、例外的に既判力が及ぶ(民訴115条1項3号)。そこで、かかる趣旨から「承継人」とは、紛争の主体たる地位を承継した者をいうと考える。

 (2) 本件では、Zは本件訴訟の係争物であった甲土地の所有権移転登記を具備しているところ、紛争の主体たる地位を承継したといえる。

 (3) したがって、Zは「承継人」にあたる。

 3 よって、本件訴訟の確定判決の既判力は、Zに対して及ぶ。

以上