法律解釈の手筋

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平成29年度 予備試験 民事訴訟法 解答例

解答例

第1 設問1[1]

 1 訴え提起時までに発生する利得分について

   かかる利得分についての訴えは、現在給付の訴えであることが明らかであるため、訴えの利益が当然に認められる。

 2 訴え提起後口頭弁論終結時までに発生する利得分について

   かかる利得分については、現在給付の訴えか将来給付の訴えであるかが問題となるが、口頭弁論終結時までは当事者に攻撃防御を行う手続保障が与えられることにかんがみれば、口頭弁論終結時までに発生する利得分までを現在給付の訴えであるとみるのが相当であると考える。

   そこで、かかる利得分についても、当然に訴えの利益が認められる。

 3 口頭弁論終結後に発生する利得分について

 (1) 口頭弁論終結後に発生する利得分については将来給付の訴えであるところ、「あらかじめその請求をする必要がある場合」(135条)にあたり、訴えの利益が認められるか。

 (2) 同条の趣旨は、将来という予測にすぎない給付を求める訴訟類型において、現在争う必要性があることを求める点にある。そこで、「あらかじめその請求をする必要がある場合」とは、①その基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予測されるとともに、②債権の発生・消滅及びその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動があらかじめ明確に予測し得る事由に限られ、③これについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ強制執行を阻止し得るという負担を債務者に課して、当事者間の衡平を害することがなく、格別不当とはいえない場合をいうと考える[2]。なお、判例は、かかる要件を請求適格の問題としているが、請求適格という用語の使い方が不明確であるし、仮に135条の要件とは別に権利保護の資格を意味するものであると解するとすれば、損害の継続が確実に予想できる期間を区切った継続的不法行為事例が認められない上、権利保護の資格が認められなくても権利保護の必要性によって訴えの利益を認めていく判例の立場とも整合しない。そこで、同要件は、「あらかじめその請求をする必要がある場合」を総合的に判断するための要件であると考える[3]

 (3) 本件では、Xの主張する不当利得返還請求権の要件である「利得」は、XYが共有する土地をYが第三者Aに対して賃貸することによって得た賃貸収入のうち、Yの持分割合を超える部分についてである。確かに、不動産が駐車場のような収入が不安定な事業に供される場合には、基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在したとしても、その継続が予測されるとはいえない。しかし、本件では、ゴルフ場という会員料によって比較的収入が安定しやすい事業への土地賃貸であり、かつ、Aが運営するゴルフ場は経営が極めて順調である。また、過去10年間において、Aが賃料を未払になることはなかった。かかる事情にかんがみれば、本件では、将来においても利得の発生が継続することが予想される(①充足)[4]。そして、かかるゴルフ場のために土地を賃貸している事実にかんがみれば、債権の発生・消滅及びその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動は、Aの経営するゴルフ場の経営悪化という明確な事由に限られ(②充足)、収入が極めて安定している現在の状況からすれば、将来Yに請求異議の訴えの起訴責任を負担させることもそこまで酷とはいえない(③充足)。

 (3) したがって、かかる利得分についても訴えの利益が認められる。

 4 以上より、本件訴えは、適法である。

第2 設問2

1 第2訴訟は、第1訴訟の既判力(114条)に抵触し、また、信義則にも反するため、受訴裁判所は貸金債権の存否について、改めて審理・判断することができない。

 2 貸金債権のうち250万円の部分について、第1訴訟の既判力が後訴に作用する。

 (1) 既判力とは、確定判決の判断に与えられる通有性ないし拘束力をいう[5]。その趣旨は紛争の一回的解決であり、その正当化根拠は手続保障充足に基づく自己責任にある。

    そして、既判力の物的範囲(「主文に包含するもの」)は、審理の簡易化・弾力化の観点から、訴訟物に生じると考える。もっとも、相殺の抗弁については、別訴提起の実質があり、例外的に相殺に供する訴訟物について既判力が生じる(114条2項)。また、既判力は、原則として当事者との間で(115条1項1号)、事実審の口頭弁論終結時を基準として生じる(民執35条2項参照)。

    本件では、相殺について審理されているため、「対抗した額」すなわち300万円の範囲で、相殺に供した貸金債権について、XYとの間で、第1訴訟の口頭弁論終結時を基準として既判力が生じる(50万円について、相殺によって「不存在」、300万円についてそもそも弁済によって「不存在」について生じる)。

 (3) 第2訴訟は本件相殺に供した貸金債権と同一の貸金債権が訴訟物となっており、第1訴訟の既判力が第2訴訟に及ぶ。

 (4) そして、250万円の部分については、前訴で貸金債権不存在であるとの判決がなされた以上、第2訴訟の受訴裁判所は、かかる判断に拘束され、貸金債権不存在と判断し、請求棄却をしなければならない(積極的作用)。

 3 貸金債権のうち残部の200万円の部分については、信義則によって遮断される。

 (1) 判例[6]によれば、明示的一部請求棄却判決後の残部請求については、信義則によって後訴が遮断されるとしている。外側説を採った場合、一部請求を棄却するには自ずと債権全部について審理、判断をしなければならず、かつ、残部についても不存在との判断がなされたことになる。かかる判断について、被告は、残部請求について存在しないとの合理的期待を有することになり、かかる期待は保護に値するため、原告が残部請求をすることは前訴の蒸し返しと評価できる。

 (2) 本件は、かかる判例の射程が及ぶ。

    本件においては、相殺に供した貸金債権は500万円である。300万円全額で相殺を認める場合には、少なくとも300万円存在することが認定できればよいのに対して、300万円未満の相殺を認める場合には、貸金債権の全体についての審理、判断をしなければならない。本件では、300万円未満の50万円の限度で相殺を認めているところ、500万円全額について審理・判断しているはずであり、かつ残部について存在しないことについて被告の合理的期待が存在する。

 (3) したがって、判例の射程が及び、第2訴訟で200万円の貸金債権を認めることは、前訴の蒸し返しとなり、信義則によって許されないと考える[7]。よって、受訴裁判所は200万円についても新たに審理・判断できないと考える。

    なお、判例は、信義則による後訴遮断については訴え却下判決をすべきであるとするが、本件において、一部訴え却下、一部請求棄却とするのは徒に手続を複雑にするだけであるので、債権額全部について請求棄却判決をするべきである。

以上

 

 

[1] 類似の問題として、ロジカル演習・第4問25頁がある。

[2] 最判昭和56年12月16日民集35巻10号1369頁。

[3] 重点講義(上)・358頁注(16)、ロジカル演習・31頁。

[4] 最判平成24年12月21日判時2175号20頁千葉勝美裁判官補足意見参照。

[5] 重点講義(上)・586頁。

[6] 最判平成10年6月12日民集52巻4号1147頁。

[7] かかる考え方については、読解民訴・198頁参照。