法律解釈の手筋

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平成30年度 予備試験 民事訴訟法 解答例

 

解答例

 

第1 設問1

 1 Y及びZに対する請求相互の関係

   両請求が必要的共同訴訟か通常共同訴訟かが問題となるが、両請求の訴訟物は別個であり、共同提訴の必要性もないので、必要的共同訴訟にはあたらない。そして、両請求は本件絵画売買契約に基づく代金支払請求という「義務」が「同種」で、XとYとの間の法律行為という「事実上」「同種の原因」があり、通常共同訴訟の要件を充足する。

   したがって、両請求は通常共同訴訟の関係にある。

 2 弁護士L1の考えられ得る手段

(1) 第1に、弁護士L1としては主観的予備的併合の申立てをすることが考えられる。具体的には、XのYに対する売買契約に基づく代金支払請求が認容されることを解除条件として、XのZに対する売買契約に基づく代金支払請求を提起するという手段が考えられる。

   しかし、かかる併合は予備的請求にされた被告の地位を著しく不安定にするし、その規律も不明確である。そして、主観的予備的併合で目指した原告の両負け防止という目的は、後述の同時審判申出共同訴訟によってそのほとんどを達成できる。

   そこで、明文のない主観的予備的併合を認めることはできないと考える。

(2) 第2に、L1としては同時審判の申し出(41条)をすることが考えられる。

  ア 本件では、Zの代表取締役Yが会社の代表として契約をしたのか、個人として契約を締結したのかが不明であるにすぎず、法的択一関係にはない。そのため、「共同被告の……併存し得ない関係にある」とはいえない。

    したがって、41条の直接適用はできない。

  イ しかし、本件においては、XがYと売買をしたこと自体についてYが争っておらず、本件売買契約の買主がYかZであるかという点で、XのYに対する請求とZに対する請求が事実上択一的関係にある。それにもかかわらず、両請求が裁判所の裁量で弁論分離(152条1項)され、両請求が棄却されることでXが事実上ほとんどあり得ない両負けを受けるおそれがあり、妥当でない。

  (ア) 同条の趣旨は、実体法上非両立の関係にある両請求において、原告の法律上あり得ない両負けを防止する点にある。かかる趣旨は、事実上択一的関係にある場合で原告が両負けの判決を受けることが妥当でない場合にも、妥当する。

     そこで、事実的択一関係にある両請求にも同条が類推適用されると考える。

  (イ) 本件両請求は前述のように事実的択一関係にある。

  (ウ) したがって、41条が類推適用され、L1のかかる手段は認められる。

第2 設問2[1]

1 第1に、訴訟告知の参加的効力(53条4項、46条)がZに生じるか。

(1) まず、「参加することができた時」とは、42条の要件を充足すること、すなわち補助参加の利益が認められることを意味する。

Zは、XのYに対する請求について、YはZの代表として売買契約を締結したとの判決理由中たる「判決の結果」に、Xから代金支払請求がなされるという「法律上の利害関係」を事実上有する。

したがって、Zは、XY請求にXへの補助参加の利益がある。

(2) なお、訴訟告知のみで参加的効力という強い効力を認めることに反対し、告知者と実体法上協力関係にある者のみに参加的効力が生じるとの見解がある。これは、告知者と求償・賠償関係にある者は補助参加する義務があることを根拠とするものであるが、かかる関係にある場合になぜ補助参加する義務が生じるのか疑問がないではなく、この疑問を推し進めると、もはや訴訟告知による参加的効力の生じる者は存在しないのではないかとも思え、不都合である。また、主観的範囲で限定しなくとも、参加的効力の客観的範囲による限定によって妥当な結論が導けると思われ、かかる限定は必要でないと考える。

 (3) したがって、XZに参加的効力が生じる。

 2 第2に、参加的効力によって、Zは、Xと売買契約を締結していないと主張することが許されないか。

 (1) 参加的効力の趣旨は、共同戦線を張った者同士の間での敗訴責任の分担にある。そこで、参加的効力とは、既判力とは異なる制度的効力であると考える。具体的には、①被参加人敗訴の場合に②参加人と被参加人の間で②判決理由中の判断にも生じ(客観的範囲)③当事者の援用を要する。そして、判決理由中の判断とは、攻撃防御を尽くすことができた範囲、すなわち判決の主文を導き出すために必要な主要事実に係る認定及び法律判断など[2]に限定されると考える。

 (2)  本件では、Xが敗訴しており、Xから訴訟告知されたZとの間に参加的効力が生じる。

    しかし、XのYに対する売買契約に基づく代金支払請求の請求原因事実はXYの売買契約締結の事実であり、主要事実はこの点に限られる。そうだとすれば、前訴の判決主文を導くのに必要な主要事実は「XY間の売買契約は成立していない」との部分であり、「買主は株式会社Zであった」という事実は傍論にすぎない。

    以上に鑑みれば、Xは参加的効力を援用しても、後訴においてZの上記主張を遮断できない。

 (3) 以上より、XはYを被告とする判決の効力を用いることはできない[3]

第3 設問3

 本件では、YはZの代表取締役であり、YがXと契約したのが会社代表としてなのか個人としてなのか、という点が具体的審理の中で争点となっており、かつ、Yは、そもそもXと契約行為自体をしていないという否認はしていない。したがって、本件両請求は事実上の択一的関係の中でも、特に、買主がXかZ以外の者である事態が考えられないという事情が存在する。そうだとすれば、XのYに対する請求とZに対する請求は、両請求とも、Yが個人として契約したか会社の代表取締役として契約したかという点が、主要かつ唯一の争点となる。

 このような場合に裁判所が両請求の弁論を分離するとすれば、同一の争点について異なる裁判所で審理することになる点で極めて訴訟不経済であり、司法資源の効率的活用の観点から妥当でない。したがって、このような場合には、裁判所の弁論分離が裁量を逸脱していると主張できる場合があると考える。

 以上より、上記事情が裁判所の裁量逸脱の根拠となり得る事情にあたると考える。

以上

 

[1] 類似の問題として、『ロースクール演習民事訴訟法[第2版]』問題30、平成24年度新司法試験民事系第3問設問2参照。

[2] 最判平成14年1月22日参照。

[3] もっとも、Zが後訴で「売買契約の買主はYであるため、XZ間で売買契約は成立しない」との積極否認をした場合、かかる主張は「XY間の売買契約は成立していない」という参加的効力と矛盾抵触する主張であり、遮断されるようにも思われる。このように解する場合、Zは、かかる理由以外の主張をもってXZ間の売買契約の成立を否認しなければならないこととなる。私見はこちらに共感を覚える。