法律解釈の手筋

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平成30年度 予備試験 商法 解答例

解答例

第1 設問1

 1 Dから問題文4の請求を受けた甲社が本件株主総会の招集通知に問題文4の議題及び議案の要領を記載しなかったことは、303条2項及び305条1項に反し、妥当でない。

2 議題の請求について

(1) ①取締役会設置会社は、②総株主の議決権の100分の1以上の議決権を③6か月前から引き続き有する株主は、株主提案権を有する(303条1項)。④その請求は、株主総会の日の8週間前までにしなければならない。

(2) まず、甲社は公開会社かつ監査等委員会設置会社であるため、取締役会設置会社である(327条1項1号、3号)(①充足)。

(3) 次に、甲社は種類株式発行会社(2条13号、108条1項)ではないため、甲社の全株式が議決権を有する株式である。甲社の発行済株式の総数は100万株であるのに対し、Dの有する甲社株式は1万株であるため、総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する(②充足)。

(4) さらに、Dは、上記株式を平成24年から継続して保有しているところ、請求日の平成29年4月10日時点において、6か月前から甲社株式を引き続き有していたといえる(③充足)。

(5) そして、Dのかかる請求は平成29年4月10日になされているのに対し、本件株主総会は同年6月末に開催されるものであったため、8週間前までに請求している(④充足)。

(6) したがって、Dのかかる請求は適法になされている。

3 議案の要領の記載の請求について

  305条1項但し書は、303条2項の請求と同様の要件を定めているところ、かかる請求も適法に認められる。

4 甲社代表取締役Eは、Dの議題の請求に応じておらず100万円の過料が科される(976条17号)。以上より、甲社が問題文4の議題及び議案の要領を記載しなかったことは、妥当でない。

第2 設問2

 1 損害賠償責任の有無

 (1) Bは、甲社に対し、423条1項に基づく任務懈怠責任を負う。

 (2) Bは甲社の「取締役」にあたる。

 (3) Bが丁社を代表して締結した本件賃貸借契約は、直接取引(356条1項2号)であり、任務懈怠が推定される(423条3項1号)。そして、これを覆す事情もないため、任務懈怠が認められる。

   ア まず、本件賃貸借契約は、直接取引(356条1項2号)にあたる。

     利益相反取引規制の趣旨は、取締役が自己又は第三者の利益を図るため会社の利益を犠牲にすることを防止する点にあるところ、「ために」とは計算を意味すると考える。

     本件賃貸借契約は、Bが丁社を代表して甲社と締結しているところ、丁社に利益帰属させるために行っている。

したがって、丁社たる「第三者のために」甲社「株式会社」と「取引」しており、直接取引にあたる。後述のとおり、甲社には損害が生じているため、Bの上記取引に任務懈怠が推定される(423条3項1号)

   イ 次に、Bには任務懈怠の推定を覆す事情がない。

     任務懈怠責任は、任務懈怠とは別に免責事由が規定されているところ(428条1項参照)、利益相反における「任務」とは、取引時の状況に照らして公正な条件で取引を行うことをいう[1]と考える。

     本件賃貸借契約は、周辺の相場の2倍というかなり高額な賃料であるところ、取引時の状況においても客観的に公正な条件内容で取引を行っていたとはいえない。

     したがって、Bには任務懈怠を覆す事情がない。

   ウ よって、Bに任務懈怠が認められる、

 (4) 甲社は、本来賃料150万円で締結できたはずの賃貸借契約について、300万円の賃料を支払っているところ、1年間で合計1800万円の「損害」が生じている。また、損害とBの任務懈怠との間に因果関係(民法416条1項)も認められる。

 (5) 本件賃貸借契約は、丁社という第三者のためになされたものであるため、428条1項による無過失責任ではない[2]。しかし、本件賃貸借契約の目的物は丁社所有の土地でありBは土地の相場価格についても十分認識し得る立場にあったといえるため、過大な賃料を設定した点に少なくとも過失が認められる。

 (6) よって、Bは423条1項に基づき損害賠償責任を負う。

 2 損害賠償責任の額

 (1) 甲社の損害は前述のとおり、1800万円である。

 (2) Bは甲社との間で責任限定条項を締結している(425条1項1号ハ)。かかる条項の適用がある場合、Bの報酬は600万円であるため、1200万円まで責任免除が認められ、株主総会の決議(425条1項柱書、309条2項8号)によって600万円まで額が減少される。

    しかし、Bは前述のとおり、過失が認められる。しかも、それは通常の賃料の2倍という非常な高額な賃貸借契約の締結であることにかんがみれば、通常の注意義務を大きく欠くものといえ、少なくとも重大な過失が認められる。そうだとすれば、425条1項柱書の要件を充たさないため、責任限定は認められない。

 (3) よって、損害賠償責任の額は1800万円となる。

以上

 

[1] 田中[初版]・275頁参照。

[2] 本件では、Bは丁社の株式全部を保有しているため、実質的にBに利益が帰属するとみることができる。このように考える場合には、自己の計算による直接取引となり、無過失責任となる。そして、責任の額についても428条2項により当然に1800万円という帰結が導かれる。なお、もし仮に356条1項2号において名義説を採用したとしても、428条では実質的に利益帰属を考えることは否定されない。事例⑫・253頁参照。