法律解釈の手筋

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令和3年度 予備試験 商法 再現答案【Aさん】

再現答案

設問1.

(1)乙社は、代表取締役副社長の名称を付されたCは表見代表取締役(会社法354条)にあたり、甲社は、本件代金を支払う責任を負うと主張することが考えられる。乙社は、契約締結時に「善意」であったから、「名称を付した」場合といえるかが問題となる。

 この点、「名称を付した」とは、少なくとも代表取締役の1人が了知していることをいうと解する。

 本件では、代表取締役であるBはCが代表取締役副社長を名乗っていることを知らなかった。もっとも、総株式の80%を保有するAが了承していたのであるから、実質的に会社が了承していたものと同視できる。したがって、会社が「名称を付した」場合にあたるとして、乙社の主張は認められる。

(2)乙社は、Cを代表取締役とする「不実の事項」の登記がなされているから、908条2項によって、甲社は「善意」の乙社に対してCが代表取締役でないことを対抗できず、本件代金を支払う義務を負うと主張することが考えられる。

 ここで、「登記した者」とは、登記申請者である会社をいうところ、上述の通り、総株式の80%を保有するAの了承を得た上で登記がなされているから、実質的に会社の「故意」が認められる。したがって、乙社の主張は認められる。

設問2.

(1)取締役の報酬等は、定款もしくは株主総会で定める必要がある(361条1項)。本規定は、お手盛りによる会社財産の流出を防止するために定められている。

 ここで、退職慰労金は「報酬等」に含まれると解する。報酬の後払い的性格を有するし、将来自分が高額の慰労金を受け取るためにあえて高額な慰労金を支給するおそれがあり、お手盛りの危険が認められるからである。

 本件では、甲社では株主総会が現実に開かれたことはなく、退職慰労金を定めているのも内規であって、定款には定められていない。したがって、甲社はBへの本件慰労金の支給は適法な手続を経たものではないとして、不当利得返還請求として1800万円の返還を請求することが考えられる(民法703条、704条)。そして、この場合、Bは株主総会が開かれていないことを知っていたから「悪意」であるとして、利息の返還も併せて請求することが考えられる(同704条)。

(2)これに対して、Bは、甲社による不当利得返還請求は権利濫用であるとしてこれを拒むことが考えられる。

 本件慰労金の支給は、当時80%の株式を保有していたAの依頼によるものである。その支給も、これまでの運用と同じく本件内規に基づくものであって、格別Bに有利なものとはなっていない。Bは、Aが他社から引き抜いてきた者であるから、他の取締役と比べてパフォーマンスが劣るとも考えがたい。Cがこれまで内規に基づく退職慰労金の支給に異論を唱えたという事情も見られない。それにもかかわらず、Cと対立したことで代表取締役を解職され、取締役を辞任したBに対して初めて返還請求がなされており、その請求もBと対立したCに主導されたものである。これらの事情を踏まえ、Bは、甲社による返還請求は権利濫用にあたり許されないと主張することが考えられる。

 そして、Bの主張の通り、甲社による返還請求は権利濫用にあたり、Bの主張は認められる。