解答例
第1 設問1小問1
1 甲社による本件株式の買取りは、以下のとおり、財源分配規制に反するものの有効である。
2 本件株式の買取りが行なわれた令和6年3月31日において、分配可能額は800万円であったにもかかわらず、甲社はDから総額1000万円分の株式を買い取っており、自己株式取得(461条1項3号、157条1項)により、「交付する金銭」が、「分配可能額」を超えている。したがって、本件株式の買取りは、分配可能額規制に反する。
3 しかし、分配可能額規制に反する自己株式取得は、なお有効である。
(1) 分配可能額規制の責任を定めた463条1項は「効力を生じた日」としており、有効であることを前提としている。また、分配可能額規制に反する自己株式取得が無効だとすると、売主はなお株主としての地位を有することとなり、その後の株主総会の決議の効力に疑義が生じうる。そこで、分配可能額規制に反する自己株式取得も有効であると考える[1]。
(2) 本件でも、甲社による本件株式の買取りは有効である。
第2 設問1小問2
1 Dの責任
Dは、自己株式の取得による「金銭等の交付を受けた者」(462条1項柱書)にあたり、甲社に対し、1000万円の支払義務を負う。
2 Aの責任
(1) 第1に、Aは、本件株式の買取りに係る定時株主総会において、「株式の買取りに関する事項について説明をした取締役」(462条1項1号イ、会社計算規則159条3号ロ)にあたり、1000万円の支払義務を負う。なお、Dと連帯して同債務を負う。
(2) 第2に、Aは、423条1項に基づく任務懈怠責任を負う。
ア 取締役は、会社に対して、委任契約に基づく善管注意義務を負い(330条、民法644条)、その一内容として忠実義務を負う(355条)。そこで、かかる義務に反する場合には任務懈怠が認められると考える。Aは、甲社の経理及び財務を担当しており、計算書類の作成と分配可能額の計算も自分で行っていたところ、会計帳簿が正確に作成されているかについても、確認する義務を負っていたといえる。しかし、