法律解釈の手筋

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令和6年(2024年度) 京大ロー入試 刑法 解答例

解答例

第1問

第1 甲の罪責

1 甲が交通道路に立ち入った行為に、建造物侵入罪(刑法(以下、法名略。)130条前段)は成立せず、何らの犯罪も成立しない[1]

(1) 甲は、歩行者の通行が禁止されている高速道路に管理者の意思に反して立ち入っているものの、高速道路は「人の住居若しくは……艦船」にあたらない。

ア 高速道路は「住居」「邸宅」「艦船」に該当しないことは明らかである。

イ 「建造物」とは、屋根があり壁または柱により支持され土地に定着するものをいう[2]ところ、高速道路には屋根や壁または柱がないことは明らかであるため、「建造物」にあたらない。

ウ したがって、高速道路は「人の住居若しくは……艦船」にあたらない。

(2) よって、甲の上記行為に、建造物侵入罪が成立しない。

2 以上より、甲の一連の行為には犯罪が成立せず、何らの罪責も負わない。

第2 乙の罪責

1 乙がハンドルを右に切り、よって、Bを死亡させた行為に、Bに対する傷害致死罪(205条)が成立する。

(1) 乙の上記行為によって、Bの生理的機能に障害を負わせ「傷害」し、よって、Bを「死亡」させた。

(2) 乙は、客体たるBを認識していなかったものの、故意(38条1項)が認められる。

ア 故意責任の本質は、反規範的行為に対する道義的非難であり、規範は構成要件という形で一般国民に与えられている。そこで、主観的に成立する犯罪と客観的に成立する犯罪が同一の規範たる構成要件内で符合する限り、故意が認められる。

イ 本件では、客観的には、Bの傷害結果を発生させているのに対し、主観的には、Aが負傷するかもしれないと思っており、Aに対する傷害の未必の故意を有している。以上にかんがみれば、主観と客観は同一の傷害罪の構成要件内で符合している。

ウ したがって、故意が認められる。なお、基本犯に重い結果を発生させる高度の危険性が含まれているため、重い結果についての過失は不要である。

(3) 乙の上記行為は、甲を避けるためであるものの、緊急避難(37条1項本文)は成立せず、違法性が阻却されない。

ア 乙は、高速道路を走行していたところ、突如前方に甲が現れている。通常人が横断することがない高速道路上に突如人が現れれば、混乱により通常の走行ができなくなり事故を発生させる危険性が高まるほか、人を轢く衝撃により傷害を負う可能性もあるところ、乙及び同乗しているAの生命・身体という「自己又は他人」の「生命」「身体」に法益侵害が切迫し、「現在の危難」が認められる。

イ 「やむを得ずにした」行為とは、

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