解答例
第1 1について[1]
1 Xが、警察官になりすましてキャッシュカードを窃取しようと考え、A宅に電話をかけ、Aに対し、Aのキャッシュカードを封筒に入れて保管する必要がある旨うそを言い、Aをして、前記キャッシュカードを封筒に入れさせ、さらに、金融庁を装ったXが、Aが目を離した隙に、同封筒を別の封筒とすり替えて同キャッシュカードを窃取するため、A宅付近路上まで赴いたが、警察官の職務質問を受けたため、その目的を遂げなかったという行為について、窃盗の未遂罪(43条本文、243条、235条)が成立する。
2 本件では、「窃取」の実行行為は認められないものの、「実行に着手」したといえる。
(1) 実行の着手は、行為者の犯行計画ないし認識を基礎として事態の進行が犯行の進捗度合いという観点からみて未遂処罰にふさわしい段階に至っているかを問うものである。そこで、実行の着手が認められるかどうかは、犯行計画が未遂処罰に値する程度にまで進捗していたかによって決すると考える。具体的には、進捗度合いの判断基点は実行行為に置き、①時間的場所的近接性、②行為経過の自動性などの事情に基づいて判断し、かつ、当該犯罪の保護する被害者領域への介入を要すると考える[2]。
(2) 本件において、警察官になりすましたXは、A宅に電話をかけ、被害者に対し、「詐欺の被害に遭っている可能性があります」「被害額を返します」「それにはキャッシュカードが必要です」「金融庁の職員があなたの家に向かっています」「これ以上の被害が出ないように、口座を凍結します」「金融庁の職員が封筒を準備していますので、その封筒の中にキャッシュカードを入れてください。」「金融庁の職員が、その場でキャッシュカードを確認します。」「その場で確認したら、すぐにキャッシュカードはお返ししますので,3日間は自宅で保管してください」「封筒に入れたキャッシュカードは、3日間は使わないでください」「3日間は口座からのお金の引き出しはできません」などと告げた(以下、これらの文言を「本件うそ」という。)。本件うそを告げる行為は、