法律解釈の手筋

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『刑法事例演習教材[第2版]』 問題9 「紫の炎」 解答例

解答例

1 甲がAらの住居に使用する集合住宅(以下「本件集合住宅」という。)の中に入った行為及び本件集合住宅の居住者用の屋外駐車場に立ち入った行為という一連の行為に邸宅侵入罪(130条)が成立する。

(1) 「邸宅」とは、居住用の建造物で住居以外のもの[1]をいうところ、集合住宅の共用部分については、住居ではないため、「邸宅」にあたる[2]。また、屋外駐車場についても本件集合住宅と隣接しているため、その一部として「邸宅」にあたる。

(2) 「人の看守する」とは、客体を管理・支配するための人的・物的設備を施すこと[3]をいう。Aらの居住する集合住宅では、出入口に管理人が常駐しており、かつ、「居住者以外の立入り禁止」という立て札の設置されているため、集合住宅を管理支配するための人的設備及び物的設備が認められる。したがって、「人の看守する」邸宅にあたる[4]。また、屋外駐車場についても、本来その立入りにはカードキーが必要である以上、物的設備が認められるため、「人の看守する」邸宅にあたる。

(3) 「侵入」とは、管理権者の意思に反する立入り[5]をいう。本件では、集合住宅の共用部分について居住者はその利用条件に承諾した上で入居しているはずであるから、管理人が第1次的な管理権者である。甲の上記行為は放火目的であり、通常放火目的を有する者の立入りを承諾することはあり得ない以上、管理人の意思に反することが明らかである。したがって、甲の上記行為は「侵入」にあたる。

(4) よって、甲の上記行為に邸宅侵入罪が成立する。

2 甲がAの原動機付自転車のガソリンタンク内のガソリンに引火させた行為に、現住建造物放火未遂罪(112条、108条1項)が成立する。

(1) 本件集合住宅は「現に人が住居に使用」する「建造物」である。

(2) 甲の上記行為は、焼損惹起の現実的危険性を有する「放火」行為である。

(3) 甲の上記行為によって、エレベーターホールの天井の一部である木材が消失したにすぎず、「焼損」したとはいえない。

  ア 「焼損」とは火が媒介物を離れて目的物が独立に燃焼する程度に達すること[6]をいう。もっとも、独立燃焼によって公共の危険が常に認められるわけではないため、独立燃焼について十分な危険性が認められる程度の継続可能性が必要であると考える[7]

  イ 本件では、エレベーターホールの床や壁に不燃性の素材が用いられているところ、火勢がエレベーターホールの木材でできた天井以外に燃え広がることはなかったといえる。以上にかんがみれば、本件においては独立燃焼の継続可能性が認められない。

  ウ したがって、「焼損」にあたらない[8]

(4) よって、甲の上記行為に現住建造物放火未遂罪が成立する。なお、B、Cに生じた傷害結果は法条競合として同罪に吸収される。

3 甲がD車にガソリンを散布し、ライターで点火した行為に建造物等以外放火罪(110条1項)が成立する。

(1) D車は「建造物」にあたらない。甲は、ライターでD車に散布したガソリンに点火するという「放火」行為によって、D車を独立燃焼状態にし「焼損」している。

(2) D車の周りには、15メートル離れたところにE所有の高級外車(以下「E車両」という。)が1台止まっている程度であるが、「公共の危険」が生じたといえる。

  ア 「公共の危険」とは、不特定又は多数の人の生命・身体又は108条・109条の建造物等以外の財産に対する危険[9]をいう。

  イ D車の15メートル離れた場所にE車両が置いてあり、車が燃焼した場合の火勢にかんがみれば、E車両に延焼する可能性は非常に高い。しかし、甲の上記行為は本件集合住宅の居住者用の屋外駐車場にて行われているところ、同駐車場に駐車してある高級外車の所有者であるEも集合住宅の居住者であるはずである。そうだとすれば、そもそも高級外車は不特定の人の財産とはいえない[10]

そうだとしても、さらに50メートル離れた場所に本件集合住宅が存在し、D車とそこから延焼したE車両の火勢が本件集合住宅にまで延焼するおそれは否定できない。以上にかんがみれば、本件集合住宅に居住する不特定又は多数の人の生命・身体に対する危険が認められる。

  ウ したがって、「公共の危険」が認められる。

(3) 甲には、D車に対する放火行為についての認識・認容があり、故意(38条1項)が認められる。また、110条1項の「よって」との文言から、公共の危険の発生を加重結果とする結果的加重犯と捉えることができるため、公共の危険の認識については不要であると考える[11]

(4) よって、甲の上記行為に建造物以外放火罪が成立する。なお、Eに生じた傷害結果は法条競合として同罪に吸収される。

以上

 

[1] 山口青本・252頁参照。

[2] 最判平成20年4月11日参照。

[3] 山口青本・252頁参照。

[4] 最判昭和59年12月18日参照。

[5] 最判昭和58年4月8日参照。

[6] 最判最判昭和23年11月2日参照。

[7] 西田各論・303頁、橋爪連載(各論)・第21回103頁参照。なお、平成28年度司法試験予備試験も参照。

[8] 同書解説では、継続可能性について触れていないものの、このような解釈が結論としても妥当であると考える。

[9] 最決平成15年4月14日参照。

[10] このように賃貸の駐車場については不特定性が認められないことを示唆するものとして、橋爪連載(各論)・第21回105頁参照。

[11] 最判昭和60年3月28日参照。