法律解釈の手筋

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平成26年度(2014年度) 東大ロー入試 刑事系 解答例

解答例

第1 設問1 (この設問では、刑法は法名略。)

1 Yの罪責

(1) Yが「正当な理由」なく、Aの部屋という「人の住居」に、Aの意思に反して立ち入り「侵入」した行為に、住居侵入罪(130条)が成立する。

(2) YがXと「共同」して、Aの両手首を紐で後ろに縛り、Aを身動き困難な状態にした行為に、強姦未遂罪の共同正犯(60条、180条、177条)が成立する[1]。以下、理由を述べる。

ア Aは男性であり「女子」ではなく、およそ強姦罪の法益侵害はないため、強姦既遂罪は成立しない。

イ もっとも、Yの上記行為は「暴行」にあたる。

(ア) 「暴行」とは、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の不法な有形力行使をいう。そして、実行行為性は、行為不法の観点から、一般人が認識し得た事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎に、一般人を基準にその法益侵害の現実的危険性があったかどうかを考える。

(イ) 本件では、Yの上記行為は、物理的にAの犯行を困難にしている。また、確かにAは男性であり強姦罪の法益侵害の危険はないとも思えるが、Aは髪が長く童顔であり、一般人から見ても女性と勘違いされる可能性が非常に高い。かかる事情を基礎にすれば、女性の性的安全という強姦罪の法益侵害惹起の現実的危険性はあったといえる。

(ウ) したがって、Yの上記行為は「暴行」にあたる。

ウ よって、Yの上記行為に強姦未遂罪の共同正犯が成立する。

(3) Yが、Aの部屋に置いてあった10万円をポケットに入れた行為に、窃盗罪(235条が成立する。以下、理由を述べる。

ア Yは、先行するAの両手首を紐で縛りつける行為を利用して本件行為を行っているが、強盗罪の「暴行」(236条1項)にはあたらない。

(ア) 「暴行」とは、財物奪取に向けられた、相手方の反抗を抑圧するに足りる不法な有形力の行使をいう。そこで、事後的に財物奪取意思が生じた場合には、新たな暴行又は脅迫が必要であると考える。

(イ) 本件では、Yの両手首を紐で縛りつける行為は、財物奪取に向けられたものではないため、かかる行為を「暴行」と評価することはできない[2]。また、強盗罪は「暴行又は脅迫」を用いることを明文で要求している以上、上記行為による犯行抑圧状態を解消しないことが不作為としての「暴行」にあたると評価することもできない[3]。そして、Aを縛りつける行為が逮捕行為として継続している以上、「暴行」行為も継続しているとみることも、逮捕行為は法益侵害が継続しているのであって実行行為が継続しているわけではないこと、暴行 罪は状態犯と解されていること等から困難である[4]と考える。

(ウ) したがって、「暴行」にはあたらない。

イ Yの上記行為は、Yの現金という「他人の財物」を占有者たるYの意思に反して自己の占有に移転し「窃取」している。

ウ よって、Yの上記行為に窃盗罪が成立する。

(4) 以上より、①住居侵入罪②強姦未遂罪③窃盗罪が成立し、①と②③は罪質通例上目的手段の関係にあるため、かすがい現象として全体が科刑上一罪となり、Yはかかる罪責を負う。

2 Xの罪責

(1)  Xが「正当な理由」なく、Aの部屋という「他人の住居」に、Aの意思に反して立ち入り「侵入」した行為に、住居侵入罪(130条)が成立する。

(2) XがYと「共同」して、Aの両手首を紐で後ろに縛りAを身動き困難な状態にした行為に、強姦未遂罪の共同正犯(60条、180条、177条)が成立する 。

(3)  Yが、Aの部屋に置いてあった10万円をポケットに入れた行為に、Xには何らの犯罪も成立しない。

ア Yの上記行為は、共謀の射程外であり、Xには共同正犯が成立しない。

イ 一部実行全部責任(60条)の処罰根拠は、各犯罪者が役割分担を通じて、犯罪達成のために重要な寄与ないし本質的な役割を果たした点にある。

そこで、①共犯者間で共謀があり、②共謀に基づく実行行為があった場合には、共同正犯が成立すると考える。

ウ 本件では、XとYはAに対する強姦についての犯罪共同遂行意思がある(①充足)。もっとも、Yの上記行為は窃盗罪であり、その罪質、行為態様は強姦罪と大きく異なる。以上にかんがみれば、共謀に内在する法益侵害の危険性が現実化したとはいえない。したがって、共謀に「基づく」実行行為とはいえない(②不充足)[5]

エ よって、Yの上記行為についてXに共同正犯は成立しない。

(4) 以上より、Xの一連の行為に①住居侵入罪②強姦未遂罪が成立し、①と②は罪質通例上目的手段の関係にあるため、牽連犯となり、Xはかかる罪責を負う。

第2 設問2 (この設問では、刑事訴訟法は法名略。)

1 本件手続は、領置(221条)として適法である。

2 本件ティッシュペーパーは、Xがごみ集積所に捨てたものであるが、「遺留した物」にあたる。

(1) 領置手続が任意処分(197条1項本文)なのは、捜査機関の占有取得過程に強制の要素が認められないからである。

そこで、「遺留した物」とは、遺失物よりも広く、占有者の意思によらずに占有を喪失した物だけでなく、占有者の意思によって占有を放棄・離脱させた物も含む[6]と考える。

(2) 本件では、Xは公道上のごみ集積所に本件ティッシュペーパーを入れたごみ袋を捨てており、自らの意思によって占有を放棄しているといえる。

(3) したがって、本件ティッシュペーパーは「遺留した物」にあたる。

3 また、本件領置は、任意捜査の「目的を達するため必要な」限度であった。

(1) 任意捜査たる領置も絶対無制約ではなく、捜査比例の原則(197条1項本文)から、捜査の必要性・緊急性を考慮したうえ、具体的状況の下で相当と認められる場合に限り、許されると考える。

(2) 本件では、強姦事件という重大な犯罪についての捜査である。しかも、その手口は、女性の住居に侵入し女性を襲うという密行性のある犯行であり、他の証拠収集も困難であることから、本件捜査の必要性が高い。また、立て続けに2件の強姦事件が発生しており、犯人を突き止めるための緊急性も認められる。これに対して、本件ティッシュペーパーは、ごみとして捨てられたものである。確かに、被処分者たるXとしては、かかるごみを誰にも見られることなく焼却されるという期待を有しており、かかる期待は、本件ティッシュペーパーのような他人に見られたくない物が含まれていることが大いにあり得る以上、プライバシーとして保護に値する。しかし、本件ごみ集積所は公道上という一般人からも見える範囲にあり、他者がそのごみを拾うことも考えられる。また、捜査機関はXがごみを捨てたのを現認してそのごみ袋を領置しているため、他の住民のプライバシーが侵害されるおそれもなかった。以上にかんがみれば、その捜査の必要性・緊急性に比して、被処分者のプライバシー侵害の程度は大きくないといえる。

(3) したがって、本件領置は「目的を達するため必要な」限度であったといえる[7]

2 以上より、本件領置手続は、適法である。

以上

 

[1] 平成29年改正によって強姦罪は強制性交等罪に改正されたが、改正法によると論点落ちが生じるため、あえて旧強姦罪の成否を検討する。

[2] 判例・通説。

[3] 犯行抑圧状態を解消しないことを不作為として強盗罪を認める見解。冨髙彩「強盗罪における不作為構成(2・完)」上智法学論集54 巻3=4 号(2011 年)76 頁以下,芥川正洋「強盗罪における不作為の暴行・脅迫」『野村稔先生古稀祝賀論文集』(2015 年)283 頁以下などを参照。批判は答案例参照、

[4] 東京高判平20・3・19はこれを肯定する。注(3)との違いは、先行する暴行行為による犯行抑圧状態を解消しない点を「暴行」と捉えるか(不作為犯構成)、先行する暴行行為が継続している点を「暴行」とみるか(裁判例構成)、にある。批判は答案例参照。

[5] もし仮に、Yの行為に強盗罪が成立するとした場合でも、既にXが立ち去った以後の行為である以上、Yの行為は共謀の射程外であるとの評価を免れないと思われる。

[6] 平成22年新司法試験出題趣旨参照。

[7] 最決平20・4・15参照。「被告人及びその妻は,これらを入れたごみ袋を不要物として公道上のごみ集積所に排出し,その占有を放棄していたものであって,排出されたごみについては,通常,そのまま収集されて他人にその内容が見られることはない

という期待があるとしても,捜査の必要がある場合には刑訴法221 条により,これを遺留物として領置することができるというべきである。また,市区町村がその処理のためにこれを収集することが予定されているからといっても,それは廃棄物の適正な処理のためのものであるから,これを遺留物として領置することが妨げられるものではない。」