法律解釈の手筋

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平成31年度(2019年度) 東大ロー入試 刑事系 解答例

解答例

第1 設問1 (以下、刑法は法名略。)

1 Yの罪責

(1) Yが、A所有のバイクの前輪にあったチェーンロックを破壊し、X宅まで乗っていった行為に窃盗罪(235条)が成立する。

(2) 本件被害客体はA所有のバイクという「他人の財物」である。

(3) まず、Yの上記行為は、「窃取」行為にあたる。

ア 「窃取」とは、他人の財物を占有者の意思に反して自己又は他人の占有に移転する行為をいう。また、実行行為性が認められるためには、行為者が正犯意思を有していることが必要である。

イ まず、A所有のバイクはA宅の隣の空き家に停めてあるものの、Aの「占有」にあるといえる。

占有とは、財物に対する事実上の支配をいう[1]ところ、占有態様及び占有意思の観点から判断する。本件では、A所有のバイクは空き地に停めてあったものの、かかる空き地はA宅の隣に位置し、かつ、継続的にかかる空き地にバイクを停めていたのであるから、客観的にみてAが同空き地をバイクの駐輪場として使用しているということができる。そうだとすれば、A所有のバイクについて社会通念上Aの事実上の支配が及んでいたといえる。したがって、同バイクはAの「占有」にある[2]

ウ Yはかかるバイクを占有者Aの意思に反してX宅まで乗っていき、Xの占有に移転させている。

エ よって、Yの上記行為は「窃取」にあたる。

(4) Xには窃盗罪の故意(38条1項)が認められる。また、YはXがバイクを売り払ってしまうと考えており、権利者を排除して他人の物を自己の所有物と同様に経済的用法に従い利用処分する不法領得の意思[3]が認められる。

(5)  確かに、YはXから命令を受けて本件犯行を実行している。もし命令に従わないと他のメンバーから暴行等の制裁を受ける恐れがあったのであるから、緊急避難(37条)が認められるとも思えるが、暴行によるYの法益侵害が切迫していたといえず、「現在の危難」が認められないため、緊急避難は成立せず違法性は阻却されない。

2 以上より、Yの行為に窃盗罪が成立し、後述のとおりXと器物損壊罪の限度で共同正犯が成立する。Yはかかる罪責を負う。

第2 Xの罪責

1 XYが共謀の上、YがA所有のバイクを盗んだ点について、Xに器物損壊罪の共同正犯(60条、261条)が成立する。

(1) Xは、A所有のバイクを燃やそうと考えているところ、他人の物を自己の所有物と同様に経済的用法に従い利用処分する利用処分意思に欠けるため、不法領得の意思が認められず、窃盗罪の共同正犯(60条、235条)は成立しない。

(2) Xは、器物損壊罪の共同正犯の客観的構成要件を充足する。

ア 一部実行全部責任の処罰根拠は、各犯罪者が役割分担を通じて犯罪達成のために重要な寄与ないし本質的な役割を果たした点にある。

そこで、①共犯者間に共謀があり、②かかる共謀に基づく実行行為が認められれば共同正犯の客観的構成要件を充足する。

イ 共謀の有無

本件では、XはYに「Aのバイクを盗んでこい」と指示し、Yはこれを了承しているため意思の連絡が認められる[4]。また、Xは犯行の首謀者であり、本件犯行について重要な役割及び正犯意思を有している。

したがって、XY間で共謀が認められる。XY間では不法領得の意思の点で異なる意思を有するものの、構成要件の重なり合う限度で軽い罪の共同正犯が成立すると考えるため、Aのバイクを盗むという合意は、器物損壊罪の限度で特定の犯罪の共同遂行合意が認められる。

ウ 共謀に基づく実行行為

Xの上記第1、1の行為はXY間の共謀に基づいて行われている。それでは、Yの上記行為は「損壊」(261条)にあたるか。

「損壊」とは、財物の効用を害する一切の行為をいう。本件では、バイクを持ち去りさえすれば、Aは同バイクを利用することが困難となるため、Yの上記行為はバイクの効用を害する行為であるといえる。したがって「損壊」にあたる[5]

エ したがって、Xは器物損壊罪の共同正犯の客観的構成要件を充足する。

(3) Xは、Yの上記行為について認識・認容しているところ、器物損壊罪の故意(38条1項)が認められる。

2 Xが、Yに対し「Aのバイクを盗んでこい」と指示した行為に、窃盗罪の教唆犯が成立する(235条、61条)。

(1) 「教唆」とは、人に犯罪行為遂行の意思を生じさせることをいう[6]ところ、本件では、Xの上記指示行為はYに窃盗の犯意を形成させるに足りる。Yは窃盗の犯意を形成し、それによって窃盗行為に及んでいる。

(2) 教唆の故意とは、正犯による既遂構成要件該当事実惹起の認識・予見があれば足りるところ、Xには不法領得の意思がないものの、Yにおいて不法領得の意思のあることをXは認識している以上、Yが窃盗罪の構成要件該当事実を惹起することについて認識・認容しているため、Xには教唆の故意が認められる。

3 以上より、Xには①器物損壊罪の共同正犯②窃盗罪の教唆犯が成立し、①は②に吸収され、Xはかかる罪責を負う。

第2 設問2 (以下、刑事訴訟法は法名略、刑事訴訟規則は「規則」という。)

1 Wの供述録取書(以下「本件調書」という。)は伝聞証拠(320条1項)として、証拠能力が認められないため、取り調べることができないのではないか(298条、規則190条1項)。

(1)  伝聞証拠とは、①公判廷外の供述を内容とする証拠であって、②当該公判廷外供述の内容の真実性を証明するために用いられるものをいう。

伝聞法則の趣旨は、知覚・記憶・叙述・表現の各過程に誤りが介在するおそれがあるにも関わらず、反対尋問等によって信用性を判断できないところ、誤判防止の観点から証拠能力を否定する点にある。

そこで、内容の真実性を証明するために用いられるか否かは、要証事実との関係で決すると考える。

(2) 本件調書について

本件調書は、Wの公判廷外の供述を内容とするものである(①充足)。本件立証趣旨は、XとYの間に共謀があったこと、である。検察は、本件調書によって、XとYとの間で謀議行為があったという事実を証明し、XY間の間に特定の犯罪の共同遂行合意があったという事実を推認しようとするものであると考えられる。したがって、要証事実は、XY間の間に謀議行為があったこと、となり、Wの供述の内容の真実せいが問題となる(②充足)。

したがって、伝聞証拠にあたる。

(3)  XYの供述部分について

かかる要証事実との関係では、XYの供述そのものによって謀議行為があったという事実を直接証明するのであるから、非供述であり、内容の真実性は問題とならない[7](②不充足)。

(4) したがって、XYの供述部分は再伝聞にあたらない。

2 伝聞例外

(1) 本件調書は検察官面前調書であり、かつWは供述不能ではないため、321条1項2号後段要件該当性を検討する。

ア まず、供述者の「署名」または「押印」がない限り、例外的に証拠能力は認められない。

イ 「実質的に異った」供述とは、実質的に異なる結論を導く内容の供述をいう[8]。本件では、W公判廷供述では、XY間の共謀の事実を認定できないところ、共謀の有無について、異なる結論を導く内容となっている。

したがって、本件Wの公判廷供述は本件調書と「実質的に異った」供述にあたる。

ウ 両供述のなされた外部的事情を比較し、相対的特信情況が認められる場合には、例外的に証拠能力が認められる。

(2) よって、以上の要件を充足した場合には、例外的に裁判所はWの供述録取書を証拠として採用し、取り調べることができる。

以上

 

[1] 山口青本・280頁参照。

[2] 橋爪連載(各論)・第1回86頁以下参照。

[3] 最判昭和26年7月13日参照。

[4] 本解答例は意思連絡を認めているが、疑問は残る。「Aのバイクを盗んでこい」と指示するにすぎず、何か具体的な犯行計画までを指示していたわけではなく、XY間には意思の共同性が認められないように思われるからである。しかし、本件では、Xはリーダー格であり、かつ、YはXの指示に従わないと他のメンバーから暴行を受ける恐れがあった。Yは心理的にXに従わなければならず、Yの自由な判断が制約されている。そうだとすれば、Xの黙示的な積極的な関与があるということはできそうである。以上について、橋爪連載(総論)・第11回102頁参照。

[5] 橋爪連載(総論)・第5回107頁参照。

[6] 山口青本・159頁参照。

[7] 後藤法セ連載・第3回113頁参照。

[8] 酒巻・549頁参照。