法律解釈の手筋

再現答案、参考答案、法律の解釈etc…徒然とUPしていくブログ… ※コメントや質問はTwitterまで!

令和7年 予備試験 民事訴訟法 解答例

第1 設問1

1 Xとしては、以下のとおり、本件予測表は、同条4号二の自己利用文書に該当しない、と主張する。

2 ①文書の作成目的、記載内容等の事情から判断して専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって(外部非開示性)、②開示されると個人のプライバシーが侵害されたり、個人・団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所持者の側に看過しがたい不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には(看過し難い不利益性)、③特段の事情のない限り(特段の事情の不存在)、自己利用文書にあたる[1]。本件予測表は、以下のとおり、①要件及び②要件を欠く、と主張する[2]

(1) ①要件について

ア Yの内部規則によれば、Yの取締役会の同意がある場合には、裁判手続、これに準ずる手続及び行政不服審査法に基づく手続において、損益予測表の写しをYが提出できることになっている。裁判手続において公開されることが予定されている以上、本件予測表は外部の者に開示することが予定されていない文書とまではいえない。

イ これに対し、Yは、本件予測表は法令によってその作成が義務付けられたものでなく、専らY内部の利用に供する目的で作成され、外部に開示することが予定されていない文書であるとの反論が考えられる。また、Yの内部規則は、Yの取締役会の同意がある場合に限られること、Yが自らの書証として提出する場合を念頭に置くものであり、これのみで外部の者に開示することが予定されているとはいえない、との反論が考えられる。

ウ しかし、法令による作成が義務付けられていないことから直ちに外部非開示性が肯定されるものではないし、外部開示の抽象的な予定があれば、開示を前提とした記載としなければならず、意思形成を阻害するおそれは低い以上、外部非開示性は否定される。

エ したがって、本件予測表は外部の者に開示することが予定されていない文書とはいえない(①不充足)。

(2) ②要件について

ア 本件予測表は、本件アパートの賃貸事業の損益の予測が、主要な勘定科目ごとの明細とともに、数値で示された表形式のもので、記載された数値はⅩから収集した情報及び周辺の不動産の情報等を基にしたYの担当者の予測によるものであり、Yの意思が記載されたような文書ではなく、看過しがたい不利益が生ずるおそれはない。

イ これに対し、Yは、平成11年決定によれば、看過し難い不利益性の要件は、文書の種類に応じた類型的判断であって、個別具体的な記載内容を問題にするものではなく[3]、また、稟議書は融資の是非の審査に当たって作成されるという文書の性質上、忌たんのない評価や意見も記載されることが予定されているところ、損益予測表は、そのような稟議書と一体となって類型的に融資案件についての意思形成を円滑、適切に行うために作成される文書である以上、これを開示することは、看過しがたい不利益が生ずる、との反論が考えられる。

ウ しかし、前者について、最決平成18年2月17日[4]は、②要件について、より具体的な事実に踏み込んで検討しており、判例理解としても必ずしも類型的判断に限られないと考えられる。また、後者については、本件予測表と稟議書を一体としてみるべき理由はなく、稟議書それ自体を開示しなければYの利益が保護される以上、本件予測表のみを開示することは差し支えない。

エ したがって、本件予測表を開示することによる看過しがたい不利益が生ずるおそれはない(②不充足)。

第2 設問2

1 X債権のうち本訴で請求されていない部分について

(1) 本件相殺の抗弁は、適法である。

(2) 重複起訴の禁止は、同一の事件について更に「訴え」を提起することが許されないところ、別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することに、142条の直接適用はない。

(3) もっとも、重複訴訟禁止の趣旨は、被告の応訴の負担、既判力抵触のおそれ、訴訟不経済といった弊害の防止にある。相殺の抗弁は、それ自体訴訟物となり得るものであり、反訴提起の実質があるため、例外的に既判力が生じる(114条2項)。そうだとすれば、反訴において、本訴請求債権を自働債権とする相殺の抗弁の主張を許せば、異なる判決が出ることにより既判力抵触のおそれが生じる他、本訴被告の応訴負担や訴訟不経済も生ずる。以上にかんがみれば、重複訴訟禁止の趣旨が妥当し、142条が類推適用されると考える。さらに、最判平成3年12月17日[5]によれば、弁論併合されている場合でも同様であるとしており、同判例に従う限り、反訴で本訴訴求債権の相殺の抗弁を主張する場合であっても、142条が類推適用されることになる。

(4) しかし、いわゆる数量債権の明示的一部請求に関する判例法理によれば、明示的一部請求にかかる債権の訴訟物は一部請求部分に限定され、後訴残部請求に前訴確定判決の既判力は及ばないところ(最判昭和37年8月10日[6])、本訴請求債権たる明示的一部請求部分でない残部請求部分を以て反訴で相殺の抗弁を主張する場合には、既判力抵触のおそれはない。さらに、相殺の抗弁については、簡易決済機能や担保的機能を有する重要な防御方法であることも考慮すれば、訴訟不経済や被告の応訴負担という重複起訴禁止の趣旨を考慮しても、特段の事情のない限り、相殺の抗弁が許されると考える(最判平成10年6月30日[7]同旨)。

(5) 本訴は、Xは、本訴においてX債権3億円のうち1億円の支払を求める旨を訴状に記載しており、明示的一部請求であるといえる。

(6) したがって、X債権のうち本訴で請求されていない部分について、相殺の抗弁が許される。

2 X債権のうち本訴で請求されている部分について[8]

(1) 本件相殺の抗弁は、適法である。

(2) 前述のとおり、X債権のうち本訴で請求されている部分については、平成3年判決に従う限り、142条類推適用により、相殺の抗弁は許されないことになる。

(3) しかし、弁論が併合されている限り、上記重複訴訟禁止の趣旨は妥当しないのであるから、平成3年判決が、弁論が併合されている場合にも相殺の抗弁を否定したことは妥当でない。そして、最判令和2年9月11日[9]は、本訴と反訴の弁論を分離すると、本訴請求債権の存否等に係る判断に矛盾抵触が生ずるおそれがあり、また、審理の重複によって訴訟上の不経済が生ずるときには、両者の弁論を分離することができず、弁論が分離されない限りは、上記のおそれがないとして、142条の趣旨に反するとはいえない、とする。そこで、本訴請求債権を反訴で相殺の抗弁として主張する限り常に弁論分離は禁止される結果、142条類推適用は認められないと考える。この限りにおいて、平成3年判決は実質的に先例的価値を失ったと考える。

(4) したがって、本件でも、X債権のうち本訴で請求されている部分について、相殺の抗弁が許される。

以上

 

 

 

[1] 最決1999年(平成11年)11月12日民集53巻8号1787頁。

[2] 判例は、③要件の「特段の事情」の意義ついて、きわめて限定的に解しているところ、③要件を欠くとの主張は難しいように思われる。特段の事情の内容については、最決2000年(平成12年)12月14日民集54巻9号2709頁、最決2001年(平成13年)12月7日民集55巻7号1411頁等を参照。

[3] このように判例を理解する見解として、小野憲一「判解」最判解平成11年度(2002年)783頁。ただし、小野調査官は、事案によっては類型的な判断が困難で、個別具体的な判断に近づく場合もあり得ると思われる、とする。

[4] 民集第60巻2号496頁。

[5] 民集45巻9号1435頁。

[6] 民集16巻8号1720頁。

[7] 民集52巻4号1225頁。

[8] 解答の方向性としては、以下の3つがあり得ると思われる。①平成3年判決の不当性を直視し、同判例を批判した上で、相殺の抗弁を適法とする②平成3年判決を維持しつつも、令和2年判決の射程が及び、相殺の抗弁を適法とする③平成3年判決を維持し、さらに、令和2年判決の射程も及ばないと解し、相殺の抗弁を不適法とする。いずれの見解に立つにせよ、平成3年判決の当否、平成3年判決と令和2年判決の関係性についての理解を答案に示す必要がある。本当案例では、平成3年判決はあまりに問題のある判例であるとの問題意識より、①の方向性で解答している。

[9] 民集74巻6号1693頁。