再現答案
第1 設問1
1 乙がPTA役員会において「2年生の数学を担当する教員がうちの子の顔を殴った」と発言した行為について、名誉棄損罪(刑法(以下法名略)230条)が成立する。
(1) PTA役員会には乙を含む保護者4名とA高校の校長の5名しかいなかったが、なお「公然」にあたる。
ア 「公然」とは、不特定又は多数者をいう。もっとも、名誉毀損罪の保護総益は外部的名誉であるところ、少数者から不特定多数者に伝播する具体的危険があり、不特定多数者に伝播したような場合には、なお「公然」にあたると考える。
イ 本件では、数学を担当する教員が生徒甲を殴ったとの発言であり、A高校の校長としては、かかる事実を確認しなければならない責務があるところ、事実確認のため、乙発言についてA高校の他の教員に調査する具体的危険性があったといえる。そして、実際に校長が教員に聞き取り調査を行ったことによってA高校の25名全員に丙が甲に暴力を振るったとの話が広まっている。25名とPTA役員会で乙の話を聞いた4名を含めると約30名となり、多数人といえる。
ウ したがって、「公然」にあたる。
(2) 乙は「2年生の数学を担当する教員」と人物を特定していないが、なお「事実を摘示」したといえる。
ア 「事実を摘示」とは、特定人の社会的評価を低下させるに足りる具体的事実の摘示をいう。
イ 本件では、乙は「2年生の数学を担当する教員」と人を特定していないとも思える。しかし、A高校において2年生の数学を担当している教員は丙しかおらず、かかる発言から容易に丙であることが特定可能であるといえ、なお特定人に対する事実の摘示にあたる。
また、「うちの子を殴った」という具体的事実は、現代の教員にとっては由々しき事態であり、社会的非難の対象となり得るものであるから、丙の社会的評価を低下させるに足りる。
ウ したがって、「事実を摘示」にあたる。
(3) 名誉毀損罪は具体的危険犯であり、現実に丙の名誉が侵害されることは必要ない。
(4) よって、乙の上記行為に名誉毀損罪が成立する。
第2 設問2 (1)
1 甲が乙を放置してバイクで走り去った行為に、殺人未遂罪(203条、199条)が成立する。
2 まず、甲の上記行為は、不作為であるが、なお実行行為性が認められる。
(1) 実行行為とは、法益侵害惹起の現実的危険性を有する行為をいうところ、不作為によっても実現できる。もっとも、自由保障機能の観点から、その範囲を限定する必要がある。
そこで、不作為者に①作為義務が認められ②その前提として作為義務の可能性・容易性が認められる場合に実行行為性が認められると考える。
(2) 本件では、乙は崖のすぐ近くで転倒して意識を失っている。乙が崖近くで転倒した時点では、乙の怪我の程度は軽傷であり、その怪我により乙が死亡する危険はなかった。しかし、乙の転倒したすぐそばが崖となっており、崖から5メートル下の岩場に転落する危険があった。5メートルという高い場所から岩場という硬い場所に落ちれば、乙が死亡する危険性は十分ある。また、乙は意識を失っており、この後目を覚まして訳も分からず崖の方へ歩き出す危険性もある以上、乙を放置することは乙の生命侵害惹起の現実的危険性があるといえる。
甲はバイクから降りて乙に近づいて乙の様子をみている。本件駐車場は街灯がなく、夜になると車や人の出入りがほとんどなく、乙が甲以外の者に救助される可能性は低い。また、乙の倒れている場所も草木に覆われ、賛同及び同駐車場から倒れている乙が見えない以上、さらに乙が救助される可能性はない。以上にかんがみれば、乙の死までの因果経過を甲が支配しているといえる。また、甲は乙の息子であり、乙を救助する倫理上の義務があるといえる。したがって、甲には乙を乙の自動車に運ぶなどの救助をする義務があったといえる(①充足)。そして、かかる義務は甲は容易に行くことができたし、かかる義務を履行することによって乙の崖下への転落の危険を防止することができたのであるから、作為の可能性・容易性もある(②充足)。
(3) したがって、甲の上記行為に実行行為性が認められる。
3 乙に死という結果は発生していない。
4 甲は、乙の死について認識認容していたといえ、故意(38条1項)が認められる。
5 したがって、甲の上記行為に殺人未遂罪が成立する。
第3 設問2 (2)
1 第1に、甲の上記行為は殺人罪の実行行為性が認められないとの反論が考えられる。
(1) 確かに、甲が乙を放置すれば、乙が崖下へ転落する危険性があった。しかし、乙の怪我は軽傷であり、訳も分からず乙が崖の方へ向かって歩くとは考え難い。もし仮にそのような行為を乙がとったとしても、それは被害者の異常な介在事情による結果であって、かかる結果発生の危険性まで乙を放置する行為の危険性には含まれない。
そうだとすれば、甲の上記行為は乙の生命侵害惹起の現実的危険性を有する行為とまではいえない。
(2) したがって、甲の上記行為は保護責任者遺棄罪(218条)が成立するにとどまる。
2 第2に、もし仮に上記行為に殺人罪の実行行為性が認められるとしても、乙には殺人罪の故意(38条1項)が認められないと反論することが考えられる。
(1) 故意とは、構成要件該当事実に対する認識・認容をいう。
(2) 本件では、甲は確かに乙が転倒した場所のすぐそばが崖下となっており、崖下の岩場に乙が転落する危険があることを認識していた。しかし、甲は乙から顔を数回殴られ叱責されたことを思い出し、乙を助けるのをやめようと考えたにすぎず、乙の死の結果発生について認容までしていたわけではない。
(3) したがって、甲には殺人罪の故意が認められず、保護責任者遺棄致傷罪(219条)の限度で犯罪が成立するにとどまる。
第4 設問3
1 甲が丁を放置してバイクで走り去った行為に、殺人未遂罪(203条、199条)が成立する。
2 甲は丁について救助義務を有していないが、なお実行行為性がある。
(1) 実行行為の意義は前述のとおりであるが、かかる危険性は、行為不法の観点から、一般人が認識し得た事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎に、一般人の観点から判断する。不作為犯の実行行為性については、前述の基準を採用する。
(2) 本件の被害客体は丁であるが、一般人でも丁を乙と誤認する可能性が十分に存在し、かつ甲も丁を乙と誤認しているところ、乙を基礎として作為義務を判断する。そして、前述のように同駐車場は暗く、甲は乙の死の結果原因を支配している。また、親に生じた危難について子は親を救助する義務を負うのであるから、甲には乙を救助する義務がある(①充足)。そして、乙を乙の自動車に運び込むなどかかる義務の履行は可能かつ容易であった(②充足)。
(3) したがって、甲の上記行為に実行行為性が認められる。
3 丁には、死という結果が発生していない。
4 甲は、丁を乙と誤認しているが、なお故意(38条1項)は認められる。
(1) 故意責任の本質は、反規範的行為に対する道義的非難であるところ、かかる規範は構成要件という形で一般国民に与えられている。
そこで、客観的事実と主観的事実が同一の構成要件の範囲内である限り、規範的障害を克服したといえ、故意が認められると考える。
(2) 本件では、客観的に生じた事実は丁に対する殺人未遂であるのに対し、主観的に生じた事実が乙に対する殺人未遂であるが、およそ人に対する殺人未遂罪という点で構成要件内の重なり合いが認められる。
(3) したがって、甲には故意が認められる。
5 よって、甲の上記行為に殺人未遂罪が成立する。
解答実感
・約3000字(思考時間35分/答案作成時間55分)
・出題形式を変えてきたからうまく書けなかった(言い訳)。
・司法試験で唯一でないと宣言した名誉毀損…微妙に伝播性の理論の理解違う…具体的危険犯じゃない…。
・設問2知らん。でも外してないたぶん。
・設問3さらに知らん。でも外してないたぶん。微妙に具体的危険犯のあてはめが理解していない感を露呈させるものとなっている…。
・予想順位は500~1000番くらい。