法律解釈の手筋

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東大ロー期末試験 上級民事訴訟法 2013年度(高田裕成問) 解答例

 

解答例

 

第1 問題1 設問1

 1 空欄には、「控訴を棄却し」が入ると思われる。

 2 控訴においては、控訴人の利益又は不利益に判決を変更することができないという、不利益変更禁止の原則及び利益変更禁止の原則が認められる(304条)。その趣旨は、控訴における処分権主義の現れであるとともに、控訴人が安心して控訴をすることができるという政策的考慮にある。

   そこで、かかる原則に反する場合には、控訴を棄却しなければならない。

   本件では、後述のとおりかかる原則に反することになるため、控訴を棄却しなければならない。

第2 問題1 設問2

 1 相殺の抗弁はそれ自体が訴訟物となり得るものであり、反訴提起の実質があるところ、例外的に判決理由中の判断でも既判力が生じる(114条2項)。

 2 もし仮に、相殺の抗弁が認められるとの理由で請求棄却判決がなされると、114条1項により原告の訴求債権の不存在に、114条2項により被告の相殺の抗弁に供した自働債権の不存在に既判力が生じる。これに対して、そもそも原告の訴求債権が不存在であるとの理由で請求棄却判決がなされると、被告の相殺の抗弁に供した自働債権について既判力が生じず、後訴においてかかる債権を請求されることになる点で原告に不利となる。

   したがって、控訴審が原判決を取り消して改めて請求棄却判決をすることは、原告Xの不利益になる。

 3 なお、相殺の抗弁の反訴提起の実質を全面に押し出し、原告の控訴によって移審するのはかかる相殺の点に限られるため、控訴審で審理・判断するのは相殺の点のみと考える見解があるが、これは控訴不可分の原則に反するし、裁判所の心証に反する判決をさせることになり得る点で妥当でない[1]

第3 問題1 設問3

 原判決を取り消して改めて請求を認容しても控訴人Yの不利益にはならないため、不利益変更禁止の原則に反しない。

 したがって、裁判所は、現判決を取り消して改めて請求棄却判決をすべきである。

第4 問題2 設問1

 1 まず、Yの本問の主張は、前訴における訴訟上の和解における既判力により遮断されないか。

 (1) 訴訟上の和解は、裁判所の判断作用がない自主的紛争解決である点で、既判力を生じさせる前提に欠ける。また、判例は、後訴において既判力と矛盾抵触する主張は許さず、前訴の訴訟行為に瑕疵があったとの主張を許す点で制限的に既判力を認めるが、既判力概念を分断させることは妥当でなく、判例の結論は和解の確定効という実体法上の効果によっても達成できる点で実益がない。

    そこで、訴訟上の和解における「確定判決と同一の効力」に既判力は含まれないと考える。

 (2) したがって、本件において、既判力によりYの本問主張が遮断されることはない。

 2 次に、訴訟行為である訴訟上の和解を錯誤無効(民法95条)とすることができるか。訴訟行為に私法上の意思表示規定が類推適用されるかが問題となる。

 (1) 訴訟上の和解の場合、その後に訴訟行為が積み重なることがないため、手続安定を考慮する必要がない。また、訴訟上の和解は裁判所の判断を待たない取効的訴訟行為であり、私法行為に近いといえる。

    そこで、訴訟上の和解には私法上の意思表示の規定が類推適用されると考える。

 (2) したがって、本件においても、Yの本問主張は認められる。

 3 なお、もし仮に訴訟上の和解が無効であるとすると、前訴が終了していないこととなるため、請求異議の訴えが重複訴訟禁止(142条)に反し許されないのではないかが問題となるが、期日指定申立てと請求異議の訴えでは、審級の利益の観点と訴訟資料の継続的使用の観点でメリットデメリットが反転するため、当事者の選んだルートを認めていくのが実体に即し妥当である。そこで、当事者が別訴を提起してきた場合には、重複訴訟に反せず適法であると考える。

本件においても、期日指定の申立てが他方当事者からなされない限り、請求異議の訴えは、重複訴訟禁止原則に反しないと考える。

よって、請求異議の訴えは適法である。

第5 問題2 設問2

 1 Xの訴えには訴えの利益がなく、不適法とならないか。

 (1) 訴えの利益とは、本案判決をすることの必要性をいう。

 (2) 本件では、Xはすでに和解調書の有しており、それを債務名義としてYに強制執行していくことができる。すなわち、執行力ある判決はすでに有しているのである。このような場合に、Xのかかる訴えを認める必要性は低く、また、二重強制執行の危険もある。そこで、執行力ある判決を有する原告に再度給付訴訟によって本案判決を認める必要はない。確かに、訴訟上の和解には、既判力は生じない。しかし、この点は和解の確定効という実体法上の効果によって和解に矛盾した主張は許されないため、既判力ある判決を求める必要も高くないと考える。

 (3) したがって、Xのかかる訴えは、訴えの利益がない。

 2 よって、Xのかかる訴えは不適法である。

以上

 

[1] 本問ではこの点まで出題趣旨ではないかもしれない。判例は訴求債権についても当然に移審することを前提に判断を下していることが明らかだからである。