法律解釈の手筋

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民法193条・194条の手筋-最判平成12年6月27日-

 

1.最高裁判決平成12年6月27日

(1)事案(簡易版)

XはAに本件機械を窃取された。Aは本件機械をYに対して300万円で売却した(なお、Yは本件機械がA所有でないことにつき善意無過失だった。)。Xは本件機械窃取後2年以内の某日、Yに対し①所有権に基づく本件機械引渡請求②不当利得または不法行為に基づく訴状送達の日の翌日から返還までの使用利益ないし賃料相当額の支払をした。Yは194条に基づいて、代価の弁償を受けないかぎり本件機械を引き渡さないと反論。

第1審は、①②ともに請求認容。これを受けて、Yは原審係属中に本件機械を任意にXに返還。原審では、XのYに対する②の請求と、Yが反訴として提起した194条に基づく代価弁償請求について争われた。

原審は、XYの請求をともに認容した。Yが上告申立て。

 

(2)判旨

・XのYに対する本件機械の使用利益返還請求について

「盗品又は遺失物(以下「盗品等」という。)の被害者又は遺失主(以下「被害者等」という。)が盗品等の占有者に対してその物の回復を求めたのに対し,占有者が民法194 条に基づき支払った代価の弁償があるまで盗品等の引渡しを拒むことができる場合には,占有者は,右弁償の提供があるまで盗品等の使用収益を行う権限を有すると解するのが相当である。けだし,民法194条は,盗品等を競売若しくは公の市場において又はその物と同種の物を販売する商人から買い受けた占有者が同法192 条所定の要件を備えるときは,被害者等は占有者が支払った代価を弁償しなければその物を回復することができないとすることによって,占有者と被害者等との保護の均衡を図った規定であるところ,被害者等の回復請求に対し占有者が民法194 条に基づき盗品等の引渡しを拒む場合には,被害者等は,代価を弁償して盗品等を回復するか,盗品等の回復をあきらめるかを選択することができるのに対し,占有者は,被害者等が盗品等の回復をあきらめた場合には盗品等の所有者として占有取得後の使用利益を享受し得ると解されるのに,被害者等が代価の弁償を選択した場合には代価弁償以前の使用利益を喪失するというのでは,占有者の地位が不安定になること甚だしく,両者の保護の均衡を図った同条の趣旨に反する結果となるからである。また,弁償される代価には利息は含まれないと解されるところ,それとの均衡上占有者の使用収益を認めることが両者の公平に適うというべきである」として、Xの請求を棄却した。

 

・YのXに対する代価弁償請求についての判例変更

「右の一連の経緯からすると,X は,本件機械の回復をあきらめるか,代価の弁償をしてこれを回復するかを選択し得る状況下において,後者を選択し,本件機械の引渡しを受けたものと解すべきである。このような事情にかんがみると,Y は,本件機械の返還後においても,なお民法194 条に基づきX に対して代価の弁償を請求することができるものと解するのが相当である。大審院昭和4 年(オ)第634 号同年12 月11 日判決・民集8 巻923頁は,右と抵触する限度で変更すべきものである。」

 

 

2.本判決の意義

 

(1)194条が適用される場合の、原所有者の占有者に対する使用収益返還請求の可否

判例はこの点について、代価弁償までは占有者は使用収益権を有するとして、原所有者は使用収益返還請求をすることはできないとした。

その理由は、以下のとおりである。①194条の代価弁償の抗弁が認められる場合、原所有者としては(ⅰ)代価を支払って回復請求をするか(ⅱ)回復を諦めるかの2択となる。このうち、(ⅱ)を採った場合、物の所有は占有者に確定し、原所有者は当然に使用収益返還請求もなし得ない。これに対して、(ⅰ)を採った場合、もし仮に使用収益返還請求まで原所有者に認めると、(ⅱ)の場合に比べて占有者に不当に不利益を与えることになり妥当でない。かつ、②(ⅰ)の場合に、占有者には代価弁償の利息返還請求もできないため、占有者には使用収益権を認めることが当時者の公平に資する。

 

(2)本判決と193条の法的性質の関係

193条の法的性質(被害品が誰の所有に属するか)には争いがある。

ア原所有者帰属説(従来の判例)

イ占有者帰属説(学説多数説)

本判決は、193条の法的性質に言及することなく194条の趣旨から判断している。このため、193条の法的性質との関係が問題となる。

原所有者帰属説の場合、訴え提起によって占有者には189条2項、190条1項の適用があり、悪意の占有者になるとの理解が素直である。したがって、占有者に使用収益権は認められないことになる。もっとも、占有者の使用収益権を194条の趣旨から導かれる特別の権利と解することは可能とされる。これに対して、占有者帰属説の場合、代価弁償提供時までは所有権に基づく適法な占有となり、当然に使用収益権を有することになる。

占有者帰属説の方が本判決に親和的といえるが、従来の判例を変更したといえるかまでは疑問である。

 

(3)代価弁償請求(194条)の可否

従来の判例は代価弁償を抗弁権として位置づけ、請求権として認めていなかったが、本判決はこれを変更した。

ただし、本判例の射程には注意を要する。本件事案では、原告Xは「本件機械の回復をあきらめるか,代価の弁償をしてこれを回復するかを選択し得る状況下において,後者を選択し,本件機械の引渡しを受けた」のであり、「このような事情にかんがみると」代価弁償請求が認められるとしている。例えば、大審院の判例のように,警察が関与して目的物を被害者に仮下渡しをしてしまい,同人が代価弁償の意思をもってそれを受領したとは思われない場合には、なお代価弁償請求が認められないと解される。