法律解釈の手筋

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口頭弁論終結後の承継人の手筋

※参考文献[1]

 

0 事例

【事例1】(既判力基本問題(同一関係))

XのYに対する金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求の訴え(前訴)に係る請求認容判決が確定した。しかし、その後もYが支払う様子がなく時効が成立しそうであったため、Xは再度、Yに対して同一の金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求の訴え(後訴)を提起した。

【事例2】(既判力基本問題(物権的請求→所有権確認))

XのYに対する所有権に基づく動産甲の引渡請求の訴え(前訴)にかかる請求認容判決が確定した。その後、YはXに対し動産甲の所有権確認の訴えを提起した。

【事例3】(物権的請求認容→物権的請求)

XのYに対する所有権に基づく動産甲の返還請求の訴え(前訴)に係る請求認容判決が確定した。しかし、前訴の口頭弁論終結後にYからZに動産甲が譲渡されたため、XがZに対して所有権に基づく動産甲の返還請求の訴え(後訴)を提起した。

【事例4】(債権的請求認容→物権的請求)

XのYに対する売買契約に基づく動産甲の引渡請求の訴え(前訴)に係る請求認容判決が確定した。しかし、前訴の口頭弁論終結後にYからZに動産甲が譲渡されたため、XがZに対して所有権に基づく動産甲の返還請求の訴え(後訴)を提起した。

【事例5】(物権的請求認容→所有権確認(承継))

XのYに対する所有権に基づく動産甲の返還請求の訴え(前訴)に係る請求認容判決が確定した。しかし、前訴の口頭弁論終結後にYからZに動産甲が譲渡されたところ、ZはYに対して動産甲の所有権確認の訴えを提起した。

【事例6】(物権的請求棄却→物権的請求)

XのYに対する売買契約に基づく動産甲の引渡請求の訴え(前訴)に係る請求棄却判決が確定した。しかし、前訴の口頭弁論終結後にYからZに動産甲が譲渡されたため、XがZに対して所有権に基づく動産甲の返還請求の訴え(後訴)を提起した。

【事例7】(免責的債務引受事例)

XがYに対して消費貸借契約に基づく貸金返還請求(前訴)に係る請求認容判決が確定した。しかし、前訴の口頭弁論終結後にYからZに免責的債務引受がなされたところ、XはZに対してZY間の消費貸借契約に基づく貸金返還請求の訴えを提起した。

 

1 既判力論の基本的理解

既判力の客観的範囲は、前訴確定判決の「主文に包含するもの」すなわち実体法上の権利又は法律関係に生じる(客観的範囲 民訴114条1項 既判力=訴訟物テーゼ)。その基準時は、前訴の事実審の口頭弁論終結時である。そして、かかる既判力は、当事者間にのみ及ぶのが原則である(民訴115条1項1号)。後訴裁判所は、前訴既判力が発生した事項を前提に判断しなければならず(積極的作用)、当事者の前訴既判力に矛盾抵触する主張を排斥しなければならない(消極的作用)。

【事例1】では、前訴事実審口頭弁論終結時にXのYに対する金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権が存在したとの既判力が、XY間において生じる。後訴裁判所は、前訴口頭弁論終結時に貸金返還請求権が存在していたことを判決の基礎とし(積極的作用)、それに矛盾するXYの主張を排斥しなければならない(消極的作用)。

例えば、前訴事実審口頭弁論終結前にXに対して弁済していた、とYが主張した場合を考える。かかる主張は、貸金返還請求権を消滅させる主張である。もし仮にかかる主張が認められると、前訴事実審口頭弁論終結時に貸金返還請求権がなかったという結論を導くことになるため、前訴口頭弁論終結時に貸金返還請求権が存在するとした前訴既判力と矛盾することになる。そのため、既判力の消極的作用(遮断効)により、排斥される。したがって、裁判所は、前訴事実審口頭弁論終結時に貸金返還請求権が存在していると認定し(積極的作用)、Yのかかる主張を排斥する。そして、同請求権が後訴口頭弁論終結時まで存続していることが推認される結果、請求認容判決をしなければならない。

これに対して、前訴事実審口頭弁論終結後に弁済した、とYが主張した場合はどうか。この場合、Yのかかる主張が認められたとしても、前訴事実審口頭弁論終結時に貸金返還請求権が存在していたことには変わりがないため、前訴既判力と矛盾しない。そのため、Yのかかる主張は遮断されないことになる。したがって、裁判所は、前訴事実審口頭弁論終結時に貸金返還請求権が存在していると認定するが(積極的作用)、新たにYの主張について審理し、理由があると認める場合は、請求棄却判決をしなければならない。

 

2 口頭弁論終結後の「承継人」の意義

(1) 承継人概念

(2) 固有の抗弁を有する第三者の「承継人」該当性と対立の無意味性

 

3 物権的返還請求権と口頭弁論終結後の承継人に対する既判力の作用

 既判力が後訴に作用するためには、前訴・後訴の訴訟物同士が、同一・先決・矛盾のいずれかの関係にあることを要する。しかし、物権的請求権が問題となっている場合、例えば、【事例3】では、前訴訴訟物はXのYに対する所有権に基づく動産引渡請求権であるのに対し、後訴訴訟物はXのZに対する所有権に基づく動産引渡請求権である。前訴・後訴訴訟物は、同一・先決・矛盾のいずれの関係にもないところ、既判力が承継人に拡張されたとしても後訴に作用しない(既判力を及ぼしても意味がない)のではないかということが問題となる。この点について、大きく積極説と消極説が対立している。

 

(1) 消極説(山本(弘)、山本(克己)、丹野など)

 承継人に既判力を及ぼしたとしても、後訴に作用するところがなく意味がないとする。これについては、いくつか論証がされている。

(ⅰ) 物的返還義務の承継?

 物権的返還請求権に係る占有者の義務は、実体法上目的物の占有の特定承継があった場合に、前主から後主へと承継されるものではない。すなわち、【事例3】において、XのZに対する所有権に基づく返還請求権は、Zが占有を取得することにより原始的に発生するものであり、ZはYの返還義務を承継するわけではないということである[2]

(ⅱ) 要件事実論的構成

要件事実論に即して考える。

【事例3】で、後訴においてZが、自己が94条2項の第三者にあたるとの主張をしたとする。この場合、後訴は、

請求原因:①動産甲X所有②動産甲Z占有

抗弁:XY売買(所有権喪失)

再抗弁:XY通謀虚偽表示

再再抗弁(予備的抗弁):YZ売買(所有権喪失)

となる。以上において、前訴事実審口頭弁論終結時にXがYに対して物権的請求権を有していたことと矛盾する攻撃防御方法はどこにも存在しない。したがって、Zが「承継人」にあたるとして既判力を拡張させたとしても、意味がない[3]

 もっとも、消極説にたったとしても、前訴訴訟物たる権利関係がそのまま譲渡された場合には、前訴訴訟物が後訴訴訟物の先決的法律関係にあたるとして既判力が作用する。【事例6】で、Zが後訴において、YはXとの金銭消費貸借契約締結時に意思無能力であったと主張した場合を考える。この場合、後訴は、

請求原因:①XY金銭授受②XY返還合意③XY弁済期合意④③弁済期到来⑤XZ免責的債務引受合意

抗弁:Y意思無能力により金銭消費貸借契約無効

となる。請求原因①ないし④は、XY間の貸金返還請求権の存在を基礎づける事実であるところ、かかる請求権は前訴既判力が生じた訴訟物である。したがって、後訴は前訴訴訟物が先決的法律関係となっており、既判力が作用する。Yの上記抗弁は、前訴事実審口頭弁論終結時におけるXのYに対する貸金返還請求権の存在と矛盾する主張となるため、消極的作用により遮断される[4]

 したがって、消極説に立つ場合、前訴訴訟物たる権利又は法律関係を譲渡したような場合に限って、承継人に既判力を拡張した意味があるということになる。

(ⅲ) リスク負担の相称性の破壊

 積極説に立って【事例3】と【事例6】を比較して考える。積極説の場合、【事例3】では、ZはXの所有権を争う主張は既判力により遮断される。これに対して、【事例6】では、Xは、後訴において、自己の所有権を基礎づける事実が既判力によって遮断されない。請求棄却判決の場合、Xが甲所有権を有するか否かは不明だからである(Xが甲所有権を有していたものの、Yが甲を占有していないために請求棄却された可能性がある等)。

 この場合、原告は敗訴しても目的物の所有権がないとの既判力を受けるリスクを負わないのに対して、被告は敗訴すると既判力によっても目的物の所有権を争い得なくなるというリスクを負う点で、原告被告間でのリスク負担の相称性が破壊されることになる[5]

(ⅳ) 対処法

 消極説に立った場合、既判力拡張を認めた意義は大きく減殺されることになる。この点について消極説の論者は、既判力の主観的範囲の拡張が意義の乏しいものとなった原因は、判決理由中の判断に既判力を否定した訴訟法側の都合であるというのに、これを訴訟法側の都合から理由中に拘束力を認めるのは背理である、このような場合には対処策として確認訴訟が容易されたのではないか、とする。また、争点効の拡張によって後訴に拘束力を及ぼすことも否定されない。

 

(2) 積極説(高橋、越山、笠井など)

積極説の中にも、ヴァリエーションがあるとされる。

(ⅰ) 裸の失権効説その1

前訴確定の積極的効力がどのように働くかに触れずに、ZがXの基準時の所有権を争うことが既判力によって遮断されるという見解のうち、前訴口頭弁論終結時におけるXの所有権を争うことに対する失権効が働く後訴が、前訴の訴訟物に制約を受けない、とする見解である。

かかる見解の場合、【事例3】【事例5】では、前訴確定判決によってXの甲所有権について拘束力が及ぶ結果、Zは甲がX所有であることについて争うことができない。しかし、この見解は判決理由中の判断に対する拘束力を認めることに他ならない。この見解の場合、【事例2】においても、Yの後訴は前訴訴訟物と同一・先決・矛盾のいずれの関係にもないため甲のX所有を争うことができるとされる基本的理解から外れることになる。

(ⅱ) 裸の失権効説その2(請求の同一性擬制説)

 ZがXの基準時の所有権を争うことが既判力によって遮断されるという見解であるが、前訴と後訴の請求権の同一性が擬制される結果、前訴・後訴訴訟物が先決関係に立つと考える[6]。この点で、失権効が及ぶ後訴の範囲は、前訴の訴訟物によって画されることとなり、裸の失権効説その1と異なる。

 かかる見解の場合、【事例3】では、前訴既判力が後訴に作用する結果、ZがX所有権を争うことは、前訴既判力と矛盾する主張となるため、遮断される。要件事実論に即して考えると、

請求原因:①前訴口頭弁論終結時においてXが動産甲を所有していたこと②前訴口頭弁論終結後にZがYから動産甲の占有を特定承継したこと③現にZが動産甲を占有していること

となる。消極説の陣営からは、そもそも要件事実論の知らない要件事実に転化し、「既判力による実体法の書き換え」がなされているとの批判がされる[7]

これに対して【事例4】や【事例5】では、請求の同一性擬制が認められない結果、既判力が後訴に作用しない[8]

(ⅲ) 義務承継説

 ある物の引渡請求権につき確定判決による既判力が生じた場合、既判力の基準時により後にその物の占有の承継が生じたときに、既判力拡張との関係では、既判力により確定された請求権を前提として承継取得する請求権が発生したとみる、とする見解である[9]

【事例3】では、YからZへの動産甲の占有承継が認められれば、ZがYの引渡義務を承継取得すると擬制されるとする。要件事実論に即して考えると、

請求原因:①前訴確定判決があること②前訴口頭弁論終結後にZがYから動産甲の占有を特定承継したこと③現にZが動産甲を占有していること

となる。消極説の陣営からは、先と同様に「既判力による実体法上の書き換え」を認めるに他ならないとの批判の外、かかる要件事実からは、Xの所有権が請求原因事実にあがらないところ、Zの善意取得によりXの所有権が喪失したという抗弁が成り立つことを説明できないとの批判がある[10]

 

4 消極説からみた執行力の拡張

 消極説に立った場合、執行力拡張についてどう考えるかが問題となる。

かつては、既判力の拡張と執行力の拡張の基準は同一であるとして、「承継人」の意義は異ならないとするのが通説であった。しかし、既判力拡張と執行力拡張はその意義、効果が別物である以上、別異に検討していくことが必要であるとする見解が有力である。

その結果、債務名義上の債権者が承継人に対して債務名義上の債権と同じ給付を求める請求権を有する蓋然性が高いことを根拠に、執行力の拡張を認める見解が有力である[11]

上記のように、既判力拡張(作用)を否定し執行力拡張を肯定した場合、どうなるか。【事例3】では、Xは承継執行文(民執27条2項)の付与によってZに対して強制執行していくことができる以上、後訴を提起する必要がない。むしろ、強制執行を拒むZ側が請求異議の訴え(民執35条1項)を提起していく必要があることになる。したがって、Zは後訴においてX所有を争うことができる反面、起訴責任はなお負うことになる。

 

5 消極説からみた訴訟承継の訴訟状態承認義務

 消極説に立った場合、訴訟承継の訴訟状態承認義務の可否についてどう考えるか問題となる。

 例えば、【事例3】のZへの承継の時点が前訴口頭弁論終結前であったとする。そして、XがZに対して引受承継の申立てをしたとする。この場合、Yが既に請求原因①動産甲X所有について自白をしていたとき、訴訟状態承認義務を肯定すると、Zはこれを争うことができないことになる。しかし、消極説に立つと、前訴口頭弁論終結後にZが動産甲を特定承継したときには後訴においてZは動産甲X所有を争うことができる。そうだとすれば、Zは訴訟状態承認義務を負わないとすることが消極説と整合する[12]

 

[1] 主な参考文献として、高橋宏志『重点講義民事訴訟法(上)[第2版補訂版]』(有斐閣、2014)690頁以下(以下「重点講義・上」で引用)、上野泰男「既判力の主観的範囲に関する一考察」関大法学41巻3号(1991)932頁、越山和広「既判力の主観的範囲」実務民事訴訟講座〔第三期〕(2013)、松本博之「口頭弁論終結後の承継人への既判力の拡張に関する一考察」龍谷法学44巻4号(2012)1237頁以下、鶴田滋「判決効拡張・訴訟承継における承継人概念」法時88巻8号(2016)26頁以下、山本弘「弁論終結後の承継人に対する既判力の拡張に関する覚書」伊藤眞古稀記念論文・民事手続の現代的使命(有斐閣、2015)(以下「伊藤古稀」で引用)685頁以下、山本克己「物権的返還請求権と口頭弁論終結後の承継人」高橋宏志先生古稀記念・民事訴訟法の理論(有斐閣、2018)(以下「高橋古稀」で引用)997頁以下、名津井吉裕「既判力の主観的範囲」法学教室463号(2019)105頁以下など

[2] 山本(克)・前掲注(1)(高橋古稀)997頁。

[3] 山本(弘)・前掲注(1)(伊藤古稀)693頁。

[4] 山本(弘)・前掲注(1)(伊藤古稀)702頁、名津井・前掲注(1)(法教)109頁。

[5] 山本(克)・前掲注(1)(高橋古稀)1009頁。

[6] 上野・前掲注(1)932頁注48、越山・前掲注(1)310頁以下。もっとも、越山については、越山和広『ロジカル演習民事訴訟法』(弘文堂、2019年)において説を若干改めたとの評価もなし得る。

[7] 山本・前掲注1(伊藤古稀)700頁。

[8] もっとも、この点については「訴訟物」の同一性を犠牲していくとする見解も存在する。高橋・前掲注(1)(重点講義・上)701頁参照。しかし、ここまで同一性を犠牲していくと、裸の失権効説その1に限りなく近づくことになる。

[9] 中西正「既判力・執行力の主観的範囲の拡張についての覚え書き」伊藤滋夫先生喜寿っ記念・要件事実・事実認定論と基礎法学の新たな展開(2009)620頁以下。

[10] 山本(克)・前掲注(1)1005頁

[11] 山本(克)・前掲注(1)1013頁。

[12] 山本(弘)・前掲注(1)707頁。