法律解釈の手筋

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一橋ロー入試 平成29年度(2017年度) 刑事訴訟法 解答例

解答例

 

第1 設問1

 1 本件では、身体検査令状(218条1項)によって、本件ATMにAを連行した上で、Aを本件ATMの前に佇立させてビデオカメラで撮影すること(以下「本件撮影」という。)ができると考える。

 (1) 検証とは、特定の場所や物や人の身体の性質・状態等を五官の作用で認識する活動をいう。そして、検証の対象が人の身体の状態である場合、これを特に身体検査という。

    本件では、Kは、本件撮影によって、Aの画像と犯人の画像を対比し、身長やその他体系など身体的特徴の一致の有無を確認しようとするものである。これは、Aの身体の状態を認識する活動であるといえる。

    したがって、本件撮影は検証たる性質を有する。

 (2) 確かに、本件撮影は、住居内にいるAを撮影する場合とは異なり、公共の空間という、人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所における撮影である点で、重要な権利・利益たるプライバシー侵害が認められず、強制処分にあたらないとも思える。

    しかし、本件撮影は、Aの意思に反してAを本件ATMまで連行しなければ行うことが不可能であり、付随的処分において、強制的手段を用いることが不可欠である。したがって、このような場合には、本体である撮影行為も強制処分たる性質を有すると考える。

 2 それでは、Kは検査令状によって、本件ATMにAを連行することまで認められるのかが問題となる。

 (1) 参考判例2は、身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができ、その際、必要最小限度の有形力を行使することができるものする。その理由は、令状裁判官は、連行の当否を含めて審査し、右令状を発付したものとみられるからであるとする。

    そうだとすれば、当該強制処分を行うために必要不可欠な付随的強制処分については、必要最小限度で行使することが令状の効力によって認められると考える。

 (2) 本件では、Kは、Aを本件ATMまで連行しなければ、本件撮影の目的を達することができない。

 (3) したがって、上記身体検査令状によって、Aの本件ATMまでの連行も認められる。

 3 もっとも、本件撮影は、通常想定されている身体検査とは、その性質が異なる。また、身体検査として許容される、衣服内部の検査が不要である。そうだとすれば、参考判例1が強制採尿処分について行うことのできる処分権限の範囲を条件記載によって限定したように、本件身体検査令状の権限の範囲を明確にすべく、本件撮影に必要な限度と認められる方法によって行わなければならない旨の条件の記載が不可欠であると考える。

第2 設問2

 1 裁判官が令状執行時の条件や執行時にとりうる措置を令状に明記することは、捜査の権限の範囲を明確にし、又はその範囲を限定する意義があり、その限りで明記が認められると考える。

 2 参考判例1は、強制採尿手続は、捜索・差押えの性質を有すると解する一方で、被疑者の人権侵害を考慮し、その範囲を限定するために、条件の記載が不可欠であるとした。これは、捜査機関の捜査の範囲を限定するためになされるものであり、かかる記載が不可欠であるとされている以上、強制採尿処分の適法性を認めるために必要な記載である。かかる明記が正当化される理由は、強制処分を行うとしても、その人権侵害は必要最小限であるべき、という比例原則によるものであると考える。

 3 参考判例2は、前述のとおり、令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することを認める。かかる付随的強制処分が認められる理由は、令状裁判官の事前審査が及んでいる点にある。令状の効力が及んでいる以上、「必要な処分」(222条1項、111条1項、129条)として許される処分であり、令状に特別の記載がなくても許される。

以上